第百十三話 晩餐会の終わり
「ふう、終わったか・・・」
俺の前にベルゼブブはもういない。全身を包み込む光はレベルアップしたということを知らせてくれていた。
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~ジークフリード~
★ステータス★
レベル:470
生命:8100
体力:9999
筋力:9999
耐久:9150
魔力:9999
魔攻:6860
魔防:6400
器用:3500
敏捷:7200
精神:1400
幸運:-6200
★固有スキル★
・超力乱神
筋力を+5000する。
・全属性適性
全属性の魔力を扱えるようになる。
・状態異常無効化
全状態異常を無効化する。
・超不幸
幸運-6200
・能力透視
相手のステータスを見る事が出来る。
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ふむ、結構強くなったな。
それに幸運も-6200になってる、やったね。
「あ、ご、ご主人様・・・」
そんなことを思っていた時、背後から小さな声が聞こえた。
「はは、終わったぞ」
「・・・」
「いやー、疲れたな。帰ったら劇の練習もしなきゃならねーし」
「・・・どうして」
「ん?」
「どうして、怒らないのですか・・・?」
俯きながらシルフィがそう言う。よく見れば僅かに肩が震えていた。
「まあ、こんなの可愛い家出みたいなもんだ。誰もシルフィのことを責めたりなんかしないよ」
「でも、私のせいでご主人様は怪我しましたッ!!」
顔を上げた彼女の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちている。
「結局、私はご主人様に守ってもらうことしか出来ませんでした!!いつまで経っても恩返しをすることが出来なくて・・・!!」
「シルフィ・・・」
恩返し・・・ねえ。
「そんなもん、とっくにしてもらってる」
「え・・・」
俺はシルフィの頭を撫でながら、これまでの生活を思い出した。
「洗濯や料理、風呂洗いに買い物、俺がやるって言っても最後はシルフィやってくれる。それも恩返しのつもりなんだろうけど・・・」
いつも笑顔で世話を焼いてくれて、いつしか彼女が居てくれることが当たり前に思えていて。
「俺の家族でいてくれること、それだけで十分だ」
「っ、うう、うわあああああん!!」
震える小さな身体を抱き寄せる。すると彼女はこれまで溜め込んでいたものを一気に吐き出すように泣き始めた。
「・・・さて、帰るか」
シルフィを安心させようと思ってカッコつけてみたけど、魔力がすっからかんでフラフラなことは黙っておこう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「よう、戻ったぞ」
「ジークさん、シルフィちゃんも。良かった、無事でしたか・・・」
その後、王都に戻った俺達は、心配そうに待っていたシオン達のもとに向かった。
そして、みんなに抱きつかれたり撫でられたりして、また泣きそうになっているシルフィを少し離れた場所から俺は見つめる。
「ふっ、お疲れだったな、ジーク」
「そっちこそ、イツキさん」
そんな時、頭に包帯を巻いたイツキさんが俺のところに歩いてきた。
「シオン達と一緒に戦ってくれたらしいですね。ほんとにありがとうございます」
「ふん、当然のことをしたまでだ」
帰ってきた時にエステリーナから飢餓の魔物との戦いの結果は聞いている。レヴィとルシフェルは西から迫る魔物を全滅させ、シオン達は現れた巨大な鳥をなんとか撃退したらしい。
「イツキさんが居なかったらどうなってたか分からないってエステリーナが言ってましたよ」
「おおお、妹にそんなことを言われるとは」
嬉しそうにうんうん頷くイツキさん。相変わらずエステリーナのこと大好きだなこの人は。
「ジーク、お疲れぇ!!」
「おっと!?」
そして、再びシルフィ達のほうに顔を向けた瞬間にレヴィが俺の頭に飛びついてきた。
「ちゃんとベルゼブブを倒してきたんだね!えらいえらい」
「ちょ、胸が顔に・・・」
こいつ、ちょっとぐらい恥らえよまじで。
「さっき、とんでもない魔力を感じたけど、あれってジークの魔力だよね?」
「んー、多分そうだな」
ベルゼブブを消し飛ばした時のやつだろう。あれは自分でもやばいと思った。
「あ、こんな所に居たのね」
「リリスさん?」
そんな時、向こうからリリスさんが歩いてきた。
「みんな、お疲れ様。ジーク君は無事に魔神を倒したみたいね」
「ええ、なんとか」
「君が居てくれるおかげで今日も王都は平和だわぁ」
「どこがですか」
まさに今日危機を迎えたばっかでしょうが。
「で、何か用でも?」
「ふふ、君に最高のお知らせよ」
「え?」
とりあえずレヴィを地面に下ろし、俺はリリスさんが何を言うのか考えた。
最高のお知らせってことは、飯食い放題券が貰えるとか?
「なんと、予定を早めて明日劇をすることになりました!」
「おおー、そりゃすご・・・はい?」
今なんと?
「今回の事件でまた復旧作業をしなきゃならないでしょ。だからチャッチャとやっちゃいましょうって感じかしら」
「はあああ!?」
殆ど練習出来てない状態で本番が明日だと!?
「あはは、その場のノリでやるしかないね」
「終わった」
それでドン引きされるのだけは、勘弁だぜまじで。
「大丈夫、きっと素敵なことも起きるわよ」
「そうだといいんですけどねぇ・・・」
素敵なことが起きる。
この時、俺は向こうからシルフィに見つめられている事も、彼女の表情がいつもと違って何かを決意した表情になっていることにも気付いていなかった。




