第百十一話 圧倒的な戦い
「あ、あははは・・・。こんなに早く君が来るとは思わなかったよ、ジークフリードッ!!」
血を吐きながらそう言うベルゼブブ。俺はシルフィを守るように立ちながら奴を見つめた。
「僕が創り出したこの森の迷宮は、そう簡単に突破出来ないはずなんだけどなぁ」
「あ?普通に走ってたら着いたんだけど」
「は?」
「王都を出てからここまで10分くらいかね」
途中で襲いかかってきた魔物達は、俺に衝突した瞬間に死んだ。
「ま、それは別にどうでもいいだろ。そんなことより」
「ん?」
「お前、シルフィに何した?」
俺の身体から放たれた魔力がベルゼブブのどす黒い魔力とぶつかり合う。
「は、はははは、凄い魔力と闘気だ・・・!」
「何したって言ってんだ」
「教える理由がないね!!」
そう言ってベルゼブブがものすごい速度で動き出した。そして俺を押し潰すかのように上下左右から黒い拳が迫る。
「遅い」
「え───ぐがっ!?」
しかし俺のほうが速い。
地面を蹴ってベルゼブブに向かって跳躍し、俺は無防備な腹を殴って吹っ飛ばした。
「ぐぅっ!!」
「ほら、立てよ。手加減してやったんだから」
「アハハハハハハハハッ!!最ッ高だ!!!」
辺りの空気が変わった。こいつ、魔法を使うつもりだな。
「なら、本気でやろうか!!《悪魔の晩餐》!!」
「っ!」
ベルゼブブが魔力を解き放つ。それと同時に俺を取り囲むようにして魔物達が現れた。
「そいつらは、僕の魔力で生みだした飢餓の魔物さ!」
「へぇ、それで?」
「は?え、ちょ・・・」
くだらん魔法だ。全滅させるまでに二秒もかからなかったな。
「なら、《死を誘う地獄の手》!!」
突然地面から大量の腕が飛び出してきた。それらは俺の身体の様々な箇所を掴むと、凄まじい力で下に引っ張り始める。
「地面に引き摺りこもうってか」
悪いが、地面に潜る趣味はない。
「消えろ」
俺が全身から魔力を放つと、全ての腕が消し飛んだ。
「ぐっ、馬鹿な・・・!!」
「その程度かよベルゼブブ」
「舐めるなよッ!!」
ベルゼブブが高く跳躍した。そして勢いよく地面を殴りつける。
「っと・・・!」
衝撃で地面は砕け、木々は吹き飛ぶ。なかなかの破壊力・・・まともに食らうのは避けたほうがよさそうだ。
「君も美味しそうだよねぇッ!!」
「やめとけ、変な味しても知らねーぞ」
「絶対喰う!!!」
奴の背中から生える黒い腕の先端が、まるで魔物の顔のように形を変えた。そして一斉に襲いかかってくる。
「あっはっはぁ!!」
「めんどくせえ」
そろそろ全力で潰すか。
「ほらほらぁ、反撃ぐらいして────」
「もうしてる」
ベルゼブブの右腕が変な方向に曲がった。俺がへし折ったからだ。
「ぐぅ!?」
「遅いんだよ、お前」
俺から距離をとり、ベルゼブブが腕に魔力を集め始める。
ほんと魔神ってのは再生能力が高いな。
「ぐ、クククク・・・。どうして殺さない」
「あ?」
「何故腕を狙った?首を狙っていたら確実に殺せていただろう?」
ふーん、実力差は分かってるみたいだな。なら教えてやるか。
「お前を殺すことは確定してんだよ」
「え・・・?」
全身から魔力を放ちながら、俺はベルゼブブに向かって歩を進める。
「こう見えても俺、過去最高クラスにイラついてんだ。お前の勝手な都合で色んな人を巻き込んで・・・そしてなにより、俺の家族に手を出した」
「ッ・・・!」
「楽に死ねると思うなよ、魔神ベルゼブブ」
地面を蹴り、一瞬でベルゼブブの眼前に移動───そして無防備な奴の腹を俺の拳が貫通する。
「がぶあっ────」
「おらあああ!!!」
さらに俺は歪んだ顔面に頭突きした。衝撃でベルゼブブの鼻の骨がへし折れる。
「ぐ、ゴホッ・・・!」
「どうした?反撃ぐらいしてこいよ」
「があああ!!《死を誘う魔の手》!!!」
傷を癒したベルゼブブが魔法を発動し、地面から飛び出してきた大量の腕が俺の身体をガッチリと掴んだ。
「いいだろう、君は最高の形のまま喰ってやる!!!」
「っ・・・」
凄まじい魔力がベルゼブブの身体から溢れ出す。
どうやら〝切り札〟を使うみたいだ。
「晩餐会のぉ、邪魔をするなぁぁぁぁ!!!」
来る・・・奴の禁忌魔法が!
「《神をも喰らう暴食の口》!!!」
次の瞬間、ベルゼブブを中心として凄まじい速度で全方位に黒い波動が放たれた。触れれば確実に死ぬ・・・全てを喰らう最悪の魔法だ。
「っ─────」
「君の負けだ、ジークフリード!!」
やがてベルゼブブの禁忌魔法は、造り出された巨大な森の迷宮全てを消し去った。




