第百七話 目には目を
「《魔力サーチ》!!」
王都西にあるノルティア草原で、レヴィは覚えている魔力の持ち主が何処に居るのか探る魔法を発動した。
「・・・見つけた。ここからそんなに遠くない場所にいるね」
何故そんなことをしているのか。
理由は簡単、魔神ベルゼブブを見つけ出すためだ。
「ほ、ほんとにジークさんに黙っていくの?」
「うん、今ジークはシルフィと一緒に居るし、ボク達だけでベルゼブブを倒そう」
「うーん・・・」
もう何を言っても意味がないだろうと思ったルシフェルは、レヴィと二人でベルゼブブが居る場所に向かうことにした。
「それじゃ、いっくよー!!」
そして、レヴィは全力で駆け出し、ルシフェルは漆黒の翼を羽ばたかせて彼女のあとを追った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
本気で戦った。
それなのに魔力を吸収されるだけで何も出来なかった。
ベルフェゴールとの戦いで嫉妬の魔力を完全にコントロール出来るようになったレヴィだが、その力が通用しなかった事がどうしても許せない。
「・・・いや、本気じゃないか」
そう、相手は街が壊れる事など全く気にすることなく戦えていたが、レヴィ達は建物への被害を最小限に抑える戦い方をしていた。
さらに、それはベルゼブブにも言えることだがレヴィは使っていない。
「けど、こっちなら遠慮なく戦えるもんね」
レヴィの目にその男が映り込む。まるで二人が来ることが分かっていたかのように笑みを浮かべながら立っている魔神ベルゼブブが。
「いくよ、ルシフェル!」
「うん、レヴィちゃん!」
人間ではとても目で追う事など不可能な速度で、二人は男に襲いかかった。
「はあああっ!!」
ルシフェルがベルゼブブに剣を振り下ろすが、突如ベルゼブブの背中から生えてきた黒い腕に受け止められる。
「まさか君達がここに来るとはね。僕に何か用かな?」
「貴方はここで倒す!!」
一旦距離をとり、再びルシフェルはベルゼブブに斬りかかった。
「何故貴方はここにいたの!?」
「あはは、ここがいい場所だったからさ」
「何を────」
ルシフェルの頬を黒い腕が掠める。それだけで血が流れた。
「くっ、《神気功弾》!!」
「馬鹿だね」
再び距離をとったルシフェルは、光属性の魔法を放つ。しかしそれはベルゼブブの黒い腕に吸収された。
「だから無駄だって。君達が魔法を使えば使う程僕は強くなるんだから」
「それはどうかな?」
ルシフェルが剣に魔力を集める。
すると剣はバチバチと音を立てて輝き始めた。
「それも僕の力になるんだ」
「受け止める事が出来たらね」
そして、ルシフェルは剣の切っ先をベルゼブブに向け、
「《神速郷》」
「え────」
黒い腕を動かす前に一瞬でベルゼブブの前に移動し、胸を貫いた。
「がっ・・・!?」
「遅いね。それじゃあ防げないよ」
ベルゼブブが血を吐きながら胸から剣を引き抜く。そしてヨロリと後ずさった。
「・・・何をした?」
「《神速郷》。この魔法を発動している間、誰も私の動きについてくることは出来ない」
恐ろしい魔法だ。ただでさえ速いルシフェルが、さらに速くなるというのだから。
「・・・凄い魔法だ。けど、魔力消費量が多いみたいだね。それに筋力もかなり落ちているんじゃない?」
「そこまで分かるなんてね」
そう、ルシフェルの魔法 《神速郷》は、自身の筋力、耐久などを大幅に減少させて敏捷を上昇させるという魔法だ。
「だから、僕に本気で殴られたら簡単に骨が折れちゃうってことかな」
「ふふ、何を言ってるの?」
ルシフェルがにこりと微笑む。
次の瞬間には、ベルゼブブの全身は切り刻まれていた。
「っ!?」
「今の私に触れる事が出来ると思った?」
即座にベルゼブブは魔力を傷口に集めて再生させる。
黒い腕を頭の周りに固めているため顔面が狙われることは無いが、それでもかなりのダメージを負ってしまった。
「うーん、厄介だね」
「降参する?」
「それは遠慮しとくよ。だってもうすぐその魔法の効果切れるだろうし」
既にルシフェルの魔力は半分まで減っている。ここを耐えれば必ず勝てるとベルゼブブは確信した。
「ほら、おいでよ。どんどん攻撃してきていいんだよ」
「言われなくてもね!!」
再びルシフェルの攻撃が始まる。魔神ですら目で追えない速度でルシフェルはベルゼブブを何度も斬る。
しかしその度にベルゼブブは傷口を回復させた。
「・・・あれ?」
そこでベルゼブブはあることに気がつく。
「レヴィアタンはどこに行った?」
「あ、バレちゃったか」
ベルゼブブが周囲を見渡し始めたのを見てルシフェルは魔法を解いた。
「っ、まさか」
「ルシフェル、いくよーーー!!!」
レヴィが居たのは遥か上空。腕を掲げてベルゼブブ達を見下ろしていた。
「禁忌魔法・・・!!」
自然とベルゼブブの口角が上がる。レヴィは既に禁忌魔法を放つ体勢に入っていた。
「ルシフェルとベルゼブブが戦ってる間に、いつもより魔力を込めれたよ」
そう、レヴィは禁忌魔法に魔力を込め続けていた。
いつもならそんな時間は無いが、今回はルシフェルの時間稼ぎのおかげでそれに成功したのだ。
「だから、破壊力は二倍ぐらいかなっ!」
「アハハハハハハ、いいね、最高だよ!!」
雲が渦巻き、雷が鳴り響く。
「さあ、撃ってこい!!僕が全て喰らってやろう!!」
「《嫉妬する災厄の権化》!!!」
そして、禁忌魔法が放たれた。
天を割って全身が渦巻く超巨大な龍が現れる。
「終わりだよ、ベルゼブブ!!」
まさに災厄。レヴィの禁忌魔法は、この辺り一帯を跡形も無く消し飛ばした。
そう思った時。
「アーーーーハッハッハッハッハ!!!!」
「っ!?」
突然レヴィの禁忌魔法は消滅した。
「な、なんで・・・」
信じられない光景にレヴィは動揺する。あらゆるものを破壊する最強の魔法が突然消えたのだ。
「いやぁ、こんなに美味しい魔力を食べたのは初めてだよ!!最高だ!!アハハハハハハ!!!」
「まさか・・・禁忌魔法を吸収したの!?」
先程までとは違い、ベルゼブブの身体からは尋常ではない魔力が溢れ出ている。
「流石にあれを受けると僕も死んじゃうからねぇ。目には目を、歯には歯を・・・だよ」
「き、禁忌魔法っ・・・!?」
「《神をも喰らう暴食の口》。発動時間は短いけど、あらゆる魔法を喰らう禁忌魔法さ」
それを聞いてレヴィとルシフェルは戦慄した。
禁忌魔法を喰らう禁忌魔法。つまりこの男に禁忌魔法は通用しない。
「魔神ルシフェル・・・君が最初に僕の首を狙っていたら、僕は負けていたかもしれないねぇ」
「ぐっ・・・」
確かにそのとおりだった。しかし、そこで彼女の優しさが出てしまったのだろう。
「それじゃあやろうか。そろそろ僕も本気を────」
「レヴィちゃん、一旦退くよ!!」
「あれ?」
大量の魔力を吸収したベルゼブブが奇妙な笑みを浮かべたのを見て、ルシフェルは呆然としているレヴィの服を掴んでその場から飛び去った。
「あちゃー、逃げられたか」
猛スピードで飛んでいくルシフェルをベルゼブブは追わない。
「まあいいか。そろそろ始めよう、晩餐会を」




