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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
グラトニーディナー〜妖精少女と晩餐会〜
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第百二話 飢餓

家が燃える、村が燃える、森が燃える、人が燃える。


なんで私はこんな場所に居るんだろう。


みんなは?お父さんは?お母さんは?

どこに行ったの?




『あー、美味しかった。ご馳走様』


ああ、そうか。

みんなその中(・・・)に居るんだね。









◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








「シルフィ!!」

「っ・・・!!」


突然意識が覚醒し、シルフィは勢いよく上体を起こした。


「ご、ご主人様・・・?」

「良かった、心配したぞ」


ベッドの隣には、ほっと息をつくジークが座っている。


「はぁ、はぁ・・・」

「大丈夫か?」


シルフィの身体からは、大量の汗が流れ落ちている。それを見たジークは一度部屋を出ると、タオルを持って戻ってきた。


「ほら、じっとしてな」

「も、申し訳ございません・・・」


顔や腕をジークに拭いてもらいながら、シルフィは先程見た夢を思い出す。


炎に包まれる森の中、得体の知れない存在を見つめる自分が一人で立っていた。


「う、うぅ・・・」


あれはなんだったのだろうか。それを考えるだけで彼女の身体はガタガタと震え始める。


「熱が出てるかもしれないな。今日はゆっくり休んだほうがいい」

「そ、そんな、あと6日しかないのに・・・劇の練習をしないと」

「馬鹿。無理して余計に体調が悪くなったらどうするんだ」


そう言われ、シルフィは俯く。確かにそのとおりであるし、体調の悪い自分が練習に参加したところで邪魔なだけだと思ったからだ。


「本当に、申し訳ございません・・・」

「別に謝る必要はないって。誰だって体調ぐらい崩す。だからとりあえず体調が良くなるまで寝てなさい」

「ご主人様・・・」


確かに、これ以上体調が悪化したらジークに熱が伝染ると思ったシルフィは、大人しく寝ることを選び、横になった。


「・・・ご主人様?」

「ん?」

「どうして部屋を出ないのですか・・・?」

「いや、シルフィが寝れるまでここに居ようと思ったからだけど」


それを聞いて、シルフィの頬は赤く染まった。それは別に熱のせいではない。


「早く元気になってくれよな。おやすみ、シルフィ」

「・・・おやすみなさい、ご主人様」


本当に優しいお方だと、シルフィは涙が出そうになったのを必死に堪えて目を瞑った。





それからどれ程の時間か経っただろうか。

激しい頭痛と言い知れぬ恐怖に襲われ、シルフィはなかなか寝ることが出来ない。


再び全身から汗が吹き出てくる中、彼女はゆっくり目を開けた。


「・・・ぁ」


隣を見れば、椅子に座った状態で眠るジークがいる。おそらく自分が目を瞑ってからも、ずっとそこに居たのだろう。


「うぅ・・・」


頭が痛い。

おそらくあの夢を見たからだとは思うが、一体何故ここまで体調を崩してしまったのだろうか。


「・・・あれ?」


そこでシルフィはあること思い出した。


あの光景を、自分はどこかで見た事がある・・・。


「森・・・家・・・炎・・・」


自分の記憶の奥底を探るが、あれが何処でどういう状況だったのか・・・それが思い出せない。


「人・・・お母さん・・・・・・お母さん?」


彼女は思う。あの夢の中で、自分は何をしていたのだろうと。

自分の母と父は何処にいるのだろうと。


「・・・そうだ、10歳の時に、私は・・・」


今から5年前、彼女は故郷を失った。

それは分かっているが、何が理由で自分が一人になったのかが分からない。


人間に捕まって奴隷にされる前、一体何があったというのか。

そんなことを、彼女はこれまで考えたことも無かった。


「っ・・・」


その時、何か嫌な予感がして、彼女は窓に顔を向けた。


何かが起こるような、そんな気がする。

もう、自分が愛する主人と過ごせる日々は少ない・・・そんな気がする。


「怖い・・・」


彼女の呟きは誰にも聞こえることはなく。

ソレはすぐそこまで迫っていた。








◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆








「不味い」

「ひ、ひぇああがあ」

「不味い」

「や、やめてぐれっ」

「不味い不味い不味い」


どうしてこんなに不味いんだろう。


「この前食べた人達はそれなりに美味しかったんだけどなぁ」


と言いながらも、結局この人間達も全部食べてしまうけど。


「な、なんなんだよお前はァっ・・・!!」

「んー、僕?」


まだ数人生き残りがいたかぁ。

めんどくさいから一気に食べてしまおう。


「げぁ──────」

「ぎゃああっ!!!」


僕の口は一つではない。

どれだけ食材が群がってこようと、その全てを喰らうことが出来る。


「ふう、ご馳走様」


それにしても、本当に不味かった。前に食べたエルフ族(・・・・)は美味しかったなぁ。もう一度食べてみたい。


「・・・確か、ローレリア王国・・・だったかな?」


ここからそう遠くない場所にある国。そこでたまたま見つけた、人間とは違う耳の長い種族。見た瞬間に食欲が刺激され、手当り次第に腹に入れたっけ。


「うーん、どんな料理があるのか楽しみだなぁ」


決めた、次はローレリア王国を喰おう。

目的が決まった途端に腹が鳴り、自然と僕の口元は弧を描いて表情は歪んだ。



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