第九十五話 最凶の二人
「ジーク、大丈夫かなぁ」
「心配する必要なんて無いわよ。アタシ達はこっちに集中しないと」
ジークが大魔城に突入したのを見送り、レヴィとアスモデウスは再び魔物の大群に視線を向けた。
「サクッと片付けようか」
「二分あれば終わるでしょ」
そして二人は同時に駆け出した。
「さーて、色欲の魔法で魅了してあげる」
意地悪な笑みを浮かべたアスモデウスがそう言って魔法を発動した。
「《幻影魔領》!!」
アスモデウスの周囲にいた魔物達の動きが止まる。この魔法を受けた者はアスモデウスが生み出した幻覚を見てしまう。
そしてその幻覚は、アスモデウスが一つ一つその魔物の記憶から引っ張り出して生み出したものだ。
「ア、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
「来るなぁ、来るなぁぁぁぁぁ!!!」
中にはトラウマのシーンを掘り起こされた者もいることだろう。
「受けよ、《甘美なる色欲の支配》!!」
さらにアスモデウスは禁忌魔法を発動した。その魔法を受けてアスモデウスを取り囲んでいた魔物全員の動きが止まる。
「さぁ、命令よ。《跪いて死になさい》」
それを聞いた瞬間、魔物達はアスモデウスに対してどんな感情を抱いたのだろうか。
それは誰にも分かることなく、悪魔の前で魔物達は自分自身を抹殺した。
「うーん、動きがなってないなぁ。20点」
「死ねぇぇ!!」
「君も正面から突っ込んできても勝ち目ないって。12点」
アスモデウスがいる場所から少し離れ、レヴィは一切触れられることなく魔物達を相手にしていた。
「ボクまだ魔法使ってないんだよー?」
「舐めんなガキ!!」
「あはは、遅い遅ーい」
攻撃が当たったと思った時には既にその場にレヴィは居ない。プライドが傷付けられてイラつく魔物達だが、まだ誰も気が付いていない。まるで遊ぶかのように魔物達を挑発する少女によって、着実に一箇所へと集められているということに。
「よし、いい感じに集まったかな」
「あぁ?何言ってやがる!!」
「一瞬で終わらしちゃうと、君達も可哀想だからね」
そこで魔物達は、自分達が四方八方水の壁の中に閉じ込められていることに気が付いた。
「な、なんだこりゃあがああああ!?」
水の壁に突っ込んだ手が消え、魔物は叫んだ。
「触れないほうがいいよ?だってそれ、ジークにもダメージ与えられるから」
そう言ったレヴィを見て、魔物達は戦慄する。一切の慈悲も無い、悪意に満ちた笑顔。
「う、うああああ・・・」
水の壁は、少しずつ魔物達に迫っていた。
おそらく飛んで逃げようとした者はレヴィによって殺されることだろう。自分達をここに閉じ込めて楽しんでいる。
それが分かり、魔物達は完全に戦意を喪失した。
「こ、この悪魔めえええ!!」
一体の魔物がレヴィに向かってそう叫んだ。それを聞いてレヴィはさらに笑みを深める。
「悪魔だよ?だって魔神だしね。それがボクらなんだから何も不自然なことは無いよ。まあ、最近はジークのおかげで人間の良さが分かってきたから、人間は殺さないけど・・・君たち魔族じゃない?だから別に殺す事に抵抗を感じないっていうか」
「う、あ、やめろ・・・」
「そうだ、もっと絶望与えてみようかな。顕現せよ、《嫉妬する災厄の権化》」
「やめてくれぇ・・・」
「ねえねえ、ミンチにされるか喰われるか、どっちがいい?」
魔神レヴィアタン。まるで籠の中で死を待つ鳥達を弄んで楽しむ、少女の姿をした悪夢だ。
「って言ってたら飽きてきたかも。もういいや、バイバーイ」
「やめ─────」
ここで禁忌魔法を放つことは魔力の無駄だと思ったのか、レヴィは水の壁が動く速度を上げ、中にいる魔物達全てを引き裂いた。
「・・・えげつないわね、あんたも」
「あはは、アスモデウスに言われたくないなぁ」
こうして、天界を滅ぼすために集められた屈強な魔物達は、たった二人の少女の手によって全滅した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
傲慢の大魔城最上階。
何処からかピアノの音が聞こえてくる・・・それだけで俺には分かった。この先にルシフェルがいると。
「止まれ」
「あ?」
そんな時、俺の前に男が立ちはだかった。
「狼男・・・?」
「そのとおり、俺はウルフマン。ルシフェル様のとこには行かせねえ」
「ああそうかい。なら遠慮なく叩き潰してやるよ」
「ほざけ─────」
ウルフマンの姿が消える。それと同時に俺の腹部に衝撃がはしった。
「どうした、そんなものかぁ!!」
「まだ動いてねーよ」
「トドメだ!!」
鋭い爪が顔面に迫る。しかし俺は落ち着いてウルフマンを見つめた。
レベルは180か。てことはどこぞの変態吸血鬼と同じぐらいの強さってことだ。
「ま、よーするにたいした事ないってこった」
「・・・は?」
俺があっさりと爪を受け止めたことが不思議なのか、ウルフマンは目をぱちくりさせながらフリーズした。
「最期によく聞けウルフマン」
「え────」
「お前、名前がそのまんま過ぎ」
そう伝え、俺はウルフマンの顔面を殴って吹っ飛ばす。そのまま彼は壁に激突し、二度と動くことはなくなった。
「さぁて」
おそらくこいつがアビスカリバーを守る直属の部下的なやつなんだろう。そして聞こえて来るピアノの旋律。
俺の前には大きな扉が。この先に、間違いなくやつがいる。
「これが最後の戦いだぜ、アビスカリバー」
覚悟を決め、俺は扉を開いた。




