第九十一話 ジークフリード復活
「おらぁっ!!」
飛び掛ってきたゴブリンを殴り飛ばす。そしてそのまま背後から迫っていた猪みたいなやつを回し蹴りで吹っ飛ばした。
「ふぅ、片付いたか」
「ごめんね、巻き込んじゃって・・・」
「気にすんなって。それにしても、こうやって定期的に魔物が出てくるけど、いつから一人で戦ってたんだ?」
「うーん、多分一年前ぐらいかな」
まじか。そんだけ長い期間戦い続けられるって・・・。
「やっぱ助けてやんねーとなぁ」
「え?」
「魔剣の勝手な都合で苦しんでるルシフェルを、こんな場所にずつと居させるわけにはいかねーよって思ってな」
「ジークさん・・・」
でも、どうしたもんか。
助けてやりたいけどここは精神世界のような場所。俺がここにいる理由がまず謎だが、ここからどうやって連れ出せばいーんだろうか。
「ふふ、ジークさんは優しいね」
「そうか?」
「私、今は魔族になっちゃってるけど、魔族を助けるなんて言う人が居るとは思わなかったよ」
そう言って微笑むルシフェル。本当に天使だったんだなぁと思わされるぐらいのエンジェルスマイルだ。
「・・・?どうかしましたか?」
「いや、なんでも」
思わず顔をじっと見つめ過ぎた。
「っ、また来たね」
そんな時に、突然ルシフェルが向こうを見ながらそう言う。
「ほんとだ・・・って、めちゃくちゃいるぞ」
「この数、これまでで一番多いかも」
周りを見れば、いつの間にか魔物の大群に包囲されていた。
「とっとと片付けるか」
「うん、ありがとう」
そして、ルシフェルが翼を羽ばたかせて魔物の群れに突っ込んでいった。相変わらず速いなおい。
「・・・そういや、あいつのステータス確認してなかったな」
そう思って俺は向こうで無双しているルシフェルを見つめた。
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~ルシフェル・オラトリオ~
★ステータス★
レベル:340
生命:7000
体力:4800
筋力:7600
耐久:5400
魔力:8000
魔攻:8000
魔防:3450
器用:700
敏捷:7200
精神:640
幸運:600
★固有スキル★
・光・闇属性魔力適性
光・闇属性を扱えるようになる。
★装備★
不明
不明
不明
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待て待て、これ魔神としてのステータスじゃなくて、素のルシフェルのステータスだよな?
普通に魔神と同じかそれ以上の強さじゃないか。
「なら、俺と戦った時のステータスはどんだけ高かったんだろ」
相手の耐久・・・つまり防御力を無視するというとんでもない攻撃、本気で殴りかかったのにそれを躱せるスピード。
もう一回戦うのは嫌な相手だ。
「それにしても・・・」
思わず見惚れてしまうほど華麗な動きだな。振るってる剣は聖剣とかそんな感じのものだろうか。
「ジークさん、上から来るよ!!」
「え・・・おっと」
ルシフェルにそう言われて上を向くと、巨大な鳥みたいなやつが猛スピードで突っ込んできた。
「めんどくせ─────」
そんな鳥の魔物を俺が迎撃しようとした時、閃光が魔物を貫いた。
「・・・すげーな」
あっちであれだけの数を相手にしながら、こっちにいる奴まで倒しちまうとは。
「ま、俺も負けてられないか」
とりあえず全滅させちまうとしよう。
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「お疲れ様。怪我はない?」
「おう、そっちこそ大丈夫か?」
「無傷だよ」
あの後、それほど時間をかけることなく魔物達を全滅させることが出来た。といっても殆どルシフェルが片付けたんだけど。
「そろそろアビスカリバーも本気になってきてるんだね」
「ん?」
「天界に攻撃を仕掛けるまで残された時間は少ないってこと。早く私の精神を完全に乗っ取りたいから魔物の数も強さも増してきてるんだと思う」
「ふむ・・・」
なら、俺はどうすればいいんだろうか。この子を助けるためには何をすればいい?
「・・・ジークさん、そろそろお別れだね」
「え────」
ルシフェルがそう呟いたのとほぼ同時に、俺の身体が突然透け始めた。
「え、俺成仏すんの!?」
「あはは、違うよ。魂が肉体に戻ろうとしてる。誰かが頑張ってくれたんだね」
「誰かが・・・?」
それって、シオン達だろうか。
「てか、魂が肉体に戻るって・・・」
「多分ジークさんは眠ってる状態なんだと思う。でも魂が肉体に戻れば目を覚ますことが出来るよ」
「ちょっと待った!それじゃあルシフェルは」
「大丈夫、心配しないで。それよりジークさんのことを心配してくれてる仲間達に、ちゃんとお礼を言わなきゃ駄目だよ?」
「・・・分かってる」
シオン達のいる場所に戻れるのは確かに嬉しい。でも、そうなったらルシフェルはまた一人で戦わなきゃならない。
────なら。
「ルシフェル」
「はい」
目を覚ましてからやる事は決まった。
「絶対助けてやるから、待っててくれ」
「っ・・・」
だんだん視界がボヤけていく。それでも俺はルシフェルの泣きそうになった顔をしっかりと見た。
彼女だって助けて欲しいに決まっている。だったら、なんとしてでも彼女を魔剣から解放してみせる─────
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「─────っ」
薄く目を開けた瞬間、俺の周りに何人かの人間がいることが分かった。なるほど、ルシフェルが言ってたとおり・・・。
「・・・よぉ」
「じ、ジークさん・・・」
横に顔を向ければ、涙を流すシオンと目が合った。
「何をしてくれたのかは知らないけど、ありがとな」
「ジークさん!!」
「っと・・・」
突然シオンが抱きついてきた。一応俺怪我人なんじゃなかったっけ?
「ジークぅ!!」
「ご主人様!!」
「ちょ、ぐえっ!!」
シオンに続いてレヴィとシルフィまで抱きついてくる。まって、何このハーレム。
「もう、心配したんだからぁ!!」
「・・・わり、もう大丈夫だから。シルフィも心配かけたみたいだな」
「本当に、良かったですぅぅ」
この反応・・・、相当やばい怪我だったみたいだな。確かに死ぬって思ったし。
でもなんで痛みがないんだろ。
「ほら、あんたもいっちゃなさいよ」
「いや、私は、その・・・」
そんな声が聞こえたので顔を向けると、部屋の端で俯くエステリーナとなんかニヤニヤしてるリリスさんが居た。
「まったく、恥ずかしがんなよ!」
「あっ・・・」
そして、リリスさんがエステリーナを俺の横まで押してきた。そして椅子に座らせる。
「よっと、なんか色々と迷惑かけたみたいだな」
「ぁ・・・」
とりあえず俺はシオン達ごと上体を起こして俯くエステリーナの頭を撫でた。こういう時何をしたらいいのか分からないもので。
「心配したんだぞ・・・」
「ああ、ごめん。もう大丈夫だから」
「っ、うん」
よく見ればエステリーナも泣いていた。あーくそ、どうすりゃいいんだよこの状況。まさか皆に泣かれるとは思ってなかった。
「って、一人泣いてない人が居たか」
「あっはっはっは。まあ心配はしたわよ」
「そいつはどーも」
あんまそんな感じはしないけどな。
「んで、俺はシオン達が何かしてくれたんだと思ってるんですけど、その通りなんですか?」
「ええ、その通りよ」
そして、俺はリリスさんからシオン達がSSSクラス迷宮に行き、どんな傷でも癒す光の玉なるものを持って帰ってきて俺に飲ませたんだということを聞いて驚いた。
「SSSクラスって・・・」
「レヴィさんが居なかったら死んでました・・・」
「なんつーか、俺のために頑張ってくれたんだな」
ようやく泣き止んでくれたみんなを見渡す。
まだよく分からないけど、多分秘宝なるものの力が俺の魂を肉体に戻してくれたってことなんだろう。皆には感謝してもし切れないっていうか・・・。
「サンキューみんな」
「ふふ、当然のことをしたまでです」
「ご主人様のためですからっ!」
「ボクも頑張ったよぉ」
「本当に目を覚ましてくれて良かった」
ほんと、いい仲間達だ。いつか借りは返さないとな。
「っと、そうだった」
「どうかしました?」
「少し話を聞いてくれ・・・!」
皆となら、きっとあいつを助け出すことも出来るはずだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぁ、はぁ・・・!」
ジークが消えてから数分後、ルシフェルはとうとう膝をついた。
「くっ、もう・・・駄目なの・・・?」
とっくに限界は来ていたのだ。
しかし、彼の前で倒れるわけにはいかなかった。
「ごめんなさい、ジークさん・・・」
周りを見れば、おびただしい数の魔物の群れが彼女を包囲している。
「ごめんなさい・・・」
そして、そう呟いた直後、彼女の精神は闇に縛られた。




