プロローグ
俺は、昔から不幸を引き寄せる体質の持ち主だ。
財布が消える、ボールが頭に直撃する、溝にはまる、空き缶を踏んでバク宙などなど。
そんな俺は《ザ・不幸》などという理不尽極まりないあだ名で呼ばれていた。
なんだよザ・不幸って。もっといいあだ名あっただろ。
そして、様々な不幸が俺の中で弾け飛んだのかは知らないが、とうとうそれは起こってしまった。
そう、交通事故である。
突然歩道に突っ込んできたトラックに轢かれ、俺は死んでしまったのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・・・現在俺はよく分からん場所に立っている。ここはあれか、あの世ってとこか。
そして俺の目の前に立っているこの女の人は、閻魔大王とかそんな感じのやつだろうか。てか、なんだこの人。超美人なんですけど。
「・・・どうして人がここに」
「喋るんかい」
「しゃ、喋りますよ!」
綺麗な銀髪、そして感じる不思議な力は、彼女が普通の人ではないことを物語っている。一体何者だろうか。
「私はこの時空の狭間を管理する《狭間の女神》アルテリアスと申します」
「時空の狭間・・・?」
「はい、貴方の住んでいた世界、そしてもう一つの世界の間にある特殊な空間です」
ど、どういうことだ?
何を言ってるのかイマイチ分からんのだが・・・。
「ここに人が訪れたことなど一度もありません。どうやって貴方はここに・・・?」
「知らん。トラックに轢かれて気がついたらここにいた」
「・・・轢かれた衝撃で時空の壁を突き破ったのでしょうか」
「やばすぎだろ」
ということは、ここはあの世じゃないのか?あーもう、何がなんだが・・・。
「・・・ん?」
そういえばさっき、もう一つの世界・・・とか言ってなかったか?
「なあ、もう一つの世界ってなんだ?」
「貴方達の世界から見たら異世界と呼ばれる世界、《フォルティーナ》です」
異世界フォルティーナ・・・。
すげえ、そんな場所が。
「もしよかったらそっちの世界に転生させてあげることは可能なのですが・・・」
「まじかッ!?」
それは是非とも転生したい!
「あ、地球には戻れないのか?」
「はい、貴方はもう死んでいるので・・・」
「そっか」
残念だ。冷凍庫に入れてあったプレミアムバニラアイスは食べておきたかった。
「まあいいや、まだまだやりたいこといっぱいあるし、異世界に転生させてくれ」
「分かりました。でも、その前に貴方にレベルのステータスを与えておきましょう」
「レベル・・・?」
なんだそりゃ?向こうの世界じゃレベルで何か決めたりすんのか?
「実は、フォルティーナには魔法が存在するんです」
「ま、魔法!?」
なんと、魔法が存在するとは!空飛んだりできるのか!
「・・・魔法は、向こうで覚えてもらうとして、レベルやステータスが無いと、貴方は向こうの世界では生きていけませんから」
「お、おお、そうか」
地味に厳しいこと言うな、この女神様は。
まあいいや、とりあえずレベルとかを決めてもらおう。
「どんなレベルがいいですかねー」
アルテリアスは顎に手を当てて考え始めた。それからしばらく経ち、何かを思いついたようは表情で彼女はばっと顔を上げた。
「適当に決めちゃいましょう!」
「ええ、雑・・・」
「いきますよー、それ!」
アルテリアスがそう言った瞬間、俺の体が輝いた。それと同時に俺の中に何かが流れ込んでくる。
「う、おお・・・」
「はい、貴方にレベルとステータスを与えました。それらはいつでも確認出来るので、とりあえず頭の中でステータス表示と念じて見てください」
「ん、わかった」
よく分からんが、とりあえず頭の中でステータス表示を念じまくる。すると、頭の中に俺のステータスが浮かび上がった。
ーーーーーーーーーーーーー
~no name~
★ステータス★
レベル:400
生命:7000
体力:9999
筋力:9999
耐久:8000
魔力:9999
魔攻:6000
魔防:5000
器用:3000
敏捷:6000
精神:1000
幸運:-9999
★固有スキル★
・超力乱神
筋力を+5000する。
・全属性適性
全属性の魔力を扱えるようになる。
・状態異常無効化
全状態異常を無効化する。
・超不幸
幸運-9999
★装備★
学生服上下
普通の靴
ーーーーーーーーーーーーー
「まてまてまて、ステータスがおかしい」
「・・・とんでもない化け物が誕生してしまったようです。何個かカンストしてしまってますよ」
「あんたが適当に決めるからだろ!」
確かにステータスがおかしい。それよりも気になるのが・・・。
「なんだ固有スキルって!あれのせいで俺の幸運-9999になってんじゃねえか!」
「た、大変ですね」
「だからあんたが適当に決めるからだろっ!!」
何故だ!これから異世界で新たな生活を始めようとしているというのにまだ俺に付きまとうかクソ不幸め!
「はあ、まあいいや。とりあえずステータスについて説明してくれ」
「分かりました」
そう言うと、アルテリアスはふわりと浮かび、空中に指で何かを書き始めた。なるほどー、これが魔法か。
「まず、レベルです。これが上昇すればステータスも自動的に上昇します」
「へえ。俺のレベル400なんだけど、高いの?」
「化け物です」
「おーけー。それじゃあ次頼む」
俺がそう言うとアルテリアスは再び何かを書き始めた。
「筋力は、貴方の力を表します。これが上昇すれば上昇する程、相手を殴った時などのダメージが増加しますよ」
「なるほど・・・」
俺の筋力は9999に固有スキルとやらで追加された5000か。
「今の貴方が人を殴れば、その人は跡形もなく消し飛びます」
「やばすぎだろ」
「次に耐久です。これは貴方の物理防御力を表しています。これが上昇すればする程、相手から受ける物理ダメージが減少するのです」
俺の耐久は8000・・・。
「今の貴方を誰かが殴ればその人の骨は砕け散ります」
「やばすぎだろ!!」
どこのサイボーグだよおい。
絶対喧嘩だけはしないでおこう。
「生命は、要するに貴方のHPです。これが0になると死にます」
「俺の生命は7000か」
「貴方は耐久と魔防も高いので、ダメージを受けることが殆どないでしょう」
「魔防・・・?」
「魔法防御力のことです。高ければ高い程相手から受ける魔法ダメージを減少させます」
ふむ、俺の魔防は・・・5000か。
「上位魔法も効きませんね」
はは、やばすぎだろー。
俺は人を超越したのだ。
「魔力は、貴方の魔力量を表します。MPですね。これが高いと魔法を沢山使う事ができます」
「俺の魔力は9999・・・」
「魔力切れを起こすことが無くなります」
おお、それはありがたい。てか、俺って魔法使えんのかな・・・。
「えー、魔攻は、魔法攻撃力です。これが高い程、魔法の威力が上昇しますよ」
ふむ、オレの魔攻は6000だ。
「一歩間違えたら初歩魔法で人が死にます」
「物騒だ!」
どんな化けもんだよそれは。てことは、もっと強い魔法を使ったら街とか消えるんじゃ・・・。
魔法は覚えてもあまり使用しないでおこう。
「器用は、高いと料理の腕が上達したり、罠を解除したり出来るようになります」
「俺のは3000か」
それって高いのか?
「三ツ星レストラン級の料理を作れるようになります」
「まじか」
それはいいな。これから飯が美味くなるぞ。
「敏捷は、貴方の素早さを表します。これが高い程高速で動く事が可能になります」
「6000って・・・」
「本気で走れば音速を超えますね」
「死ぬだろ!」
「いえ。生命、耐久、魔防の高さからして死なないでしょう」
・・・てことは、別に乗り物に乗らなくても超スピードで移動することが出来るということだ。
遂に人は新幹線を超えたか。
「精神は、貴方の精神力です。高い程状態異常にかかりにくくなったりしますよ」
「俺のは1000か。他のに比べて低いけど・・・」
「いえ、とても高いですよ」
そうなのか?よく分からんが、まあ女神様が高いと言ってるのだから高いのだろう。
「えー、それから、幸運はですね・・・」
「いや、言わなくてもいい」
憎き、憎き不幸体質め。
固有スキルとやらになってまで俺に付きまとうとはいい度胸じゃないか。
「あ、そろそろ時間のようですね」
「む・・・?」
突然俺の体が光に包まれた。あれか、今から転生するのか。
「・・・まあ、色々サンキューな、アルテリアス」
「ふふ、はい」
これでお別れか。また、どっかで会えるといいな。
「・・・ん?」
何故だろう、自分の名前が思い出せない。まさか轢かれた衝撃で忘れちゃったとかじゃないだろうな。
「アルテリアス、俺の名前とか知らない?」
「え、知りませんけど」
「だよなぁ」
どうしよう、このまま異世界に飛ばされたら俺なんて名乗ればいいんだろうか・・・。
「あ、これはどうですか?《ジークフリード》です」
「おお、なんかカッコイイな」
アルテリアスが言った名前はなかなかいい感じの名前だ。
うん、そう名乗るとしようか。
今日から俺はジークフリードだ。
「それでは、貴方が素晴らしい生活を送れるよう、心から祈っております」
「そりゃどーも」
そう言った時、光の輝きが増し、やがて俺の意識は途切れた。
◇ ◇ ◇
「・・・人?」
川で洗濯を済ませた少女は、川岸で倒れている黒髪の少年を発見し、立ち止まった。
あまり関わりたくはないが、あんなところに放置しておくわけにはいかない。
そう考えた少女は、洗濯物を地面に置いて倒れている少年の元に向かった。
─────to be continued