女神様は、動き出す。
※少年は願い、少女は求めるの第六弾。女神様side
昔の話をしよう。
私は風の女神として、多くの人々の信仰を集めていた。火の神のフランとの間に子供も一人いて、幸せに過ごしていた。私を信仰してくれる人々を見守りながら、のんびりと、風にのって様々な場所を見に行きながら。
それが終わったのは、その幸せな生活がおかしくなったのは、一人の光の神が生まれてからだった。
ピリカというその光の神は、無邪気だった。そしてなんとも悪い事に酷く甘やかされて生きていた。気に入った人間にすぎるほどの加護を与えていた。特に見目の麗しい人間にばかりである。同じ信仰心をもっている人間でも外見が気に入らなければ一切目を向けない。そればかりか気に入らない自身を信仰するものを排除しようとさえもしていた。
そういう事はいけない事なのだ。だって信仰されてこその神という存在なのだから。信仰心がなければ、神は力を発揮出来ないのだから。
でもピリカはそれを聞かなかった。寧ろ私の注意はピリカをすいている神々を敵に回す行為であった。ピリカは大変力の強い神であった。美しすぎる幼い女神――、どうしてかわからない。その美しさに惹かれて沢山の神々が彼女をたたえた。
ピリカは注意をする私が気に食わなかったらしい。……それにフランが私の夫であることもピリカが私を気に食わない要因であるみたい。ピリカは見目の麗しい者が好きだった。フランはピリカが好む容姿をしていたのだ。
それでも私は年長者としてピリカがこのままではいけないと思ったのだ。思ったからこそ、ピリカがこのままでは後々大変な事になるかもしれないと注意をしていた。その結果が――、封印に至った。
友人だと思っていた神が、私を嵌めた。ピリカを愛するあまりに。神としての力は弱いけれども、仲良くしていた水の神が。
厳重に、何十人もの神が力を注いで、私を封印した。
その時フランと娘は私の傍にいなかった。
封印される中で徐々に力が失われていった。私に対する信仰が薄れていったのだろう。このまま、力が全てなくなり、永遠に眠ってしまうのではないかと思うほどに急速に力が失われた。
そして、いつの間にか私は意識を失っていた。
だけれども、いきていた。確かにいきていた。私は消えていなかった。
眠っている間も、起きてからも、微かだけれども確かに私に祈りを届けてくれている人々がいた。眠っている間も信仰を続けてくれた人々がいたからこそ、力がたまり、私は目を覚ます事が出来た。
今、世界がどうなっているのか。今、私が封印されてどれだけの時間が経ったのか。色々わからないことは多かった。
届いてくる、私を信仰してくれている人々の声だけが私の情報源だった。
その中に強い願いがあった。
『陽菜からあの忌々しい現象がなくなりますように。由菜が幸せになりますように』
『由菜と隼人にはやく出会えますように』
そんな、強い強い願い。その少女の願いと思いは私の心に沢山響いてきた。
強い願いというものは、それだけ神へと直接的に届くものだ。
届いていた。その子がどんな人生を歩んだのかも。
――不思議な現象がおき、前世で大切な人を殺してしまったのだと。
それを懺悔し、恐らく生まれているであろう前世の大切な人が幸せになりますようにと。願ってた。
明確で強い願いを持つその子の思いはわたしに沢山届いていた。
その中で、私は封印されてから既に八百年近く時間が経過されていることをはじめてしった。
少し愕然とした。神にとって八百年はそこまで長くはないけれども、そんなに眠っている自覚はなかった。八百年は人間にとって長い。それだけ長い間に信仰を失わずにいてくれた彼らに酷く感謝した。
私は私を信仰してくれている人々の願いを出来るだけ叶えてあげたかった。
その思いが、溢れた。
溢れて、溢れて、この封印から逃れたいと暴れた結果――封印は溶けた。
おそらく八百年の間で封印に綻びができていたことも一つの理由だろう。そして綻びの出来た封印をとけるほどに私の力が少し回復していたことも理由だ。
封印はとけたものの、力が足りない。
信仰を集めなければ、私に祈ってくれている人々の願いを叶える力もない。――叶えるとはいっても、それが叶うように働きかけるっていうだけだけれども、それでも少しは変わるはずだ。
自分の力を人に見えないようにするだけの力もない。瞬時に移動する力もない。自分の足で動かなければならない。力が入らないけれども、それでも――。
私の力は弱いからどれだけ働きかけるかわからないけれども、祈りながら、歩きましょう。
――私を信仰してくれる人々の願いが叶いますようにと。
―――女神様は、歩き出す。
(封印され、力をほとんど失った女神様は動き出すのでした)
続きを考えていたらこんな感じになりました。風の女神様は、とある光の神様の被害者です。