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最寄りのコンビニで数本の酒を購入して自宅マンションに帰る。
ただ歩くだけの道中はいらない事まで考えてしまう。
思い出すのは腕の中で無防備に眠るリサの寝顔。
眠る時だけ、彼女はなんの抵抗も無しに隣に滑り込んでくる。
そして、そこでずっとゲームをしている……。
熱心に画面と向き合う彼女をみながら俺は寝付いて、朝起きると彼女はなぜか腕の中で寝息をたてている。
はじめはかなり驚いたものだ。
だって、彼女は俺が肩に触れる事すら拒むのに。
まあ、こんな絶好のチャンスを逃す訳もなくその唇に触れるだけの口付けを落として再び夢の世界に戻る。
しばらくして、キッチリと身支度を整えた彼女が起こしにきてくれるまで。
一方的で、彼女は知るはずもないが、唯一と言っていい恋人らしい瞬間。習慣だった。
帰ったら呑もう。
そして、今日考えた事全部忘れよう。
やはり、今の暮らしは幸せだ。
例え、それが独り善がりでも。
リサが何処のイベントに行ったかは知らないが、彼女がそう言って出かける時は帰りが遅くなるのを知っていた。
だから、玄関の前で立ち尽くしている彼女をを見つけた時は本当に驚いた。
しかも、彼女はどこか様子がおかしい。
鍵を手に握った状態で固まっていたのだ。
俺は、静かに階段のところから様子を見守った。
リサはしばらく動かなかったが、意を決したように顔をあげると鍵を開けようとして、再び止まった。
「……やっぱ、ダメだっ」
彼女はそう言うと顔を真っ赤にして、階段の方に駆けてきた。
つまり、俺のいる方に。
こちらに気付いたリサは、一瞬驚いた顔を見せたが、先ほどまでの赤面が嘘だったかのようにいつも通りになった。
「あ、龍司」
きっと見られていないと思っているのだろう。
赤面について問えば夕日のせいにされそうだ。
なんとなく、ここにきてやっと、リサという人が分かった気がする。
「おかえり、リサ」
「ただいま」
「どうしたんだよ。またどっか行くの?」
こちらも普段通りの口調を心がけたのは、優位に立てている気がしたから。
「ちょっと……コンビニ行こっかなーって。龍司は何かいる?」
「あ、つまみ買ってくるの忘れたんだった」
「分かった。いつものでいい?」
「ああ」
彼女はいつも通り気の無いような調子だったが、俺は気付いてしまっていた。
彼女の本当の気持ちに。
彼女の左手の、あるべき場所に収まっている例の指輪を見つけたから。
こんな所にあったのか。
同時に、今までの不安が嘘のように跡形も無く消え去った。
そうだ。
俺はそんな、どうしようもなく掴みどころのない彼女が大好きなんだ。