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ふと、朝刊を目に留めた時、広告の隅に印鑑の試し押しをしたような跡を見つけた。
リサの印鑑だった。
今朝の朝刊という事は、彼女は今日印鑑を押すような書類を書いたのか?
不思議に思ってそれを引き抜いてみると、驚くべきものが一緒についてきた。
それは、名前と必要事項が書かれた婚姻届。
あとは俺側が必要事項を記入して印を押せば、出しにいけるだろう。
しばし絶句。
彼女の考えが全く分からない。
遊ばれているのではないか、という不安が俺を酷く困惑させた。
同時に歓喜に満ちる自分がいた事も事実。
そっと紙上に指を滑らす。
リサの名前が、彼女の字でしっかりと書かれてあることに息をのむ。
俺が驚いたのはそれだけではない。
俺側が書けば出せる、というのは証人の欄まできっちり埋まっていたからだ。
そして、その左半分を埋める笹嶋の名前が気になって仕方がない。
彼女は、いったいいつからこれを用意していたのだろう?
確かめるのに、迷いなど無かった。
『古川?どうした。めずらしい』
「おぅ。笹嶋。ちょっといいか?」
『なんだよ、改まって』
「お前さ、いつ俺とリサの証人になったんだ?」
『あー、その事か。うまくいったんだ』
「なんか、そうみたいだ」
笹嶋は曖昧な返答を気にする様子もなく続けた。
『いつだったかなー?お前らが同居し始めた頃だったのは覚えてるけど』
同居し始めた頃?
そんなに前から、彼女はこれを?
『何驚いてんだよ。リサがずっと見てたのは誰でもない、お前だけだったじゃないか』
……笹嶋との電話を切った後、
少し混乱してしまった。
リサが、俺を見ていた?
ずっと?
……心当たりがまるでない。
そうだとしたら、あのふられ続けていた日々はいったいなんだったのか。
俺は、リサに想われてた?
今も、リサに想われている?
情報消化不良が起きて、なんだか喉が渇いてきた。
「炭酸……いや、酒……」
とりあえず何か刺激のあるものを流し込みたい気分だ。
彼女が、俺をどういうふうに見ているのか。見てきたのか。
それが分からなくて、笹嶋の言葉を前にどうしたらいいのか、分からない。