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 部屋を出て、再び廊下を進む。しかし、五分も進まないうちに行き止まりに当たった。

 周りを見渡しても、壁しかない。唯一違う壁は、行き止まりの壁だ。他はコンクリの壁のように見えるが、そこだけレンガ造りになっている。

「行き止まりか……。でも大体こういうのはどっかを押すとが道が開けるはずだ」

 喜田川がどこぞの常識を語る。そして、レンガのあちこちをぺたぺたと触っている。

「あれ~、おかしいな……」

 俺的には、落とし穴とか岩球が転がってくるトラップがあるんじゃないかと思うが……どうやらその心配はなさそうだ。 

「そうだ! 勝、ちょっと炎で攻撃してみろよ」

「え?」

 喜田川に言われ、一応やってみる。

 杖に炎が灯り、それを打ち出す。

 いくつもの火球が飛び、レンガ造りの壁に激突する。

 火球は壁に当たると、消滅し焦げ臭い黒い煙を生み出した。

 しばらくして煙が消えると、壁が少し焦げているが、他に変化は見られない。

「じゃあ……いっちー。なんかやって」

「お、俺!? いやいや、無茶ぶり過ぎるだろ!?」

 市ノ瀬に振るが、激しく嫌がる。

「大丈夫だって! とりあえずやってみろよ」

 喜田川の説得で、市ノ瀬も杖を構えて壁に向く。一つ深呼吸をして、目を閉じる。

 そして、思い切り杖を振ったかと思うと、杖の通った場所から、遅れて無数の長ネギが召喚された。ネギはまっすぐ壁に向かって飛んでいき、壁に勢いよく突き刺さる。

 全てが刺さり終えると、ネギは一斉に爆発した。

「うぇぇ~!? なにごと!?」

 自分の魔法にもかかわらず、一番驚いているのは市ノ瀬本人のようだ。俺や喜田川も驚いているのは確かだが。

 爆煙が消えると、壁には大きな穴が開いていた。

「おお! よっしゃ……」

 大げさな表現で喜ぶ喜田川だったが、穴の中を凝視して全く動かない。

 なんだろう? 俺も穴の中を見てみる。すると、中からいきなり何かが飛び掛かってきた。

「なっ!」

 咄嗟に横に転がり身をかわす。

 今まで俺が立っていた場所には、大きな岩が転がっていた。

「?」

 突如として現れた岩を見やるが、特に変わった様子はない。

「さっきのは……」

 気を緩めた瞬間。岩が跳ね上がり俺の身体に思い切りぶつかった。

 近距離から、しかも不意打ちだったため、俺は避けることも出来ずに腹にまともに喰らってしまった。

「がっ、は!」

 肺の中の酸素が一気に出される。壁と岩に挟まれて身動きがとれなかったが、重力に従って岩が地面に落ちると、その岩から大きく距離をとった。

 腹を抱えながらふらついてしまう。意識が朦朧としつつも杖を構える。

 ギロリ、と岩から眼が浮き上がってくる。

「気を付けて! そいつは魔物よ!」

 肩の辺りからステラの声が聞こえてくる。

 岩石は、こちらを見ながら少しずつ身体をこちらに向けている。

「ええと、確か……ロックワームって言ったかな? 結構強いから、油断しないで!」

 魔物――ロックワームは今も少しずつ照準をこちらに向けている。

 ごくり、と唾を飲む。早く攻撃しなければならないが、先ほどの衝撃がまだ残っているのか、上手く杖を構えられない。気分も悪い。炎のイメージが全然まとまらない。

 早くしないと。そう思えば思うほど身体は重くなっていく。

 そうこぅしている間に、ロックワームの眼光が俺を捉えた。その瞬間、岩石が飛んできた。

「危ない!!」

 突然身体がふわりと浮いた。少しだけ横に飛ばされ、尻もちを付く。

 そして、いままで俺が立っていた場所には喜田川が立っていた――いや、飛んでいた。

「喜田川!!」

 叫んだ時には、もう遅かった。巨大な岩が喜田川を吹き飛ばし、十メートル近く離れた床に背中から着地した。その衝撃で、近くの床に杖が転がった。

 渾身の一撃だったのか、魔物がいた床が凹んでいるのが見て取れる。

 喜田川の方を見る。しかし、ぴくりとも動かない。ロックワームを尻目に、俺は喜田川の元へと近寄った。

「……おい、喜田川。大丈夫か?」

 横向きの状態で倒れている喜田川の肩を叩き、静に揺する。だが、まるで眠っているかのようにまったく反応がない。

 俺は、無意識のうちに喜田川の胸に耳を当てていた。

「……うそだろ」

 その耳には、何の音も入ってこなかった。俺は魔物のことなど忘れて、ただ打ちひしがれていた。

「ぬわぁ!」

 はっとして市ノ瀬の方を見ると、必死に岩石の突進を避けていた。

「だ、大丈夫か!?」

「なんとか。それより、っとと! そっちは?」

「あ、いや……」

 言えない。言ってしまえば、喜田川の死を認めたことになる。もしかしたら、何かの間違いかもしれない。そう思い、もう一度耳を当てる。

 だが、やはり何も聞こえない。

「喜田川……」

 せめてもと、体を起こして壁に寄りかからせる。そして、杖を抱えさせてやった。

 そして最後に黙祷を捧げて、俺は市ノ瀬の元へ向かった。

「待たせた!」

 まだ少し痛みは残っているが、大丈夫だ。炎は出ている。

 そのまま杖の炎を火炎放射のように吹き付ける。ロックワームは炎に包まれる。

 およそ五秒ほど炎に包まれていたロックワームだったが、炎の中から出てきたその身体には、傷一つ無かった。

 そこで今度は市ノ瀬のねぎ魔法で砕くことにした。

 辺りに複数本のネギが浮遊する。そして、その全てがロックワームの身体に刺さる。

 そして全てのネギが同時に爆発する。ロックワームは、文字通り跡形もなく消え去った。

「山中、喜田川は……」

「……あっちだ」

 壁に寄りかからせた北側を指してそれだけを言い、俺は喜田川の遺体から目を逸らした。

「……山中も、最後に挨拶ぐらいしていけよ」

「ああ、いや。そうだな」

 壁に寄りかかってぐったりしている喜田川に、俺は目を閉じ、手を合わせた。

「ん、んん……」

 不意に聞こえた声に、合掌をやめてそちらに目を向ける。だが、そこにはぐったりとしている喜田川しかいない。市ノ瀬は部屋を確認している。

「っあ~、ふ~。なんか全身がだるいな」

 目の前の喜田川が、肩を回して体の調子を確かめている。あまりの事態に、思考回路は停止して、呼吸さえ忘れてしまった。

 喜田川が生きている。いや、少なくとも、動いて喋っている。つまり、死んではいない。

 何が起こったのかよく解らない。そして、喜田川を見る俺の口は塞がらない。身体が動かない。痛みなどは無いが、それでもあまりの衝撃に、身体が言うことを聞いてくれない

「ん、どした?」

「おまっ……えっ?」

「いや~、まさか一回死ぬとは思わなかった~。……なんかゴメンな。心配かけたみたいで」

 少し照れながら詫びを入れてくる。なんだかこっちまで照れくさい。

「ん? どうし……うおっ! 生き返ってる!!」

 こちらの様子に気が付き、市ノ瀬もこちらにやって来た。

 無事を確認すると、話もそこそこに先に進んだ。


 中は部屋ではなかった。壁で仕切られていただけで、そこには再び長い廊下があった。

 しかし今度は先程とは違い、若干ながら左カーブを描いて徐々に下に降りて行っているように見える。ようするにスロープだ。

 下に通じる道。もしかしたら白山ともどこかで会うかもしれない。

 淡い期待を寄せながら、俺達は先へと進んでいく。


 しばらく道なりに進むと、大きな扉が現れた。他に道もなさそうなので、取っ手に手を掛けようとした。

 ――が、そこには取ってらしき物は見あたらなかった。

 引くのではなく押すタイプの扉かと思い、全体重を掛けてドアを押す。

 しかし扉はびくりともしない。

「おい、またなんかあるのか?」

 先程、冥界より帰還した喜田川が後ろから茶々を入れてくる。

「今調べてるからちょっと待ってろ」

 辺りの壁をぺたぺたと触っていく。今度はレンガ造りではなく、再び塗り壁に戻っている。

 ただし今回の壁は若干色が違う。青色に少し黄色を足したような色。すなわち緑に光る壁。レンガ造りになっているその壁は、とても頑丈そうに見えた。

 扉もそれに合わせてか、鮮やかな緑色をしている。

「また市ノ瀬のネギで壊せばいいんじゃね?」

 確かにその通りかもしれない。

「市ノ瀬、また頼めるか?」

「ん、解った」

 市ノ瀬が扉を爆破する。が、爆風が晴れてもなお、扉はそこにあった。

「え……」

 今までその圧倒的な威力に助けられてきたが、ここまで来てその力が通じない。

 一番驚いたのは本人ではなく、その力に頼りっきりだった俺の方だった。

 扉を確かめるが、ネギが刺さった後すら見あたらない。まさか、と思い俺は持っていた杖で壁を思い切り叩いた。

 すると、壁にはへこみが出来たが、辺りからツタのような物が出てきて傷を修復した。

 つまり、市ノ瀬のネギが通用しなかったのではなく、ダメージを与えた直後に再生したと言うことだ。

 つまり再生速度を上回る攻撃を与えれば扉を壊せるはず。

 だが、今いる中では一番の突破力を持っている市ノ瀬の攻撃でもだめだったのに、他のメンバー、と言うよりも喜田川の攻撃魔法をまだ見たことがないので、実質俺だけになる。

 だが、俺の魔法と言ったら火炎弾とか火炎放射とかで、とても突破力には欠ける。

「……なあ、そういえばお前の魔法って何なんだ?」

 こんな時だからこそ全員の戦力を把握しておく必要がある。そこで、喜田川に訪ねる。

「なに言ってんのよ。さっき使ってたじゃない。雄太郎君の魔法は回補助系よ。それもかなり強いやつ。蘇生なんてそれこそ神様クラスよ。少なくとも、大天使クラスじゃ無理ね」

 大天使がどれほどのランクなのかは解らないが、恐らく相当高いのだろう。

 だが、攻撃でない以上、この場面では何も役立たない。

「すまん、力になれなくて……」

「いや、俺だって大して力になってないからな……」

「いいじゃない。勝君、とりあえずやってみれば?」

 は? と思ったが、手にある杖の方を指さされて何を言っているのかを理解した。

確かに 何もしないよりは駄目元でも何かした方がいいかもしれない。

杖を構え、火炎弾を放つ。壁に当たると、予想以上に勢いよく燃えた。

だが、再生が始まると炎は鎮火されてしまった。

「やっぱり駄目か……」

 駄目元だったが、少しは期待していたので落胆してしまう。

「いや、そうでもないんじゃないか?」

 気休めとも思える発言に俺は少しイラついた。

「どこがだよ」

 少し強めの口調で言うが、特に気にしない様子だった。

「いや、なんかずっと燃えてたからさ。火か消えたのってあれだろ。火元を強く押さえると消える奴」

 そう言われてさっきの事を思い出す。

 火炎弾が当たった瞬間、俺の予想を上回る燃え方をしたが、修復が始まると炎は消えた。

「もっと思いっ切り燃やせばなんかなるかも」

「そうかなぁ? まっ、やってみるか」

 火炎放射は、使うと凄く疲れる。それはきっと威力が高いからだろうと思い、戦闘以外ではなるべく使いたくはなかった。

 だが、火炎弾ではたぶん再生には追いつかないだろう。

 杖を前に構え、深呼吸をする。

 そして、直後に戦闘が控えている可能性を考慮して、ある程度の余力が残るようにして炎をまき散らす。

 炎が緑の扉にぶち当たると、扉全体が勢いよく燃えだした。だが、同時に再生も始まる。

「くっ……!」

 負けじと少しばかり出力を上げる。

 再生の方もかなり速い。だが、炎は魔法による物と扉自体が燃えている物と二つある。単純に考えると、相手は一つ分の再生力。対してこちらは二つ分の攻撃力がある。つまり二倍。

 やがて炎は中心部からだんだんと外側に広がっていき、やがて扉全体を燃やし尽くした。

 しばらく経っても扉が復活する様子はない。

「よっしゃ!!」

 思わずガッツポーズを取ってしまった。

 拳を引っ込め、消えた扉の向こうに足を踏み入れる。

「熱っ!!」

 部屋に入るやいなや、突然ものすごい熱気に包まれた。

 あまりの熱気に耐えきれず、俺は部屋から出る。

「ど、どうしたんだ!?」

 俺がいきなり部屋から飛び出したことに、喜田川が驚いた。

「あ、いや……中がめっちゃ暑かったんだよ」

「え、マジで?」

 喜田川がそっと足を出す。そして、そのままゆっくりと体全体を部屋の中に入れた。

「……いや、多少暑いけど、そんなに言う程か?」

 暑くないって……どういう事だ? 俺が感じた温度は真夏とかそんなレベルを遙かに超えていた。行ったことはないけど、たぶんサハラ砂漠とかよりも暑いと思う。

 一分もいれば意識が無くなるどころか、身体が焼けそうな程の温度があるであろう場所に、喜田川は不思議そうな顔をして立っている。

「ちょっと来てみろよ。たぶん勘違いか、もしくはさっきだけだって」

 喜田川に促されるが、あまり入りたくはなかった。確かに平気かもしれないが、先程の熱気を思い出し、背筋を冷たい物が走る。

 そうして躊躇っている内に、市ノ瀬が何の躊躇いもなく部屋に入っていった。

「うわっ!!」

 部屋に入った瞬間、市ノ瀬が飛び退くように部屋から出て、勢いよく尻餅を付く。

「暑すぎだろおい!」

 尻餅を付いた状態で、喜田川に向かって叫ぶ。

「えー、そんなに暑いか?」

 それでも喜田川は全く暑そうな素振りは見せない。不思議に思っていると、横から声が飛んできた。

「きっと彼の魔法と関係してるのよ。回復魔法……っていうよりも補助魔法か。それで防護フィールドが形成されて、身体にかかる負担とかを軽減してる、てとこかな?」

 何か凄く難しいことを言われてる気がする。

「なるほど。つまり俺がその魔法をこいつらにもかけてやれば大丈夫になるってことか」

「まあ、そういうことね」

 喜田川には理解が出来たらしい。市ノ瀬にもあまり理解は出来なかったらしい。

 魔法少女よろしくファンシー☆ステッキ(笑)を構え、目を閉じる。

 しばらく沈黙が流れる。

 そして、喜田川がふーと一つ息を吐くと同時に、喜田川の杖から光の霞が漏れだし、俺と市ノ瀬、それにステラを包み込んだ。

 包んでいる霞が徐々に姿を消していく。そして、一瞬だけ煌めいて、光は完全に溶けた。

「よし、これで多分平気になったんじゃないか」

 慎重に部屋に足を踏み入れる。そして、身体が完全に部屋の中へ入る。

「……おぉ、暑くない。サンキュ」

 自然とお礼の言葉が出てくる。言った後に少し気恥ずかしくなったが、そのまま部屋を進んでいった。

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