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4

 城へ乗り込む為に、準備を何もしていない。特にする事もないので、そのまま乗り込む事にした。

「本当にいいの? ……もしかしたら死ぬかもしれないのよ」

 死、という単語に全員身体をぴくりと反応させる。

 さっきのガーゴイルが持っていた剣だって、まさかオモチャだとは思えない。もしそうであっても、本物でないと分かっていても、それでも死の恐怖はやってくる。

 これから奴らの本拠地に乗り込む。それはお世辞にも安全とは言い難い。ステラや神様の言う話では、その神様すらも勝てない『魔王』なる物が存在しているらしい。

 そんなものに勝てるのか? 勝てないと言う事はどうなるか。さっきのガーゴイルだって剣を持っていた。つまり、負ける、と言う事はあの剣で――

 考えただけでぞっとする。負けられない。行かない、ということは考えられなかった。

 正義の心、などと格好着ける気は無いが、内の中から湧き上がる何かが俺に訴えかける。

「…………ああ、いや。部長、喜田川。お前らはどうするんだ?」

 二人は一瞬見つめ合って確認し遇う。

「行くさ。まあ怖いけど、このまま何にもしないのも怖いからな」

 杖を肩にかけ戦う意志を見せる。二人とも、行くことにためらいは無いようだ。

「このまま行っても良いの? 挨拶とか……その、遺言とか……」

「そんなもの必要はない!!」

 間髪入れずに答えたのは市ノ瀬だった。ネギを持っているため、迫力に欠ける。

 だが、その力強い決意は確かな物だ。

「……そう。じゃあ早速行きましょう」

 まずは、と少し間をあけてから

「浮遊の練習から始めないと……。それが出来ないとたどり着くのは難しいから」

 浮遊、と言うことは、空を飛ぶのだろう。落ちたらどうするんだろう……

 ステラ曰く、浮遊魔法はいくつかの方法に分かれるらしい。体を空間的に移動させるとか、気体を固めてその上に乗ったり、風力を使ったり…………など、いろいろあるらしい。

 俺はとりあえず一番簡単そうな気体を固める方法を選んだ。喜田川と一ノ瀬は俺と同じ方法を。白山は風を使う方法を選んだ。

 とりあえずちゃんと飛べるようにしたほうがいいということで、小一時間ほど浮遊の練習をするため、中庭へと降りた。


練習の成果もあってか、自由自在に……とは行かないが、ある程度の飛行は可能となった。

そして、これから浮遊城――魔王の城に行く。そこには恐らく命と世界をかけた戦いが待っているに違いない……

魔王の手先との戦闘。おそらくはガーゴイル以上の強さの敵がいるに違いない。

 そう考えると凄く怖い。今にも逃げ出しそうになる。でも、俺もまだこの世界のことは嫌いではない。他にやる人がいない以上、逃げ出すわけには行かない。

「ま、ぼちぼち行こうか」

 白山が先陣を切って空へと駆け出す。安定感もある。戦闘の時といい、かなり魔法が出来るようだ。

 それに続いて俺達も校舎の屋上を超える高さへと達する。

 そして杖を見て、確かめる。

 炎は灯っている。何の炎かは分からない。俺が無意識で魔法を使っているだけかもしれない。

 死への恐怖はいつの間にか無くなってしまった。

 白山は魔力で生み出した風に乗っているのに対して、俺達は空気を固めた床を歩いているのと変わらない。少々疲れたが、そんなことも言ってられない。

 見えないが、今ある床から、新しく作った床へと飛び乗り、進む。

 途中、増援が来なかった。おかげで十分足らずで浮遊城の入り口付近まで来た。


 入り口、といっても床はない。大きな門があるだけ。門は一応床の上にあるが、門よりこちら側の床がない。

 門の前に魔法で見えない床を作る。そして門に手をかける。その門は想像以上に重く、なかなか開かなかった。

「俺がやるからどいてろ」

 そういって、白山が門に手をかける。すると、ギィィという音と共に門がゆっくりと開いた。

 白山、喜田川、俺、市ノ瀬の順番で入っていく。

 一応横に並んでも入れるのだろうが、ゲームのやりすぎなのか、縦に並んだ方がいい気がする。

 中は完全に閉ざされており、空を見ることは出来なかった。もっとも、見れたとしても気持ちのいいような青空は拝めないだろうが。

 地面、壁共に薄く青色の光を放っている。

「気を付けて。いつどんな敵が来るか分からないから」

 最後尾からステラの声が聞こえた。ついでに言うと、ステラは戦闘には参加しないらしい。

 大きな廊下だが、道はまっすぐ一本しかない。ヒビの入っている壁からの光源ではなかなか進めないところだが、一定の間隔で壁に設置してある金属質の台にろうそくが灯っていた。

 それでも薄暗いのは変わらない。足下に気を付けながら歩いていると、不意に分かれ道にさしあたった。

 Y字型ではなく、T字形の分かれ道。

 右を見ても左を見ても、途中で曲がってしまっているために先が見えない。

 さて、どうしたものだろうか……

「よし、ここは……直進だ!!」

「は? なにいってんの!?」

 白山のよくわからない発言に、市ノ瀬がつっこみを入れる。

 直進ということは、目の前に広がる壁を進むということだろう。もろそうには見えても、そう簡単に崩せるようには見えない。

「普通に考えれば道なりに進んでいくのが妥当だろう。だが! だいたいこういうのは真ん中にボスがいるんだ! つまり! 今のところ入口から直進してきたから、そのまま直進したほうが効率がいいに決まってる!!」

 なにかもの凄い勢いで力説し得ている白山に対し、俺や市ノ瀬達は何も言うことは出来なかった。

「まあ見てなって」

 一体どうするのか。半ば呆れながらも期待している俺がどこかにいた。

 杖を前に出し、目を閉じて集中している。足下には大きな光の円陣が浮かんでいた。そして、杖の先端部、大蛇の彫像が光り輝く。

 そして、大蛇がひときわ大きく光り輝く。

 次の瞬間。光の中心からにゅるり、と何かが這い出てくる。

俺の腕、いや胴体ほどもあるかもしれない太さの蛇が現れた。その大きな体をつつむ表皮が、不気味に黒光りしている。

「シャァァ!」

 口を大きく開け、高々と雄叫びを上げる。

「おお……」

 大蛇を出した白山本人も、感嘆の息を漏らしている。

「す、凄い……。まさか魔法を覚えて一日たらずで召喚魔法を使えるなんて……」

 ステラも今の魔法には驚いているようだった。これも妄想力の差だろうか?

 白山が何か大蛇に命令をする。すると、あろうことか大蛇が壁に向かって突進を開始した。

 凄まじい音と共に、天井からパラパラと小さな石の破片が降ってきた。

 大蛇が体当たりしたところは、壁の表面が剥がれ、中の砂壁がもろに見えた。

 幸いというかなんというか、砂壁は強度に欠けているようで、大蛇の突進一回で大きな洞穴のようなくぼみが出来る。

 数回繰り返したところでようやく壁が向こう側と貫通した。

その役目を終えた大蛇は、光となって霧散した。

「マジかよ……」

 あまりの出来事に気が抜けてしまった。

 その部屋は、とても暗かった。

 黒、というよりも本当に『闇』だった。

 先ほど開けられた穴から光は入っているはずだが、中を確認することはできなかった。

 息をのみ、辺りは静まり返る。それが一層闇を濃くしているように思えた。

「ここか……?」

 目を凝らして見てみる。しかし、何も見ることはできなかった。

 試に手を突っ込んでみる。すると、濃い霧の中に入ったように見えなくなった。

「……どうする? ここを通るのは難しそうだぞ」

 俺がそういうと、後方に控えていた市ノ瀬が前に出てきた。

「よし、俺が行ってみる」

 そのまま足を踏み入れる。そして、身体がすっぽりと入る。市ノ瀬の姿が見えなった。

「ちょおぉぉ!!」

 手を伸ばして引き留めようとするが、闇の中ではどこにいるかは見当もつかない。

 次の瞬間、闇の中が少し光った。かと思うと、徐々に光が強くなってくる。

 そして、そこそこの大きさになった瞬間。闇の中にあった光が、爆発したかのごとく急激に拡大した。

 その光は部屋全体を包み込むように広がり、そこにあったはずの闇が全て消えていた。

「部長、いったい何を……?」

 闇が晴れた部屋の中から現れた部長こと市ノ瀬に尋ねる。

「ん? いや、俺もよく判らないんだが……なんかいきなりネギが……」

 市ノ瀬が手に持っているネギ――もとい杖を見やる。

 そこにはぼんやりとだが、確かに光を放っている杖の姿があった。

 ほのかに黄色に輝く長ネギ。奇妙な光景であることは確かだが、妙に神々しく感じられる。

 だが、徐々にネギは光を失っていき、やがてただのネギになってしまった。

 それでも部屋は明るいままだったので、誰も気に留めはしなかった。

「これで先に進めるな。よし、行こう!」

 白山がなんの躊躇いもなく部屋に入っていく。続いて俺も中に入る。

 中には誰もいなかった。真ん中には円テーブルが置いてあり、純白のクロスが掛けられている。

 周りには本棚やタンスなどが置いてあり、リビングと言ったところだろうか。

「おっ? あれは何だ」

 見渡す限り扉は無い。だが、部屋の隅っこの床に、木で出来た蓋があった。

「とりあえず下に行ってみるか」

 蓋を開けると、縦穴が現れた。垂直にのびている穴にははしごが掛かっていた。

「順番はどうする?」

白山が妙なことを口走る。順番、というのははしごを降りる順番のことだろう。

「部屋に入った順番でいいだろ」

 重要な事でもなさそうなので、特になにも考えずにそういう。

「よし、じゃあ俺から行こう」

 先陣を切ったのは市ノ瀬だ。高いところが怖いような素振りも見せずに穴に入っていった。

 それに続いて白山、俺、喜田川という順番ではしごを降りた。


 暗くて深さは解らなかったが、降りてみるとそこまで深くはなかった。

 穴を降りると、そこには部屋――というよりも倉庫のような場所に出た。

「うぅ……なんか埃っぽいな……。さっさと進もう」

放置されている物をよけつつ扉に向かって歩く。面積や高さは学校の体育館ほどの広さもある部屋で、対角線上にある扉までは少し距離があった。

ガザッ。

「ん? 何の音だ?」

 右からの音に対して、そちらに目をやる。だが、そこには何も変わった様子はない。

「どうかしたか?」

 後ろを歩いていた喜田川から声を掛けられる。

「いや、何でもない」

 気のせいだろうと思い、前に向き直る。

「グルルルル……」

「!?」

 再び右に向き直る。そこには一対の光点があった。

 光点が揺らめきながらだんだんと近づいてくる。近づくにつれ、その輪郭もあらわになる。

 暗がりに目を凝らすと、そこには信じがたい光景があった。

 四本脚で身構えている姿は獣そのもので、よく見ると黄色い身体には真っ黒な縞模様がいくつもあった。

 虎――いや、テレビなどで見る物とは少し違うところもあると思う。だが、そんなことはこの状況下ではどうでもいいことだ。

「さっきからどうしたんだよ?」

 喜田川はまだ気づいていない様子だ。

「あ、あっちに、と、虎が……」

 獣の方に指を向ける。喜田川は指を追いその先をみる。

 すると、隣にあった喜田川の顔が途端に青ざめる。

「お~い。お前ら何やってんの?」

 歩いていた道無き道の前方から白山の声が聞こえた。すると、その声に反応して獣は白山達の方を見る。

 ぐっ、と力を込めたかと思うと、獣はものすごいスピードで白山の居る方へと走り出した。

「白山!!」

 だが、俺が白山を呼ぶ声は轟音でかき消される。

 一瞬、舞い上がった埃で何が起こったのか見えなかった。

 埃はすぐに落ちたが、そこに白山の姿はない。

「し、白山!?」

 もう一度よく見てみるが、やはり姿はない。

 飛びかかったはずの獣の方もどうやら標的を見失ったらしく、キョロキョロとしている。

『失せろ。フリーズ・レイ!!』

 どこからか白山の声が聞こえた。瞬間、獣の頭上から無数の氷の刃が降り注ぐ。

 再び埃で視界が悪くなる。

今度は視界が戻るのに時間が掛かった。そして、ようやっと見えるようになると、そこには先ほどまで血の気に満ちあふれていた獣が横たわっていた。

かと思うと、獣は瞬時に粒子となり闇に溶けていった。

「ったく……とんだ茶番だな。ま、お前らも気を付けた方がいいな。……ここはもう、敵の腹んなかなんだ……。油断してると、死ぬぞ」

「それより、さっきのはなんなんだ? フリーズなんちゃらって」

 天井付近から降りてきた白山に俺は問いを投げかける。俺の質問に対しての白山の回答は簡単な物だった。

「ああ、あれか。適当に格好着けただけだ。テンションが高い方が魔力も上がりそうだし。ちなみにステラ。そこんとこどうなんだ?」

 今度は白山が、一番前の市ノ瀬と一緒にいる妖精に問う。

「ええ。たしかに術者のモチベーションで威力とかが変わるわね。皆も彼のように適当に呪文をひっつけてみれば? 一流の魔道師はみんなやってるわよ。物によっては詠唱とかが必要な物とかあるし、最後になんかかっこいい台詞があるとやっぱり違うのよね~」

「あ、ああ……考えとくよ」

 とはいいつつも、実際に声に出すのはやっぱり恥ずかしいだろう。それでも一応、呪文を考えておくことにする。

 倉庫部屋から出ると、長い廊下に出た。

 まっすぐ続いているようだが、薄暗いため十数メートルくらいしか見通せない。

「これならさっきみたいなことは無いな」

 ある程度の広さはあるとはいえ、一本道でほぼ障害物も何も無ければ不意打ちを喰らう事なんてそうそう無いだろう。

 しばらく進むと、進行方向の左手の壁に木造の扉が出現した。通路はまだ続いている。

「……とりあえず、入るぞ」

 こいつは怖くはないのだろうか?

 いつのまにやら先頭を歩いている白山が扉に手を掛ける。


 キィィ


 扉がきしみながらゆっくりと開く。そして、頭から扉の中に入っていく。

 白山の身体が全て部屋の中に入った瞬間。開け放たれていた扉が急に閉じてしまった。

『うわっ!!』

「!? お、おい! 白山、大丈夫か!?」

 扉を叩きながら、喜田川が白山の安否を確認する。

 しかし、中からの返事は無い。

 再び扉を開けると、今度はきしんでいる音は聞こえなかった。

「おーい、しろやま~。いるかー?」

 中をのぞき込み、弱々しい声で白山を呼んでいる。

 だが、中は何も置いていない殺風景な部屋があるだけで、人っ子一人、いや鼠一匹いない。

 ドアや窓もなく、はしごのような物もない。白山はどこへ消えてしまったのだろう。

 落胆して地面に手を着きそうになる。

 重要な戦力がいなくなったことはどうでもいい。白山が、俺の数少ない友達がいなくなってしまった。

 今まで、友達という友達がいなかった俺に、高校に入ってちゃんと本音で語り合える友達は、白山が初めてだった。

 などと感傷に浸ってしまうが、今はそれよりも白山の居場所を突き止めることが重要だ。

 下を向いていた顔を上げようとしたその時。

 足下に奇妙な線が入っていることに気が付いた。

「ん? これは……」

 線を触ってみると、どうやら溝が掘られているらしい。でも何でこんな所に……。

「!! まさか……!」

 石の床、四角い溝の内側を叩いてみる。


 コツ、コツ


 すこし抜けたような音が聞こえた。試しに四角の外側も叩いてみる。

 しかし、叩いても手が痛くなるだけで、音はほとんど無い。どうやら、俺の読みが当たったらしい。

「二人とも、ちょっと来てくれ」

 喜田川と市ノ瀬を呼び、床のことを話した。

「……でも下からあいつの声がしないって事は、助けられないんじゃないか? いや、変な意味じゃなくて。下に通路があったりして……、きっと飛行魔法で来なかったのには、ちゃんと何か理由があるんじゃないか?」

 喜田川の前向きな発言に、俺の気持ちは少し軽くなったような気がする。

「……そうだな。じゃあ、俺達も白山に会えるように先に、進もう」

 仲間を信じて、俺達は再び歩き出す――。

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