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3

 天使のような少女――ステラは言った。杖を出して、と。

 杖、それはすなわち魔法のステッキと言う事だろう。手を前方へと突き出し、力を込める。そして、杖の形をイメージしてみる――。


 ふわり、とした感覚が右腕に伝わってくるかと思うと、今度はズシッとした重みが伝わってくる。手に異物を持った感覚。そのまま目の前まで持ってくると、そこには燃えるような紅い杖が握られていた。その縁取りは黄色で、赤を強調している。

なめらかな円筒状だが素材は鉄のような金属質に感じられた。下から上にだんだんと太くなっていく構造で、その上部には日本屋敷の二話においてある灯籠とうろうを感じさせる形をしていた。四枚の三角で屋根が作られ、四本の柱で支えられている。中には何もなく、ただの空洞になっていた。

じっと見ていると、何もなかった空洞に炎が灯った。少し驚いたが、杖を握り直す。

他の三人も杖の生成は終わっているようだった。

白山の杖は、俺のように鮮やかな色ではなかったが、その無表情な灰色が冷たい雰囲気を放っていた。こちらもやはり下から上に行くにつれてだんだん太くなっているが、俺の杖は一番下が少し丸くなっているのに対して、この黒鉄の杖は恐ろしいほどに尖っている。逆はどうなっているかというと、台座が付いていてその上には灰色の大蛇が乗っていた。全てが濃い灰色に塗られているからか、見ているだけで鳥肌が立ってしまう。

喜田川の持っている杖は――まごうことなき魔法少女のそれだろう。まっすぐな白い棒。そしてピンク、と言うよりも桜色のグリップが胴体の両端に備えられている。上部には、これまた桜色の輪が備え付けられていて、内側には黄色の星、外側には天使のはねのような物が付いている。若干とまどっている姿が実に面白い。

最後は市ノ瀬だ。これまでとは違い、どう見ても金属質には見えない。白くのびた胴体。そして上部は緑色をしていて二つに枝分かれしている。八百屋に置いてあっても不思議ではないそれは、長ネギの形をしていた――というよりも、長ネギそのものだろう。とても手になじんでいるようで、なんだか凄い振り回している。

「はやく!! ガーゴイルの群れが来れば、この建物ごと壊されかねない!」

 ステラは羽根をはやした魔物――ガーゴイル達の方を指さしながら続けた。

「ここは空中戦は避けるべきね。奴らとの空中戦は危なすぎるわ。それにあんなにたくさんなんて……。だからここは魔法弾をここから打って。最悪空中戦になるかもしれないけど、数が減っていればまだ何とかなるかもしれない」

 言われたとおりに窓際へ寄って杖の上部をガーゴイルの集団に向けた。

「とりあえずイメージが大事だから、抽象的でもいいから強くイメージを持って!!」

 言われるままに、イメージをする。最初の魔法に炎が出たからか、それとも杖に炎が灯っているからか。炎のイメージが強く俺の中に湧き起こる。

 灯った炎が一層強みを増す。それをガーゴイル達の方へ向ける。そして、中に溜まっていた炎を打ち出す!

 さながら火炎放射のごとく炎が飛んでいく。空中にいたガーゴイルの群れに当たると、炎は拡散してその全体を包み込んだ。

「グシャアアァァァ!」

 黒い煙を立ち上らせながら、手前にいたガーゴイルの何体かが落下していく。だが、それでも群れのごく一部。目に見えるほど数は減少していない。もう一発撃ち込もうと、再び炎を灯す。が、それを打ち出す前に後方から無数の氷柱が飛んできた。

「!?」

 後ろを振り返ると、そこには杖を握りしめた白山がいた。

 再びガーゴイルの方を見ると、今度は全体の五割、つまり半分ほどを撃墜してしまったのだ。再び後ろを振り返ると、白山がニヤッと口元をゆるめる。

「ふっ。お前と俺じゃあ日頃の妄想がちげぇからな」

 得意げに言うと、もう一発氷柱の嵐を飛ばすと、今度はもとあった黒い塊が消えてしまった。

 他二人は頑張って出そうとしてるようだが、特に何も出ないようだ。

「……あ、あなた強いのね……。あんたより強いんじゃないの?」

 いやみっぽくそういうと、俺の肩にちょこんと座ってきた。突然のことに驚いてしまい、身体がピクンと跳ね上がった。

「ああ、ちゃんとした自己紹介はまだよね? 私はステラ・ハーメリック。神様の側近で、あんた達に色々教えに来てあげたってわけ。で、あんた達は?」

「あ……俺は山中勝」

 俺が簡素に答えると、肩から降りて俺の周りを飛ぶ。身体中をじっくりと見られる。

 なんだか変な気分だが、可愛い子に見られるのは悪い気はしない。

 などと不謹慎な事を考えていたせいか、少し顔がほころびてしまったらしい。

「やま~、何にやけてんだよ」

 なにやら嫉妬のような感情を抱いてしまったか。とても怒っているように見える。

「……で、あんたは?」

 こんどは白山の方に飛んでいく。胸が痛むのは何でだろう?

「ああ、俺は白山影太。よろしくたのむぜっ」

 ポーズを決めて何かをアピールしている。う~ん……何がしたいのかわからない。

 次々と自己紹介を終え、全員分聞き終わったところで一応椅子に座った。

「みんな、いい? 私たちはこれからあの城に乗り込まなくてはならないの。……世界を救うためには……」

 ステラがすっと窓の外を見る。

 そこには、深い闇に染まった城が浮いていた。そして、それは唸り声をあげながら少しずつ動いているように見える。

「な、なんだ、あの城は……。一体あれは……?」

 白山が窓から身を乗り出してその存在を再び確認する。それにつられて俺もついもう一度見てしまう。そこに渦はなく、巨大な城があった。やはりそれは少しずつ動いているように見える。――こちらに。

 ――まさか

 だが確かにこちらに向かって来ている。いや、もしかしたら方向が同じなだけかもしれない。しかし、ステラの言葉が、あの城は自分たちに向かっている物だと思わせる。


――奴らは君を狙っている!! ……正確には、君の持っている魔法の力を……!!


 渦から出てきたガーゴイルが俺達を狙っていた。となれば、渦に関係がありそうなあの城も同じような物だろう。

 敵。そう、俺達の敵だ。仕掛けられる前に――否。既に戦いの火種は捲かれている。

 ならばこちらから攻める。やられる前に。

「……よし、みんな。行こう。……それに、他の人たちも心配だ……」

 バラ捲かれた黒いドット達。俺達に向かってきた物は全て撃滅したが、その他のグループは四方八方に散ってどこかに行ってしまった。人が襲われてるかもしれない。あまり人を気にする俺ではない。だが、命が掛かっているかもしれない。そう考えるとどうしても不安になる。

「あの巨城にいるはずの魔王だかなんだか知らないけど、そいつを倒せば他の魔物も消えるはず。そうじゃなくても、あいつに封じ込められてた神様達がきっと……」

 まるで心の内を読まれたかのような内容。

 そうか。あの城の主を倒せばどうにかなるって事か……。

「そうと決まったら行くしかないな。……山中、もう行くのか?」

 杖を持ち、立ち上がる。そして、腰のベルトに差す。

「そうね。出来るならなるべく早いほうがいいわ。魔王は日に日に力を付けている。準備ができ次第、さっそく城に乗り込むわよ」

 特にする事もないので、すぐに乗り込む事にした。


――さあ、行こう


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