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 午前の授業が終わりを迎え、午後の授業に向けて昼食を摂る。白山と市ノ瀬も一緒だ。

「……なあ、白。今朝変な夢見たんだけど……」

 思い切って、夢の事を話してみる。少々長くなったが、俺の「悩んでるんだ」の一言のおかげか、二人とも最後まで静に話を聞いてくれた。だが――

「はあ。……いやそれは夢だろ。現実とごっちゃにしてんじゃねぇよ。どこまで痛いんだ」

 当然の事ながら、信じては貰えそうになかった。それは市ノ瀬も同じだった。なぜなら、朝に図書館で起きた事は省いてある。言わないで信じて貰えた方が、正直楽だと思ったからだ。

 もう一度同じ事が出来るという確証はないが、二人を教室の外に連れ出す。すると、そこにはもう一人の見知った顔があった。

「おっ、やま~。どこ行くんだよ~」

 少々チャラい感じだが、下ネタに多大なる興味を示す男、喜田川雄太郎。こいつも同じ部員だ。

「ってあれ?高槻はいないの?」

「ああ、今日は休みっぽい」

「そうだ。よかったら喜田川もちょっと来てくれるかな?」

 どうせなら喜田川にも説明をしてみた方がいいかもしれない。そう思って俺は声を掛けた。

「えっ!? ……そんな、男だけでナニする気!? そういうのはちょっと……」

 いつも通りの反応に、少しほっとする。――ここは現実なんだ。 喜田川の発言に対していつもならツッコミを入れるところだが、いまはとてもそんな気にはなれなかった。

「いやちげーよ。ちょっと、な……」

 ここでは少し人目に付くので言葉を濁し、そのまま人目の着かない場所――我らが部室、パソコン室へと向かった。


 神妙な雰囲気のままパソコン室までやって来た。そこには、おおよそ四十ほどの最新のOSが設置してあり、それら全ての電源が入っている。

 そこで、俺は喜田川に事の概要を説明した。こいつはこれだけで信じてくれた様子だった「おい山中、わざわざ呼んどいて何にもない訳無いだろうな」

「いや、今から始める……」

 一体何をはじめるんだ。そんなような目で見られながら、今朝、図書館でやったように、手を前に出し、目を閉じる。

 おそらく今、部長や喜田川はともかく、白山は冷たい視線を送っているに違いない。

 だが、それでも集中し、心の中で炎を描く。

 次の瞬間、力を込めたと同時に目を勢いよく見開くと再び炎が出現した。

「…………は?」

 事態に付いてこれずに、大きな口を開けて呆然とした表情をしている三人が居た。

 それでも、一番驚いたのはやはり白山のようだった。他の二人は一瞬目を開け、感心するように息を漏らしている。

 ゆっくりと力を抜き、炎を包み込むように手を閉じる。焼け石に水をかけたようなジュッ、という音と共に、微量の黒煙が立ち上った。

「……今朝、気が付いたんだけど、こういう事も出来るようになってるみたいで……」

 そこまで言ったところで、白山はやっと我に返ったようにこっちを向いた。

「おまっ……! 夢だろ!? なんでだよ!」

 狂ったように高く跳ね上がった声。状況を処理しきれていないのか、パニックになっている。

 しばらく似たような事を繰り返し質問していたが、時間がたつにつれ、徐々に落ち着いてきた。

 深く深呼吸をすると、少し間をおいて再び質問してきた。

「……で、お前はそれを見せてなんだ? 自慢したいだけか」

「い、いや……。そうじゃなくて、さっきも言ったろ。世界がどうのって……だから、よければ」

「世界を守れ……ってか。バカげてるな。……俺達に手伝えるのか?」

 白山が、今までに見せた事のない様な真剣な顔をした。それだけ、本気だと言う事だ。

「……ああ。他のみんなも、頼む。あの夢の中の話が本当だとしたら、白山の言うとおり、誰かが世界を巣くわなくちゃいけないんだ。……と、思う」

 自信はない。本当に世界がどうかなってしまうような感覚は、まだ全然無い。

「俺らなんかでいいのかよ? 三人までなんだろ? だったら高槻にも相談した方がいいんじゃないか? あいつはこういうの好きだろ。それに、何気にあいつ攻撃的だぞ?」

 確かに。自称も通称も厨二病なあいつの方が、色々いいかもしれない。そう思ったが、それと同時に、早くしなければならないとも思った。

 まだ何も起こっていない。起こる気配すらない。しかし、なぜか急がなければならない気がした。だが、あまりに曖昧すぎて何も言えなかった。

 まあ、少しぐらい待ってもいいだろうと、自分の気持ちを押し込めた。


 しかし、数日が経っても、高槻は学校に姿を見せる事はなかった。

「なんかあったのかな……」

 白山がぽつり、とつぶやく。

 高槻が学校を休むなど、あまり無い。メールには返信はないし、電話には出ない。

 そして、あの夢を見てから一週間ぐらいたったある日……。

 放課後。四階にあるパソコン室で一年が帰った後、顧問が居ない中、下校時刻まで活動をしていた。

そろそろ下校をしようかと思うと、突然大きな音がした。大地が割れるようなその音は、三十秒程度続いた。

 そして、次の瞬間。爆発音にも似た大きな音が耳を穿った。音が聞こえた方――窓ガラスの外を見ると、遙か彼方の上空。蒼い空に暗黒に染まるブラックホールにも似た物が広がっていた。

 遠目でよく見えないが、少しずつ回転しているようにも見える。移動しているかはいささか不明だが、しばらくそれを観察した。

「おい、山中。あれなんだ……?」

「いや、俺もよく解らない。……ん? なんだ、あれ」

 視線の先には黒い渦――の下からはき出されている黒いドット。一つではなく、無数の点。巨大な蜂の巣から蜂が出てくるがごとく、その数はどんどん増えている。

 そして、空に浮いている塊の一つがこちらに向かっている事に気が付いた。

 無数の点。それがだんだんと近づいて、徐々に大きさを増していく。

 やがて近づいてきたものが人型をしている事に気が付いた。

 ――人? いや、違う? あれは……

 確かに右腕には武装用の片手両刃剣が握られているし、人の形はしているが、毒々しい紫色が肌の色が人間らしさを無くしている。更に近づいてくると、今度は羽根のような物が見え始めた。――羽根?

 しばらくその光景を見ていたが、近づいて来るにつれて、だんだんと不安にもなっていく。

 ややパニックになりつつも、何とか自我をたもつ。すると、不意に目の前が発光した。

 思わず目を瞑り、手で覆い隠す。指と指の隙間からその発光体を見ていた。しかし、光っていたのは一瞬だけだったのか、それはもうそれは光を発していなかった。

「君!! すぐに杖を出して!!」

 突然現れた人型。こちらも羽根をはやしている。だが、雰囲気が全く違う。大きさも、まさに手のひらサイズで、片手に収まるぐらいの大きさだ。金色に輝く髪の毛。じゃまにならないように前髪は横で留めている。

天使にも見える美しい――というよりも可愛らしい少女から、再び鈴のように透き通った声が発せられた。

「早く!! 奴らは君を狙っている!! ……正確には、君の持っている魔法の力を……!!」

 魔法。それは一週間ほど前に俺が手に入れた力。正確にはもっと前からあったのだが。


 ――他の勇者を捜して、魔王を倒し、世界を救うんじゃ! 君が素質があると見込んだ物ならば、君が力を与える権利がある。しかし、それが許されるのは三人までじゃ……


「どうやら時間がないみたいだな……。山中。俺らに力をくれ。一人じゃあ無理だろ?」

 まるで俺の考えが解るかのようなタイミングで、白山は

笑いながらそういった。その目は強い意志を含んでいた。

「……いいのか? 死ぬかもしれないんだぞ」

 しかし、その目は揺るぎない確固たる意志を持っている眼だった。

「……わかった。喜田川、市ノ瀬。二人はどうする……」

「お、俺は……」

 喜田川の方は少しとまどっていたが、二人とも決意をあらわにした。

「……よし。三人とも、行くぞ!!」

 目を瞑り、横に並んだ三人に向かって手を出す。そして、力を分け与えるイメージを頭の中で浮かべる。手のひらが、だんだん暖かくなってくるのを感じた。

「みんな……受け取れ!!」

 力を込めると、自然に眼が開いた。その瞬間、手から光が溢れ出し、三人を包んだ。その間にも、危機は迫ってきているのだろう。

「……なん、だ…………。この感覚……すげぇ変だ……」

 喜田川は両手の平を交互に見て、何かを確認している。

「おぉ……。これで俺も……」

 感嘆の息を漏らしているのは白山だ。なんだかんだで一番力が欲しかったようだ。

「……」

 特に何も感じていないのか、部長氏こと市ノ瀬は首を傾げていた。

 しかし、これで全員力を手にしたはずだ。俺達を狙っているだろう敵。それらに対抗する事が出来るのか――。

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