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04:Episode 0-3

意識を他者の意識へ潜り込み、そのセカイに降り立つ。



第一次接触ファーストコンタクト――――平穏無事に成功、かな」

まずは相手セカイに歓迎と正反対の洗礼を浴びなかったことを安堵する。



視界に収まったのは深緑代わりのモノクロが広がる珍妙な森林地帯だった。

覆い茂った木々の蔭からは蛍のような発光体が所々から淡い光を放ち、何処か浮世離れした幻想的な光景を醸し出している。



「さて、どうしようかな」


無論、先導役など居る筈もなかった。

此処はあくまでも他者の気質を基に構築された独特の世界観を持つため、現実世界の法則性を当てにしては手痛い失敗をしてしまう可能性が高い。ならば、居る筈のない訪問者に対応すべく襲来する守護者ガーディアンのような存在に照会すれば良いのだが―――――。



―――――少しだけ、妙な感じがする。


僅かながらも潜入経験が有る私でも思わず首を傾げたくなった。


本来であれば、大した間もなく駆け付けてくる筈の守護者モノの気配すらない。

どんな気質の持ち主であれ、防衛機能セキュリティシステムは必ず存在する筈――――そんな理屈すら、特異な気質ともなれば関係ない話なのだろうか。



「困ったかな」


幾ら若干の経験を持ち"現実世界の法則性と乖離する場面に遭遇するかもしれない"との覚悟で望んでいたとしても、流石に相手ガーディアンの聞き分けが良い以前の問題で躓くことは予想出来ていない。

初手から予測の範疇を越えた展開には"何故"と不満を零す陳腐な単語が頭を過りつつも同時に"今回は例外が起こり得ることを事前調査段階、つまりは学者筋リウィアの言動で理解出来ていた筈"だと素直に納得も出来てしまう。



―――――"己が精神うち肉体そとを媒介にして対象全てをその身に呼び込んでおる"



「これ―――…再構成に伴う副作用、と言うことかな」


打開策として"開かずの精神セカイを術によって無理やり抉じ開け、その内を強制的に開示さればいい"――――そんな悪辣な手段が私の脳裏を掠めたが、それを安易に実行することは出来ないと直ぐに否定する。


心はヒトが持つ最も繊細な場所の1つだ。

"心象世界の手入れが叶うのは無意識下の己だけ"―――この絶対的な原則を捻じ曲げることこそ、術者にとって最大の禁忌とされている。


高位の術者ともなれば、相手の心情を汲み取る以外に相手の記憶や人格をいとも容易く改竄することが可能となってしまう。

無論それは悪意から生じた決断でなければ実行されることのない非常識な手段ではあるが、懸念事項は悪意のみではない。


例え術者側に悪意の欠片すら存在し得ない善意から生じた決断だとしても術の制御と執るべき行動の選択にミスを重ねれば、最悪相手は二度と目覚める事のない廃人と成り果ててしまう。

そんな危険性リスクがゼロではない以上、安易に危険性リスクを高めかねない強硬策を自身の選択肢に組み込める筈もなかった。



しかし、慎重を期するからと言って幾らでも時間を費やしていいかと言われればそれは有り得ない。

各自の心象世界が有する"独自性オリジナリティ"はヒトによっては時間間隔ですら現実世界と掛け離れた数値を弾き出す場合がある。流石に御伽噺"浦島太郎"のような極端な時差は有り得ないが"心象世界の経過時間=現実世界の経過時間"に成るとは限らない。




下すべき決断の選択肢はあまり多くも無いが、此処はやはり多少は時間を費やしてでも接触相手の捜索に移るべきなのか――――。



『ふむ…残滓が表層に具現する時期とは程遠い筈だが。それでもなお"泡沫の私"が此処に駆り出されたのは――――……成程な、稀人か。此度このような展開では詮無きこと、と言う訳か』

ふと、聞き覚えのない少女の声が木霊した。



悪意はおろかヒトが持つであろう何らかの気配すら感じ得ず、私自身が必要最低限の危機管理策として周囲に敷いた警戒網にも綻びは無い。



恐らくは遅れに遅れた守護者ガーディアンの類の登場であろうが、完全に不意を突かれてしまった。

即座に問答無用の敵対行動を取られなかったことだけは僥倖と言うべきだが、全方位から響く声と気配遮断を行っている観点からすれば完全に友好的と言う訳でも無いだろう。



―――――取り敢えずは、判別不明アンノウン扱いってところかな。



「……姿、見せて貰えますか。守護者ガーディアンさん」



『"守護者ガーディアン"、とな?……ふぅむ、其方そなたはそのような認識か』

侵入者わたしの呼称に引っ掛かりを覚えるのか、声の主は怪訝そうな声を漏らす。


成程。これは私の認識違いと言う事なのだろうか。

此処はセカイが違えば当然在り方も違う千差万別の異空間。若しかしたらこれはもっと異質な上位存在と言うべきなのだろうか。



「では、深層意識がカタチを為したより本人に近しい存在……との認識は?」



『それも違うのだがな。まあ、良い。見解の相違など泡沫の私にとっては些末事……"守護者おもり"とでも"役立たずハリボテ"とでも、好きに呼ぶが良い』


かの存在が何にせよ、違和感しかなかった。

心象世界の警護する"守護者ガーディアン"や自分自身も気付かないような想いが具現化したような存在である"深層意識"にしろ、その在り方は決められた行動に沿って粛々と役割をこなすような機械的な存在ではない。

行動原理こそ心の持ち主と同一ではあるが、それ等はヒトと同様に其々個性を持ち、その思考を基準に判断を下して行動に移す――――言うなれば、それ等は心象世界の警備を司る"機能ロボット"でなくただの"心象世界の住人"と呼んで差支えない存在。まず、今のように自己をぞんざいに扱う例外イレギュラーの住人何て想定外もいいところだ。



「"泡沫"?」



『なに、言葉通りの意味だ。この私なら兎も角、目覚めた私は新生する。いずれ消えるべき残滓があれこれと出しゃばったところで、今更どうこうなるモノでもあるまい』


その言葉だけで理屈は判らなくても大方の結論に導き出せる。

"目覚めた私"と"新生"は"その身に呼び込む"対象を自己へ適応させる過程の最中であり、"この私"と"残滓"は目の前の存在は心象世界の住人が再構成している留守を預かるために生成された元の人格に近い性質を持つ守護者もどきデミ・ガーディアンというところか。


「成程。なら、侵入者わたしの悪意以前の問題――――そもそも世界ここに長居は禁物、ということですか?」



『左様。セカイは今や改装作業リフォームに奔走しておる。其方そなたに如何な正当性があろうとも私は何の決裁もせぬよ。警務ガードの真似事程度なら兎も角、な』



「しかし、私も手ぶらで引き下がる訳には行きません。私は私の領域テリトリーに突如現れた不審者である貴女の処遇を決めかね、ここを覗いたのですから」


『ほぅ。それはすまぬことをした。ならば、其方そなたの応対は私の責務の範疇と言う訳か――――』


悪辣な手段の1つである強制開示を匂わせなくとも何処となく侵入者わたしの意図を理解しているのか守護者もどきデミ・ガーディアン側には明確な気配が宿った。

無論その気配を態々辿るまでもない。目の前には私より頭1つ分くらい背の低い少女のカタチをした黒い靄のような影が現れる。


『――――よかろう。其方そなたの好きに測るがいい。私に応えられる範囲であれば、な』


両手を大仰に広げ開示請求をあっさりと受諾する影の姿に私はやはりと確信出来た。

これ侵入者こちら術式ものを知っている、と。




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