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03:Episode 22

エーリヴァーガルへ出発する前夜、意外と言うべきか、納得と言うべきかは判断に迷う人物が学院を訪れていた。


―――――全く、今度は何しに来た?


私は貴賓室にて、内心で感じるウンザリとした気分を隠さないまま表情に乗せて、その人物と相対している。


周りには目や耳は無い。


セカイの異状に敏感な私だからこそ、断定出来る。

時に“古代の御業エンシェントスキル”や“失われた遺産ロストテクノロジー”等と呼称され、極一部のヒトのみに知られるいにしえに滅びた高度な技術を行使しない限り、私に感知不可能な領域は無い。術式補助システムアシストに頼る限り、セカイからの恩恵をを受ける術式補助システムアシストの権化と言っても良い私に死角は無い――――つまりは完全な1対1と自信を持って保証可能だ。



「……今回、“四霊しごと”以外でエーリヴァーガルを訪れるらしいな」


流石、耳が早い。

仕事の片手間でも私達の監視は怠っていないと言う訳か。



面白くは無いが、此方も此方で真実を隠し立てするつもりもない。



「えぇ、そうですね」

淡々と答えを返せば、その人物―――初老の男は溜息を吐く。



「一応言っておくが、この一件には“四霊かれら”が既に関与している」



「シェラザード。何故、そう言い切れるの?」



「それは……」

言い淀む男――――何処か歯切れの悪いシェラザードに対し、彼の性格を考えて、1つの推論に辿り着く。


「………まさか、この一件は貴方が仕組んだの?」

それこそお節介だと思ったが、彼は首を振り、「否」の答えを出す。


「それこそ“まさか”だ。私は伝手を頼って聞き及んだ事に過ぎない」


―――――彼等、か。


「そうなるとあの2人には厳しいかもしれない、か」

今回の依頼の遂行者のメンツを思い出しつつ、私は自然と眉根に皺を寄せ、顎に手を置いて考える。



四霊アレが絡む――――その事実は、大抵問題が複雑化した時しかない。

彼等自身が調査して吟味した結果の行動か、協力者の様な存在シェラザードから得た情報を基に弾き出された結論かは定かではないが、事の大小に拘らず、大体が面倒な事に成るのが常だ。正直、どう転ぶかが想像出来ないのが痛い。



唯、彼等も馬鹿では無い。

態々不特定多数に晒し、技量がピンからキリまでの幅の有る人員で構成する末端の民間組織ギルドに繋ぐ辺り、この案件の難易度は大して高いものではない事であると結論付けをしたい処だが、もし、あのお調子者の気が有る“白虎バカ”辺りの差し金なら――――少し考えを深く巡らさねばならないだろう、多分。



「此方は此方で今なら依頼を適当な理由で取り上げる事も出来るが?」


流石は権力者。

頼もしい発言だと――――そう解釈しても良さそうだが、私はきっぱりと「否」として首を振った。


「もう無理。シェラザード、そう言うのはギルドの裁定する前に手を回して此方に直接伝えて欲しかった。既に皆、乗り気だから。……それに、余程の理由が無い限り、まつりごとと意思決定を同じくしないのが組織ギルド設立のことわりで大原則。それを説いた貴方が介入なんて、本末転倒――――為政者として失格も良い所。……折角の良い為政者で名を通している貴方に無駄な汚点を付けるだけに成るけど?」

私―――――サヤカはお手上げと言う様に溜息を吐くのであった。










闇に沈んでいた意識が日の光を感じ、徐々に浮上する。

心地良い眠気を運ぶ熱心な睡魔はいるが、いつまでもソレに従っている訳にもいかず、私はモゾモゾとゆっくり起き始める。



「ふぁ…あ…」

大きな欠伸と背伸びと共に睡魔を振り払いながら、内心では「もう、慣れたモノだ」と苦笑してしまう。



この統合人格カナデは既に始めから存在し、嘗ての俺ミナト嘗ての私ミルティアが存在していた事なんて、まるで夢の中の出来事の様に感じる。



記憶はエナの所為で全て思い出した。


あの術によって意思は残るが、過去の私ミルティアと言う存在は消える。

故に新生と言って過言では無いからこそ、新しい私カナデに引き継がせる気は無かったのに――――。



両親は、詳しく語りたがらなかったし、ミルティアは物心ついた時から聞く気も無かったが、彼等は紆余曲折の果てに婚約して子を成し、ミルティアを儲けた。

それ自体は別に問題では無い。どちらの私ミナトやミルティアも表層まで出てしまう程の差別主義者でもないし、出生ソレは本人が選択できる範疇では無いから一々気に留めても仕方が無い事実として認める他はない。


だが、周りの眼はそうではなかった。

それが良くない事だとしても、だ。


理想論は兎も角、現実的な問題としてヒトと言う生き物は大なり小なりの差異は有れど、基本的に差別主義者だ。

私だって多分潜在的にはその分類だと思う。



だが、ヒトには理性が在る。

語る言葉やお題目は様々だが、ヒトはよく謳い上げて説く“平等”や“正義”等の理想が正にそれだ。



唯、理想論は所詮理想の域から脱する事は出来ず、今の所は決して実現する事の出来ない夢だと言っても良い。

社会構造の営みに汲みする以上、必ず上下は存在する。モノの捉え方の差異は在れど、己より下層の存在を認知し、己が立ち位置たる優越さを認識する。それをどう行動に繋げるかによって、理性と言う鎖で表層に浮上しない工夫を施すか、そのまま差別や迫害等の排他的な言動に繋がるかだ。



嗚呼、話が逸れた。


それは別問題として、嘗ての私ミルティアも“混血”と言う揺ぎ無い事実の所為で一々面倒な事態が起きた。



件数を数えるのも、思い返して語るのもメンドクサイ。

要は、一言で括れば例え能力が優秀であっても、貶す要因さえ何か有れば良いのだ。私には基本的に差別される側だからあまり理解出来ないが、明確な態度に表わす差別主義者はそう言うモノだと私は認識している。



嘗ての私ミルティアは現実に挫折した嘗ての俺ミナトとは違い、理想の体現に燃えていた。

同じ境遇の者を憂い、それを保護して戦った。故郷や周囲の環境が理想と程遠いと見るや、独りで戦った。



組織や個人がそれを認めぬのならば、己が創ろう。

無茶を承知で、戦った。言論で叶わぬのであれば、平和的な手段を講じても叶わぬのであれば、己が手を躊躇いなく汚した。



結果、少し妄信的なエナを筆頭に両親以外にも少しずつ賛同者を得た。

大陸間協定に基づいた国家では無い故に正式と認められる事は無い反乱分子扱いでも、一応は一定の勢力を得た。


だが、ソレからは更なる多難が待ち受けていた。

差別を知って迫害をその身に受けたから、手には届かぬ高き理想を胸に抱き、今の世には成し得ない協和に共鳴した筈なのに―――――迫害されたが故にチカラを持った事による反動から、今度は逆に迫害に加担しようと企てる不届きな輩が出て来てしまった。



何を抱き、何を成したかは別にして、私達の勢力はどう此方が主張しようとも、対外的には危険な組織テログループとして認知されるのが実情だ。


勿論それは理解していた。

急成長する勢力の時として、大体過激な行動に陥る可能性が高い。

故に、私は兆候に対して厳しい罰を持って対処した。



其処に区切りや際限は無かった。

懇意や恩義、貴賎も関係無く、警告を全く聞かない暴走者を有無を言わせず処断した。



その徹底ぶりは多分“恐怖政治”に等しかったのだろう。

両親を始め、理解者から多大な反発を受けたが、私は理想と言う大義エゴの為に“正義りそう”とは対極の“げんじつ”の認識を持って事を成した。



―――――唯、今思い返せば、ソレは過激的な暴力者テロリスト狂信者カルトと何が違うのだろうか?


幾ら理想は綺麗事で物事が叶う事は無いと理解していたとしても、だ。


協和を目指し、種族の特性を見た“区別”ではなく、謂れの無い理不尽な“差別”を急激に取り除こうとした。

結果は、やはり過激な行動に出る他に道は無いと妥協した。



元々、理想は現実と擦り合わせる際に多少なりとも劣化するのが必定だ。

そして成るべく理想を体現しようとすれば大体矛盾や摩擦が大きくなるのも、また必定――――。



―――――故に、急激な変化を望み、ソレの体現に全力を尽くした私の滅びもまた必定だったのかもしれない。


内外に“敵”を作り、先鋭化した。

その結果がこのザマだ。



妬み恨みを溜めた者が念密に練った企ての果てに辿り着いた裏切りと言う結末。

信頼をしていた者から出たソレによって、私は死を待つしかない瀕死の重傷を負ってしまったのだ。




「……そして私はこの身に禁忌を呼び寄せて新生するに至る、と」



過ぎた事とは言え、思わず憂鬱気味な溜息交じりの言葉に乗せてしまった。


我武者羅に地を駆けた際に偶然見つけたいにしえに伝わる術。

本来召喚術式に疎い私がソレに近しい術を行使出来たのはソレが理由だった。


勿論、いにしえは技術だけではなく、当時の様子も記してあった。

このセカイに存在する種族と魔法。今現在この身に宿るミナトの故郷セカイ御伽噺ファンタジーの産物でしか無かったソレが存在し得たその訳も。


―――――其処には思い返すだけで胸糞悪い事実が在った。





今の私カナデには不要と、ミルティアわたしは考えたんだけど――――……全く、上手く行かない」

再度溜息を吐くが、現在の気持ちは相反している。


幾らミルティアが不要と言っても、カナデは知りたかった。

伝わってしまった事に対する後悔の念と知り得た事に対する満足感が渦巻く気持ちは、何処かモヤモヤと引っ掛かって幾分の気持ち悪さを覚えてしまう。




唯、これだけは幸いと言うべきか。

エナがクレストアここを訪れたこと――――私と言う基盤は失っても、彼等は存在していると言う事実。


唯一の救いとして、権力基盤は実質的には両親に有った事で一事が万事に至らなかった。

基本的な報道網は王国寄りとは言え、未だにビフレスト南部の混乱の報が、今でも僅かに耳に入る。故に彼等は存在しているのだろうと思う。



「……止め。過去に浸るのもこの辺りにしておかないと」

そう言って思考を打ち切ると、私は頬をパチリと叩いて気を入れ直す。


流石にこのままサヤカと顔を合わせれば何か感付かれてしまうだろう。

記憶が戻った―――その事実は、あの時に再度邂逅した後も、今現在でも内緒にしている。



我が義姉あねはカンが良い。

感傷を引き摺ったままでは、それを辿られる。



――――知られてしまう。それだけが少しだけ、怖い。


例え、以前に「居場所は此処だから」と私を包み込んでくれたとしても、だ。


私の所業、私の顛末。

こんな私を受け入れてくれるとは、どうしても思えないから―――。



ルビを一部修正しました。

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