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01:Episode 20

学院に戻るとラヴィーネことエナの件は個人的な事情と言う大まかな理由で退学と成っていた。


正体を明かしても、ミルティアが戻らなかった。

つまり、ラヴィーネとして戻る益も無いと言う結論は、もう此処ですべき事も無いと言うこと。その事実は確認するまでも無く解り切っていた問題とは言えど、カナデは少しばかり残念な気持ちだった。




だが、それは兎も角として―――――――。



「さて、サヤカ」



「何かな、カナデちゃん」



「色々質問したい事が在るんだけど良い?」


少々厳しめの表情で詰問するカナデに対し、サヤカはニコニコしながら「何でも聞いてくれたまえ」と余裕の表情だった。

実際、もうあまり隠し立てする気も無いのだろうか。時が来たと言わんばかりに喜々としている。





「サヤカがしてきた事………後、“朱雀”って何?」




「んー……何処から話せばいいのかな。取り敢えず、私が吟遊詩人が謳う魔王を倒したってところは話したよね」



「うん」


それは知らされていた。

“勇者”は苦闘の末、“魔王”を倒した―――――その御伽噺とその後の仕打ちを。



「その後、束ねていた藁がばら撒かれた様に各地で内乱が起きた。此処、今クレストアと呼ばれる地域だって例外じゃない。………ホント、各地でね」


まるで望まれていなかった旧体制の時世よりも混乱した混沌のセカイ。それは皆が皆、有力者が競う様に挙って頂点を目指した結果だった。

旧来の体制を駆逐し其処から生まれる安定など来なかった。



「その頃の私もシェラザードの下に居てね。彼にも元々懇意にしている者が居た。彼がクレストアとしてこの地を統治する際にね、その懇意にしていた者達の助力を得てこれ以上戦火が拡大しない様にと願いを込めて“四霊”と言う組織が出来たって訳かな」



「“四霊”?」

カナデが鸚鵡返しで聞き返すとサヤカは頷く。



「やってきた事と言えば……危険な研究や不穏な召喚術を行使する者の捕縛や破壊、時には国家間や地域の内紛に対する戦闘介入。―――――それが“四霊”の役割」



これまで一体幾らやってきたかな、と数えるサヤカの姿。

本来であれば、魔王を倒した彼女は戦いから解放されても良い筈だとカナデは少しばかり感情的になった。



「そんな事、やっていたの?」



「んー…でも、カナデが来るまではそれ程熱心じゃなかったかな?」


実際、サヤカは自堕落ぶりは“四霊”でも話題に上っていた。

連絡をすれば欠席は当たり前。作戦に至っては遂行した事すらなかった徹底ぶりだった。



だが―――――。


「でも、カナデとあんな出会い方をすれば、誰でも何かが起きると思う。だから、“朱雀”として“四霊”として動く事を決めたんだよ?」


そして実際に起きたあの出来事。

ミルティア=エルメントと繋がりのあるエナの潜入工作とカナデの完全覚醒、南北ビフレストでの御子の召喚。

召喚自体は術士が少なく、早々に出来るものではないのだが、念には念をとあの時もサヤカは術士の口を物理的且つ永久に封じた。それ自体はカナデの与り知らぬ事ではある。




「……他に誰が居るの?」




「“蒼龍”、“玄武”、“白虎”と私こと“朱雀”の4人かな」



「ギルドみたいなもの……?」

カナデの呟きにサヤカは首を振る。



「一寸違うかな。私達はギルドと違って、誰かが依頼を頼み遂行するものでもない。こっちは各個人に独自権限が認められていて、任務を独自に決める。……常に現場での事象が最優先されるから」


それは同時に大きな危険性を伴う。

強大な力が強大な権利を持つ組織。少数とは言え、決して侮れはしない。色々な意味で。



チカラは何で包み隠そうとも、唯チカラでしかない。

幾ら“正義”や“正論”と言った正しさを説こうにも、例えどんな立場のヒトであったとしても、元よりヒトの視点と言うものは酷く曖昧で歪だ。ヒトが存在すれば、そのヒトの数だけ色々な価値観は存在するのだから。

どんな聖人君子であれ、暴走する危険性が無いとは言い切れない。


組織単位でならば尚の事だ。

本当に慈善事業で動く組織などほぼ皆無と言っても良い。一概にそれ自体が悪と断じて論ずる事は出来ないが、何らかの利益メリットがあるが故に行動するのがヒトと言う生き物だ。そして、どんな理想を叶えようとも何処かに利益メリットが発生すれば損害デメリットは必ず何処かに生じてしまうのが現実だ。


“四霊”は大陸間協定に基づいて設立された公認組織でもなければ、大多数の民に認知された存在でもない。

ならば、それが皆にとっての正しい事、利益に繋がる事として証明する術もないのだ。


非合法、非公認、秘密裏。

誰にも知られる事のない極秘で動く独自の活動――――そんなモノに対して覚える懸念が無いと言えば嘘に成る。



「……成程」

故に、話を交わす内にカナデの表情は自然と厳しいモノに変わっていく。

そんなカナデに対し、サヤカはカナデの頭の上にポンと手を乗せて微笑んだ。



「でも、一先ず問題は片付いた。今度いつ召集されるか判らないけど、それまでは学院に居るつもりだから」



サヤカも此方の抱く懸念が解っているのだろう。

特にこれと言った活動に対する深い理解を求める言葉は何もなかった。



まるで、与えるべき情報は与えた。

後の判断は己が自身で下せ。



そう言わんばかりに――――。




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