20:Episode 18
闇に紛れる。
月下の煌きに紛れた森林の造詣とは趣が異なる歪なカタチ。
―――――それが何を意味しているのか、言うまでも無い。
「見張りは問題無し、かな?」
仮面を被ったサヤカが頭の中の情報と照らし合わせながらポツリと呟く。
エルメント。
あの子を最初に拾った時からシェラザードが調べ続けていた家名。
―――――まさかこんな形で役に立つとは。
普段は鬱陶しいシェラザードの情報に感謝しつつ、慎重に足を運ぶ。
警備の眼を潜り、警報装置の呪いを施した庭園をスルスルと踊る様に抜けて行く。
「………」
屋内に侵入するのは、存外に容易かった。
目的の場所へは後少し―――――――。
カナデは静寂に満ちた深夜にも拘らず、眠れなかった。
それに――――
―――――“何か”が騒がしい。
そう感じた瞬間、目の前に仮面を付けた女が現れた。
夜襲か。
思わず武器を構えるが、向こうは此方の姿を見止めるなり、仮面を脱ぐ。
「なんだ、カナデか」
その姿、見間違える筈も無い。
白髪に黒い瞳―――――これの正体はサヤカ=フュルギアだった。
「なら、話は早い。……召喚された者は何処?」
だが、態度はいつもと違った。
任務でも請け負っているのだろう。仮面を被り直すと唯、淡々と聞いてくる。
―――――嗚呼、目的は同じかもしれない。
「サヤカ。私が連れてくるよ」
幸い、シオンとは部屋は隣同士。
扉をノックして其々ので取り決めた合図【日本語】で対応を行い、シオンが出てくる。
そして、室内へ案内すると先ず目に付く不審者――――サヤカと視線が交錯する。
「このヒトは?」
「安心して。このヒトは私の姉だから」
シオンは少しだけ胡散臭そうな目で見るが、最終的には「姉であれば」と言う事で納得する。
「詳しい事情や話は後にして。今は脱出が先決だから」
その時、コトリ、と小さな音がする。
瞬間―――――。
「…………残念ですが、御二方共其処までにして貰えますか?」
絶対零度の瞳を携えたエナが背後に立っていた。
そして問答無用でサヤカに斬りかかるが―――――
『召喚:セクメト』
と呟くとサヤカの周りに魔方陣が展開される。
エナの切っ先がサヤカに触れる刹那、何者かの両腕の小手で防がれた。
―――――獣人?
口元から覗く鋭い牙、縦に尖った様な瞳孔。
鋭利な爪に鋼の体躯――――まるで別次元の何かが居た。
「セクメト。時間稼ぎを」
「御意に」
セクメトと呼ばれた獣人らしき者は雄叫びと共に一気にエナの剣を押し返す。
「ホラ、こっちはこっち!」
サヤカはシオンを御姫様抱っこすると窓を威圧で吹き飛ばした。
そして煙幕を投げ付け、退路を確保する。
シオンが羞恥心のあまり、抗議の声を上げているが、サヤカは完全に無視をしている。
窓から脱出を図ろうとする2人に対し「ま、待て!」と声が上がるが、
「貴様の相手はこの私だ!」
とエナはセクメトに押し戻される。
カナデはその動向が気に成りつつも、サヤカに付き従う様に窓辺へと急ぐ。
そして、そのまま2人と共にこの場を脱出した。
『召喚:飛龍』
地に魔方陣が展開され、逃走手段用の2匹の龍が召喚される。
サヤカとシオン組、カナデと別れて搭乗するとバリバリと様々なモノを裂く様な音を立てながら離陸した。
行き成り召喚された挙句、行き成り拉致。色々不安なのだろう。
シオンが当然の様に「何処へ向かってるのか」と問えばサヤカは「秘密」だと答える。
バサ、バサ、と比翼が風を切る。
少し肌寒さを感じる中、カナデは「サヤカ」と声を掛けた。
「ん~?」
「私が1人で解決に走ろうとしたこと、怒ってる?」
「少しね。でも、近頃よく学院を空けていた私の所為でも在るから、私も強く言えないかな」
「でも、サヤカがこれまで何をしていたのか、今日ので解った様な気がする………」
サヤカの活動。
セカイの監視と制裁。恐らく、カナデとの学院生活の一端も任務に含まれていたのだろう。
「……軽蔑した?」
サヤカは自嘲気味に問い掛けるが、カナデは否、と首を振る。
「私も反対の立場ならそうすると思う。サヤカが軽蔑される様な事なんてないよ」
カナデは思う。
謎の少女を拾ってくれたことに対する当然の対処だろう、と。
「……有難う」