18:Episode 16
「カナデが居ない?」
四霊の仕事を終え、サヤカは学園に戻った
情報交換の為、立ち寄ったシェラザードの部屋にて出たのが、冒頭の第一声である。
「随分と失態ね、シェラザード?」
ジロリ、と睨む様に彼を見詰めるが、彼とて無策だった訳では無い。
サヤカや他の学生の手前、露骨な監視は付けなかったものの、いつでも監視はしていた。カナデが連れ出された程度ならソレで判る筈だった。
だが、現実は違う。
ラヴィーネ=ヴィントシュトース。彼女が最もな不審者だが、最終的にはカナデの意志自体によるものだと言うのが2人の共通認識だ。
「恐らく、何らかの拍子で記憶を取り戻した可能性が高い」
記憶が戻っても私達は変わらないと誓った矢先の筈なのに。
居場所はちゃんと此処に在ると伝えた筈なのに。
「あの、バカ………」
―――――折角家族が出来たと思ったのに……
サヤカの嘆きは声に成らないまま、溜息へと変わった。
取り敢えず、カナデ達の扱いは休学と言う形で処理を行った。
それは、サヤカとて例外ではなかった。
彼女が居ない以上、この学院には用は無いが――――――身体の何処かが倦怠感を訴え、何もやる気が起きない。故に自室に籠っていた。
「………これから、どうするのですか?」
蒼龍の落ち着いた声が今は少しだけ鬱陶しい。
「どうしようか…ねぇ……」
カナデが居ない。
それだけで景色が此処まで違うとは思わなかった。
―――――全く、手の掛かる妹だ。
だが、サヤカには何と無くカンが在った。
彼女もビフレスト関連で動いている筈。ならば、現状を継続する事が得策だと言う事を。
「……いや、少しでも情報が欲しい。私が南へ。ミュリアは北を」
サヤカは表情を引き締めれば、ミュリアは安心した様に微笑んで頷いた。
「承知しました。判断はいつも通り“四霊”独自の権限でお願いします」
ソウガとニーナは突然自体に戸惑っていた。
フュルギア姉妹とラヴィーネが休学するとの一報に納得も行かなかった。
教師陣に詰問しても、理由は私事の一点張り。不審極まりなかった。
「でも、この情勢下なら仕方が無いと思いますが――――――」
「―――――だが、アイツ等は何一つ情報をくれなかった。俺達は信用されてねぇって事か?」
いつもの訓練室にて。
冷静なニーナに対して、若干イライラをぶつかる様にソウガは壁を叩く。
ビフレスト内紛劇。関連は其処に在るのだろうと理解は出来る。
「多分、逆だと思います。彼女達なりの無用な心配を掛け無い為かもしれません」
これも理解出来る。
だが――――。
「それこそ無用な心配だっての」
ソウガは溜息を吐き、腰を下ろす。
誰もお喋りは居なかったが、それでも存在感は人一倍在った。
今日は広く見える訓練場。ニーナと2人で使うには少々勿体ない様にも見えなくはない。
「……と言う事は、今日はオマエと逢引みたいなモンだな」
ニヤリとソウガが笑えば直ぐに「何をバカな事を」とニーナからじゃれ合い程度の軽いパンチを貰う。
それを片手で軽くあしらい、「まぁ、そう照れんなよ」と更なるからかいを含んだ言葉を放つ。
―――――まぁ、こうでもしないとボロか出る。俺はオマエの様にヒトが出来てねぇからな。
ソウガは目の前で少しだけ怒った表情を見せるニーナに向かってそう思いつつ、偽りの笑顔を振る舞った。