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17:Episode 15

それはサヤカが学院に戻る数日前のこと。

彼女は、シェラザードと面会し、情報を交換していた。


「………情勢悪化?」


「あぁ。急速に工業化を進めるビフレスト北部に対し、南部一部地域では星霊信仰の妨げになると猛反発が出ている」


星霊信仰――――。

天地全てに置いて高い霊格を帯びた種が存在し、ソレを神と崇めるのがミズガルズ大陸民の宗教である。

例えば、家を建てるのであれば、土地神に刀剣を鍛えるなら鍛冶神にと多種多様な霊格が備わっており、単一を信仰している事はまずない。


ソレに対して、今行われている事は、サヤカの故郷風に言えば“産業革命”。

森を切り開き、鉄道を敷く。

森を切り開き、工場を設ける。

安価な製品から高価な製品までの販路を一気に拡大し、各都市圏を縮める事によって更なる富を得る。


無論上手く行けば、の話だが。



「……くだらない」

サヤカはその考えを一蹴する。


各地に点在する“霊獣”。

彼等に密接するエルフを始めとするヒト類に反論が無くとも、“霊獣”の同意等取れる筈も無いのだ。



故に同意が得られなければ、従属か屈服、駆逐を選ばせるしかない。

ならば、ビフレストが取る対策の可能性としては一つ――――――。



まさか・・・降臨・・を?」

最悪のケースを想定するサヤカに対し、シェラザードは半ば肯定をする様に溜息を吐いた。



「其処まで愚かでなければ良いが、な」































その後、ミュリアと合流してシェラザードの話を伝える。

北部の工業化。南部の不安定化。信仰対象足り得る“霊獣”対策の為の布石。

それを全て伝え終えるとミュリアの表情が曇った。


「どうやら、同行して正解でしたね」


今回の議題は難しかった。

簡単に片方を滅ぼせば良いと言う話ではない。下手を打てば内戦に成る。


「……私達エーリヴァーガルはあくまでも中立ですが、クレストアも同様ですか?」


「そう。相変わらずの非戦かな」


だからこそ、公な介入は出来ない。

そもそもビフレストが勝手に引き起こして、勝手に滅んでも自国には関係無い。

既に先の旧ヘルヘイムの中立区へ進行している時点で大陸間協定を破っている。助ける道理は無いのだ。


「でも、“四霊”はエーリヴァーガルの意向とは直接関係無い」


だからこそ、私的な介入は出来る。

元々旧ヘルヘイムの様な暴走が出来ない様に創られた、文字通り一騎当千以上を誇る星霊寄りの組織だ。


故に――――。


「なら、今回も私が出るよ。ビフレストには色々因縁もあるから」



「……火消し役を買って出る、と言う事ですか?」


いや、とサヤカは首を振った。

全ての火種が吹いた時、全てに介入出来る訳は無く、精々味方した数区が守れれば僥倖な程度しか出来ない。


―――――私が“御子”として果たすべき事は一つ。


必ず彼等はやる、と断言出来る。

“御子”の勇猛さは各地に知れ渡っており、彼等は互いに呼び出す術を知っている。結末は――――語るべくもなく、解るだろう。


「恐らく彼等は“切り札”を抜く事に躊躇いはしないと思う。だけど、私はそれ等が異界で命を懸けた代理戦争に成るのだけは止めてみせる」



このセカイで命を懸けた争い――――

部外者だけは巻き込ませたくない―――――



「……それが私の役割かな」

































ある日、それは突然に起こった。

ビフレスト南部、都市サントメール周辺地域の王国離脱――――実質上の独立宣言。


―――――此処、中立クレストアのペレグリン学院も騒然とした雰囲気に成っていた。


幾ら干渉しないと言っても国境沿いの警備を増強し、万が一に備える。

幸いにもビフレスト出身者は少なく、混乱は大して起きていないが―――――カナデはラヴィーネの事を心配していた。



ラヴィーネの出身はビフレスト王国。

いつも無感情そうに見えても、今回の一件で心を痛めているだろう。


何より、ラヴィーネは仲間である。

そんな彼女の様子が気に成り、カナデは部屋を訪ねる事にした。




コン、コン、とノックをすると「どうぞ」と無機質な声が返って来る。

微妙に歓迎されてない気がしてきた雰囲気だが、カナデは覚悟を決めて扉を開くと其処には、無表情で座るラヴィーネが居た。



―――――勢いで来た反面、話題が思い付かない。


「あの、さ……」


「………何?」


まるで取り付く島が無い様な素っ気無い応答に返す言葉も見当たらない。

カナデは他人様の部屋で呆然と立ち尽くしているとラヴィーネも手持ち無沙汰な様子で溜息を吐く。




「「―――――――――」」



互いにかわす言葉も無く、唯互いの瞳が交錯する。

短い様で長い沈黙の後、ラヴィーネが根負けした様に溜息を再度吐いた。





「………まだ、思い出せないのですか?」



「え?」


「少し目を瞑って下さい」


行き成り口を塞がれた。

同時に流れ込む固形物を押し込ませる様なラヴィーネのディープキスがカナデを襲う。



ゴクリ、と“何か”を飲み込まさせる。

行き成り何をするのかと彼女に抗議の声を上げようとした瞬間――――――



「うぐぅ…あああぁあああああぁああああああッ!」


身体中から激痛が走り、色々な情景が網膜の内に流出する。

サーベラス。此処に居る彼女と共に築き上げた組織がソレだ。

其処に君臨していた盟主。それこそが、私。



「―――――私は?私……は……一体………」


胸が張り裂けそうになる。

何故忘れていたのだろうかと声に成らない嘆きが悲鳴を上げる。



「……漸く思い出して頂ける」


此方の憔悴具合に満足そうな笑みを浮かべるラヴィーネ、否―――――



―――――もう、私の靄は消えた。


「ラヴィーネ…いや、エナ=サーディア」

睨み付ける様な視線をカナデは投げかけるが彼女は、感涙に咽び泣いていた。



「良かった。もう2度と思い出して頂け無いかと思ったら、私は………」


だが、今の私・・・にとっては記録だ。

残念な結果をラヴィーネもといエナに伝えないといけない。


「でも、私はミルティア=エルメントじゃない――――――私の名は、カナデ=フュルギアに変わりない。……だから、残念だけど其方の期待には沿えない」



「貴女様の御両親が帰還を御望みでも?」


―――――両親が待っている。


その単語は“湊”に良く響いた。

無償の愛を受けたにも拘らず、何も返せなかった彼。故に反故に出来る筈ないと主張する。


だが、反面“ミルティア”は冷めていた。

何を今更と。あの召喚術・・・・・を行った時点でこの身はミルティアではないと主張する。




「…………それに貴女は断れない」


エナが徐に差し出された1枚の書状。

その内容をカナデが読み始めた瞬間、顔色が変わった。


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