16:Episode 14
サヤカから手紙が届いた。
手紙内容には「色々ゴタゴタしている」らしく、其方には当分帰れないとのこと。
全文を読み解く限り、誰かからの依頼を遂行している節に見えるのだが―――――何せ、サヤカは多分世界最強。手加減とか匙加減にでも困っているのだろうか。
―――――でも、サヤカなら大丈夫。
カナデには絶対の信頼が在った。
だからこそ、少し寂しいが、安心して待てると言うモノだ。
休日も終わり、ペレグリン学院に出向くと早速ソウガからの恨み節を貰ってしまった。
曰く、「何故チームなのに誘ってくれなかったのか」。
街の散策序でにギルドに寄ったカナデ自身としては、それぞれ思い思いの休日を過ごしている彼等を態々呼ぶと言う概念が頭から抜け落ちてしまったので素直に謝る事にするが、それで彼が納得しなかった。
結局、ニーナが止めに入って諌めるまではクドクドと小言を聞く羽目に成ったのともう一つは―――――――――――。
「よし、真剣勝負と行くか」
―――――意味が解らない。
取り敢えず戦闘準備を始めるソウガに対して此方は理解が追い付かなかった。
ニーナに助力の視線を飛ばせばそのまま逸らされてしまう。ようは、ソウガの気の済むまで付き合えと言う事か。
仕方が無い。
カナデは溜息を吐きながらガンブレードに弾丸を込め始める。
設定が非殺傷設定である事を確認。後は開幕を告げるニーナの合図だけだ。
「両者準備が整ったら、前へ」
最近のカナデは身体と心の同調が良い。
丁度良い機会だと全神経を戦闘状態へ移行すれば、複数案上がってくる。
―――――成程。ラヴィーネがガンブレードを渡してくれたのはそう言う意味も兼ねているのか。
1人ニヤリ、と笑いを零せば、
「おぉ、今回は随分と余裕だな、オイ」
と、一寸ばかり御怒りモードのソウガが居る。
「それでは―――――――始め!」
号令と共にソウガは「うおぉぉぉ」と気合の籠った声で突撃する。
「やれやれ、真正面からとは………主の性格通りじゃのう………」
「そうでも無いぜ?」
正面のソウガが陽炎の様に消え、代わりに2体の分身を引き連れて現れた。
分身が分身を増やし、それはカナデを取り囲むようにして広がっていく。
「……中々やりおる」
―――――だが、甘い。
『装填』
カナデが一言呟けば、武器を介して身体に魔力が満ち満ちて行く。
弾丸に込められた強力な魔力による圧倒的な身体強化により、カナデは間合いを一気に詰める。
「なっ」
「――――――乱れ桜を御堪能あれ」
大量に撃ち尽くされた魔力弾で作り上げられた弾幕によって敵が動きを止める中、その間に魔力収束を行い、そして最後の大技を組み上げる―――――。
『破壊』
膨大な魔力を固めた滅茶苦茶な一撃でソウガ+αを撃退する事が出来た。
・・・が。
「……抜かった。威力操作を間違えて私まで巻き込まれるとは」
「ア…阿呆…だろ、オマ…エ」
両者、オーバーダメージにより倒れ込む。
ソウガを倒した事には倒したのだが、カナデ自身の自爆と言う結果により、引き分けに成ってしまった。
その夜、サヤカが久しぶりに帰還した。
曰く、「本来すべき事」に従事していたらしい。今までサボっていた分、暫く其方優先になるとのこと。
今回も一時的で、直ぐに仲間の下へと戻らなければならなかった。
「それで、カナデの方は依頼も訓練も大活躍だって聞いたけど?」
「……誰の情報?」
適当な情報にも程が在る。
「さあ?」と答えをはぐらかす笑顔のサヤカに少しだけ呆れた表情を見せつつ、
「逆だよ、逆。依頼はコンビを組んだノーマリィのお陰で訓練は自爆して同時討ちになっちゃっただけ」
そう。
依頼はあくまでもノーマリィの“耳”と知識による成功。
訓練は最後にカナデの取った収束魔法は、勝利に重きを置くのであれば、敗北だ。
―――――少しも活躍出来ていない。
「ふぅん。でも、何か少しずつカナデ内のズレは解消しつつあるみたいね」
「ズレ…?」
「ミルティアのこと。全然思い出せないって言ってたでしょ?」
そう言う事か、と納得する。
最近の戦闘では身体からジワリジワリと戦い方を思い出せる。このまま行けば、ミルティアの記憶も戻るかもしれない、と言う訳か。
そう考えるとカナデにも感慨深いモノがある。
だが、同時に記憶を取り戻した“カナデ”は果たして――――――
―――――彼女の下に相応しいモノなのか。
カナデの眼差しが不安で揺れ、視線が縦横無尽に彷徨う。
何処か居心地の悪さを感じかけた時、「ふぅ」と小さな溜息が聞こえた。
「何かよからぬ事を考えて良そうだけど、これだけは絶対に忘れないで欲しいかな。色々思い出してもカナデの居場所は此処だから――――――それだけは忘れないで」