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15:Episode 13

後始末をミュリアに任せ、カナデとノーマリィは村へ戻り、一足先に報告を行った。

いずれ使者が来る事を告げると、この村の神官だろうか―――――村長に睨まれている。


恐らくは何故知らなかったのかと詰問しているのだろう。

答えるすべも無く唯、目に見えて狼狽える姿は少し可哀想だった。




しかし、何はともあれ、依頼は無事に終了し、街へと戻った。

ノーマリィにのお陰――――と言うより、全てがノーマリィの成果で成功に転じた。



―――――もしも、カナデだけだったら………



そんな事を考えるだけで背中が寒くなったが、取り敢えずは“成功”の2文字でカナデは安堵出来た。

やはり、これが実戦。腕っ節だけでは何も出来ないと言う事が改めてよく解る。


ふと、そんな事を考えていると背後からポン、と肩を叩かれる。

振り返ると其処には何らかの液体が入った瓶を片手に持ったノーマリィだった。


「カナデ。この後、一緒にどう?」


グラスを2つ持っていると言う事は、此方のセカイでの仕事を収めた“お疲れさん会”でもするのだろうか。

勿論、断る理由も無く、「はい」と応じ返すと2人だけのささやかな宴が催された。








グラス一杯になみなみと注がれた液体―――多分、匂いからして葡萄酒の様だ。

唯、気に成るのは、“カナデ”は飲んで良いのかと言う点であるが、向こう(ミナト)の世界なら兎も角、此方では一向に問題ないのだろう。問題が有ればノーマリィがとめている筈だ――――――多分。



「「乾杯」」

カチン、とグラスを鳴らして軽く一杯酒を飲む。



「しかし、カナデは凄いわね」

ふと、ノーマリィがそんな事を呟く。


「普通、“霊獣”を見た子はパニックを起こすのに、顔色一つ変えない。まるで場数を踏んだベテランのようね」


「そうでもないですよ。私だって内心冷や汗ものでしたから」


「本当に?」と訊くノーマリィにカナデは肯定的な意味を込めて笑う。

確かに圧倒的な存在感は大したものだが、敵意も害意も無いのであれば警戒も必要ない。今まで引き受けた受諾者がナニかを勘違いして対応を見誤った―――――唯、それだけに過ぎないのだから。


「でもね、過ぎた謙遜は逆に嫌味に聞こえるわよ。称賛は素直に受け取っときなさい」


軽く窘める様に言うノーマリィだったが、カナデには彼女に違和感を覚えていた。

たかが、と言っては失礼だが、武芸者如きが自然から知識を吸い上げた彼女の技量は一介の術者の域を超えている。


「でも、何で唯の魔物退治じゃないって気付いたんです?」


そう。此処だけが唯一の疑問だ。

他の依頼受諾者の中にはエルフや獣人が居る筈。なのに、彼女だけ気付いた。それが最大にして唯一の疑問だったのだが――――――。


「それは秘密よ。武芸者が自身の長所をそう簡単にネタバラしすると思う?」

チ、チ、チ、と愉しげに指を振るノーマリィにはぐらかさた。


だが、当然と言えば当然の話だ。

2人は出会ってまだ数日しか経ってない仲だ。


「あ、それもそうですよね」

納得したカナデの返事に「随分と物分かりの良い子」と、ノーマリィは少しだけ肩透かしを食らった様な仕草を見せる。




その代わりに宴席では、色々な話が聞けた。

カナデが自然から声が聞こえない悩みを打ち明ければ、それは決して血の所為ではないと。

受信機となる自分自身の受信範囲が狭い為、何も聞こえないだけだと言う事を教えて貰った。



―――――初任務。とても、有意義だった。


一寸したアクシデントが在ったものの、こうしてノーマリィと一緒に会話を愉しんでいる。

カナデとして自分自身が成長の糧を得た。サヤカの頼りを無く―――――――それが何と無く自立の一歩だと思えた。




























エーリヴァーガル。

其処では今か今かと待ち侘びていた蒼龍が漸く帰って来た。


「只今戻りました」


「お疲れ様、蒼龍。どうだった?」

待ち侘びた、と言わんばかりにサヤカが蒼龍に労い、報告を求める。


「まぁ、双方納得して頂けた様でした。寧ろ、先客が居て私が動く必要も無かった位ですから」


珍しい事も有るモノだ。

近頃の武芸者でそんな知識・・・・・を有しているなんて、中々優秀なのも居たものだ。


「へぇ…最近、武芸者の質が落ちて来てるからどうかとも思ったけど、まだまともな子達が結構居るのかな?」


「えぇ。少なくとも私が在った2名は状況を把握していました様ですし」


「………と言う事は、リーダーは珍しく良い“耳”を持ったエルフさんかな?」


「当たりです」

そう言って蒼龍はコートを脱いで仮面を外せば―――――。



「ノーマリィ=デイナン。彼女は優秀なエルフでした」

カナデやノーマリィが在った人物―――――ミュリアだった。


「お、麗しのミュリア姫の御登場か」

ここぞ、とばかりに白虎が茶々を入れるが、サヤカとミュリアの4つの眼がソレを黙らせる。


「唯、少々気に成る事も有りましたが………」


「気に成る事?」


「フュルギアを名乗る少女が同行していました。……名を“カナデ=フュルギア”と言います」


「あ、それ私の妹」


サラリとサヤカの口から漏れた言葉に2人は「はぁ?」と呆気に取られる。

そもそも“四霊”自体がプライベートで付き合う方が少ない為、一々互いの諸々の事情など知った事ではない。

故に朱雀、蒼龍、玄武、白虎と言う称号以外は特段相手の事を知らないのも無理もない話だった。


「ふ~ん。あの子、1人で依頼受けようとしたなんて………感心、感心」


「あ…あの、心配とかされないのですか?」

ミュリアが少し呆れた様子で聞くがサヤカにとっては何故、と言える。


蒼龍ミュリアが居たから心配ないかな。……それに今回のは大人しい案件だったからね」



そんな問題で済む話なんだろうか。

ミュリアはそう感じたが、ご機嫌なサヤカの手前、その問題はグッと喉元で抑える事にしておいた。

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