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14:Episode 12

此処は“四霊”の集まる部屋。

其処には朱雀サヤカと白虎が取り残されている。


「……全く。いつまで待たせるのかな、あの国は」

サヤカが愚痴を零せば、白虎が「何か用事でもあるのか」と問う。


恋人これか?」

茶々を入れたジェスチャーで伝える白虎に対して、サヤカは冷笑で返す。


「単なる家庭の都合。……それに恋人なんて“四霊”に選ばれる前から当に諦めてるよ」


「何か年寄り思考な台詞だな、オイ」



「年寄りで結構。何もしない白虎よりはマシ」


何で玄武の極秘任務プライベートミッションにバックアップしなかったかと詰問するが、相手は白虎。

こんな簡単な事で驚いたり怖がったりするタマではない。



「お~怖い怖い。このままじゃ、朱雀サヤカの煉獄に燃やされちまう」



「………まぁ、私も蒼龍からの連絡待ちなんだから、変わらないのかな」

そう言って脱力したようにズルズルと態勢を崩し、ペタンと机に顎を乗せる。



「「あ゛~……暇だね………」」

思わずハモってしまった。






























ノーマリィ=デイナン。

この銀髪のエルフ女性は、カナデのパートナーだ。

聞けば、彼女はこの国――――クレストアの騎士団所属らしい。

ギルドには頻繁に顔を出し、後輩達への面倒見が良い事からいつの間にか付いた二つ名が“お節介”。本人もそれ程嫌がってはおらず、寧ろ光栄な事だと思っている。



「あの……」



「“ノーマリィ”で良いわよ。“さん”も要らないわ」

非常に気さくな態度で応じられるとカナデは年上なのに本当に良いのだろうかと思い、戸惑う。


「え、と…ノーマリィ」


何かしら、と訊き返す姿から見てもやはり問題は無いと見る。

取り敢えずはその問題は御仕舞いにして、カナデは疑問を一つぶつけてみる事にした。


「今回の魔物退治、どう思います?」


「どう、とは?」


「今回の魔物騒ぎは少なくとも犠牲者・・・は出ていません。学院生であるしろうとが受けれる位ですから、ランクも低く設定されています。其処から考えると若しかして―――――」


自分の推理を最後まで言おうとした矢先、ノーマリィに手で制される。

そして、窘める様にカナデを諭した。


「ストップ。その先はダメよ………モノの真偽は実物を確かめてから、ね」









時間は夕刻――――。

まだ日の明るい内に街道沿いを進む2人は夜営の準備を整える。

ノーマリィの話では、此処数年は色々と情勢は落ち着いているが、安心は出来ないとのこと。だからこそ、こうした開けた場所に宿泊するのだと言う。



「―――――それに、貴女も初めてでしょう?」

そう訊くノーマリィの言葉にカナデはYESと答える自信が無かった。

このパチパチ、と燃える焚火に闇夜の独特の静寂―――――新鮮味がある反面、何処と無く既視感が在った。



「多分、そうです」



「多分?」


ノーマリィの鸚鵡返しにしまった、と思った。

まさか、カナデと言う人間が誕生した経緯を語る訳にもいかず、


「私、記憶喪失なんです」

と切り返すのが精一杯だった。



向こうも事情と察したらしく、心情からそれ以上の追及はしなかった。

代わりに降りる長い沈黙―――――何とも気まずい。



「あ、でも、今は義父も義姉も居ますから幸せですよ。学友ともだちだって居ますから」

実際、義父シェラザードはかなり微妙な関係だが、此処で名前を上げないのも可哀想なので、この際混ぜておく。



「そう……本当に幸せなのね?」



「はい」

カナデの自信に満ち溢れた返事にノーマリィも満足気に笑みを返した。





その後、2人で夕食にありつく。

少々マナーが悪いが、互いの武器を見せ合い、戦法を話し合った。

聞けば、ノーマリィは杖を見せ、他者や対象物への補助を主とする後衛型だと言う。カナデは先にラヴィーネから貰ったガンブレードを見せた後、補助系統は皆無だと告げる。


「私がサポートに回るから、貴女は好きなように暴れて良いわよ。思いっ切り、全力で」


「解りました。武器出力は非殺傷設定スタンモードですか?」


「いいえ。依頼は駆除だから殺傷キルでお願いするわ」


―――――殺傷キル


カナデにとって初めての経験と成るであろう実戦。

顔色がその一言に一瞬だけ表情が固まるが、決意を固めて頷く。



そして最後にノーマリィが防犯用の遮断結界を張り、本日は御開きと成る。

いつもより少し早いが、彼女達は明日に備えて就寝する事にした。













1泊を経て、辿り着いたのは、新興された辺鄙な村。

其処に居る依頼主――――村長の話では、夜な夜な現れては農作物を襲うとのこと。

被害者は出ていないんですか、と改めて問えば頷かれる。正しく依頼通りだった。



―――――だけど、何かきな臭い。


カナデはそう思いながらも、着々と交渉事を取り決め行くノーマリィの横で沈黙を保つ。

どの道、肝心の魔物の住処は村外れの密林の中だと言う。

ならば、エルフの独壇場だ。大自然の加護を自然的に付与されているのはエルフと獣人ビーストだけ。

若干の差異は有れど、此方にとっての領域――――ハーフエルフ半獣ハーフビーストのカナデにとっても好都合だ。……但し、使用方法がよく解っていないが。




「さて、始めましょう」


森林の中、ノーマリィは深呼吸を行い、耳を澄ます。

其処には雑念などない。カナデから見たら、それは自然と一体化した姿が具現化したようだった。



“森の民”。

エルフは伊達にその二つ名で呼ばれている訳では無い。






「……成程、ね。皆が言うには、目標に敵愾心は無いわ」

数分後、ノーマリィから語られた言葉にカナデは首を傾げる。


全く言っている意味が解らない。

だが、ノーマリィは何か確信を得た様に突然古そうな地図を広げ、現在地を確認すると1人で納得した様に頷いた。



「正直、藪を突いて蛇を出す程度なら良いのよね……」


眉間に皺を寄せ、顔に不安を出すノーマリィに対し、カナデも雲行きが怪しくなってきたと不安感が募る。



「あの、何か問題でも在ったんですか?」

思わず口からその言葉を吐けば、ノーマリィはまいった、と言わんばかりに溜息を吐く。


「これ、唯の魔物退治じゃないわよ。……恐らく“霊獣”よ、“霊獣”」


魔物とは、文字通り魔力を持つ生物。

“霊獣”とはそれの頂点に属する精霊格の生物の総称だ。

彼等は其処等に居る魔物とは桁違いの魔力と知識を有し、人語を完全に理解する。ならば、争いにならずに交渉事で済むのではないのか―――――カナデは少しだけ甘い考えが過ったが、何故ノーマリィは浮かなかった。



「忘れたの?依頼はソレの駆除。……土地神にも等しい彼等に出来る筈がない」



それでも依頼は依頼だと、ノーマリィは歩を進め、カナデも彼女に付いて行く。

行けども行けども獣道。漸く開けた道に出た矢先―――――。




『ほぅ。此度の訪問者は可愛らしい娘2人組か。少しは賢そうじゃのう』

声のこだまの先を振り向けば、其処には見た目は唯のデカい狼にしか見えない存在―――――“霊獣”が其処に在った。


威圧感、と言うべきか。

かの者に魅入られれば、逃れる術はないと本能が囁く。

かの者の怒りを買えば、辺り一帯焦土と化すのも造作も無い気がする。


―――――土地神。でも、依頼は目標としての駆除と言う矛盾。


しかし、ノーマリィは平然とした様子で臣下の礼を取る。

その行動に慌ててカナデも同様の動作を行う。



「この地を統べる王よ。要件は言わずとも解っていらっしゃいますか?」

デカい狼―――もとい霊獣が『うむ』と頷く。


『無論じゃ。何処ぞの村がこの所、ギルドに魔物退治の依頼が出しておるのは承知している』



「彼等は貴方の存在を御存知で?」



『知らぬだろう。あの村のみ、我に開設の挨拶をせなんだ。恐らくは、“儀式”を知らぬ連中が興した村のようじゃ』


大戦により、荒れ果てた大地。

其処を開拓し、様々な場所で村が新興している。その中でも余所者揃いは伝承に疎い。それだけに無知を教えれば、無益に血を流す事も無い。


「ならば、御話は早いですね。私が使いと成り、村へと報告に参りましょう」

ノーマリィの提案に霊獣は『否』と首を振る。


『それには及ばぬ。……先日、我の下に知人が訪ねて来てな、今此処に居る。彼奴に行かせよう』

霊獣が『姫』と声を掛ければ、繁みの向こうから蒼髪の女性が現れた。



「ミュリアです。此度は我が古き盟友が迷惑をお掛けしました」


「ノーマリィ=デイナンです。いえ、此方こそ物事の本質を見誤り、危うく依頼を鵜呑みにしてしまう所でした」

互いにガッチリと握手を交わし合うと、ミュリアはカナデの方に視線が向く。


「え、と…此方の子は?」


「カナデ=フュルギアです。ノーマリィとのコンビで此処まで来ました」


「フュルギア……」

何かを噛み締める様に呟くミュリアの顔をカナデは何か変な事をしたのではと内心で少し焦りながらも、ジッと彼女を見詰める。


「いえ、変わった苗字だからつい、ね」

すると此方の視線に気付いたミュリアが「ごめんなさいね」の挨拶と共にその訳を口にした。


フュルギア。

気にした事は無いのだが、改めて考えると確かサヤカが付けた位だから珍しいんだろう。




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