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11:Episode 9

何故か頭がボーっとする。

いつの間にか気を失ってしまったのだろうか、私は控えのベンチに寝かされていた。


「………ぅ?」

ゆっくり、少しばかり後頭部がズキズキする。

何が在ったのだろうか、とその経緯を考えるべく思考の海に沈みかけたが――――………



―――――チェックメイト。


頭の中で反芻するその言葉ですべての状況を理解出来る。

私はサヤカに負けた。唯、それだけだ。



「おぅ。起きたのか」

ふと気が付くとソウガがチラチラと此方を身ながら「大丈夫か?」と尋ねる。



一応、心身の確認をする。

流石は非殺傷と言った所か。所々の擦り傷はご愛嬌だが、全く問題は無い……が、サヤカの姿が何処にも見当たらない。



―――――何処に行ったのだろうか。


「サヤカは?」



「知らねぇ。暫く緊急の用事が出来たんだとよ。………それよりも見ろよ、アレを」

そう言うソウガの指差した先には息切れするニーナと余裕を構えるラヴィーネの姿が在った。




「凄ぇな。あのニーナを此処まで……」



ニーナが距離を取り、光球を複数弾放って牽制をするが、ラヴィーネは二丁の拳銃でソレを容易く撃ち落とす。

逆に魔力コントロールを応用し、弾丸に外殻を形成し、通常弾よりも遥かに硬質の弾丸を嵐の様に撒き散らし、ニーナは唯防御態勢を取りざるを得ない。



―――――射撃型同士の対決か?


と思いきや、ラヴィーネは拳銃をダガーの様に変形させつつ、弾幕の中を突き抜ける。

防御で一瞬反応が遅れたニーナも遅れて杖の先に取り付かせた魔力刃で応戦をしようとするが――――――。




「………終わりです」


ニーナの首元に刃を突き付け、ラヴィーネは堂々の勝利宣言。

対するニーナは、


「はい。降参です」

と清々しい表情で負けを認めた。




「良し。これで全試合終了だな」

そしてソウガが欲求不満な表情を忍ばせつつ、今回の模擬戦の終結を宣言する。


「しっかし、驚いたな」

「えぇ。私も想定の範囲外です」



「カナデもラヴィーネもはっきり言って並み以上なのは間違いなしだ」

古株のソウガもニーナも驚嘆と共に素直な称賛を贈るが――――肝心の名前が無い。


「……サヤカは?」

ふとソレに気付いたカナデの問い掛けにソウガは一瞬だけ言葉に詰まった。


サヤカの相変わらず放たれる圧倒的な存在感と底の見えない技量。

まるで御伽噺の“星霊に見初められし御子”の様だ、とソウガは一瞬だけ考えた後、ソレがあまりにも馬鹿馬鹿しい考えだと一蹴した。

他に追従を赦さない技量等、並大抵の事では身に付かない。

弛まない努力の結果であり、一々根も葉も無さそうであやふやな御伽噺に例えて片付けるのは彼女に失礼だ。


―――――何で在れ、アレは規格外だ。


「アレは別格だ。どんな鍛錬を積んだのかは知らねぇが、アイツはまだ本気を出していない。……全く、俺達はとんでもない当たりクジを引いちまったよ」

称賛を超えた何処か呆れと羨望が籠った声でソウガは総括を締め括った。







その後、小隊訓練は各個の基礎訓練と成った。

カナデは先程戦闘中に浮かんだイメージを思い出すべく、「ムムム…」と唸っているが中々思い出せない。


「カナデ=フュルギア」


突然に声を掛けられ、振り向くと其処には予想外にもラヴィーネの姿が在り、カナデは少し戸惑いを浮かべた。

彼女との接点と言えば、同じ小隊に所属している事と種族が混血な事位。全く面識の無いアタックに思わず声も碌に返せてはいないが、彼女は気にした様子はない。



「貴方は魔力刃だけでは何れ限界が来る。“ガンブレード”―――――コレを使うと良い」


淡々とした口調で差し出されたのは1対の剣だった。

だが、剣と言っても、唯の剣ではない。握りの一部に回転式拳銃型のカートリッジが装着され、装備者自身の魔力を弾倉に込める事によって銃としての役割を成す―――――言わば、強化型の銃剣兼用だった。


まるでTVゲームの様な発想だ―――――。

だが、其処には有耶無耶に終わっていたイメージがスッポリ嵌ったモノが在った。



試し斬り、試射しても全く問題は無い。

魔力の流れも落ち着いており、カナデ自身との同調も悪くは無い。


―――――何故、そんな一品を?


「あの、有難う御座います」


胸に抱いた疑問は兎も角として御礼はちゃんとしなければならないと思い、慌てて深々と御礼をするが、ラヴィーネに特にこれと言った反応は無かった。

代わりに―――――。


「………サーベラス」

謎の言葉を呟く彼女が何が言いたいのか全く分からない。


「え?」



「何でもない」

それだけ言うとラヴィーネは踵を返し、先程までの訓練に戻って行ってしまった。




―――――サーベラス。


一体何の事なんだろうか。

やけに心に引っ掛かる。













訓練は終わり、カナデは1人で寮の部屋へと戻っていた。

初めてサヤカが居ない日。何処と無く部屋が寒く感じられ、思わず毛布を手繰り寄せ身を縮ませる。


取り敢えず、グッタリとした様子でベッドに倒れこむと、何と無くボーっとした様子で天井を見詰めた。


サヤカの緊急の用事。度重なる謎の外出。

彼女の義父、シェラザード。


―――――改めて考えると何も知らない事ばかりだ。


「………“飛鷹ひだか 彩華さやか”」

カナデは溜息を吐きつつ、彼女の本来の名を口にする。



「…そして、サヤカ=フュルギア……私の姉…………」


それ以外は全く情報が無い。

身内だからこそ、何も情報が無いのがもどかしい。



「いつか話してくれるのかな…………」

ボソッと呟いたカナデの声は冷たい部屋によく響いた。




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