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10:Episode 8

ペレグリン学院に転入生がやって来た。

春夏秋冬の彩が在るミズガルズ大陸では、大体春季に入学募集を行う所が殆どを占め、余程の都合が無い限り転校を行う学生は居ない。

ニーナ曰く、此処ペレグリン学院も例外なく私達を含めた1年で複数回の転入は恐らく学院始まって以来の珍事と言う事になるとのこと。



どんなセカイでも耳の早い者は居るらしく、教室内では転校生の簡単な素性は判っていた。

ビフレスト王国出身の女。噂によれば、態々故郷の国立学院へ入学する事無く、此処に来た変わり者。――――兎に角、転入と言う珍しいモノ続きと言う事になっている。



―――――唯、サヤカや私もその“珍しい”が既に“珍種”扱いになっていないだろうか



其処は大いに気になる所ではあるが、取り敢えずは別問題。

何はともあれ、目の前の転入生。第一印象としては、何故か既視感を覚える少女だった。




「ラヴィーネ=ヴィントシュトースです。……宜しく」


萌黄色の髪の少女が平坦な口調で並べられた簡素な自己紹介に、室内からはヒソヒソとした話し声と小さな含み笑いが聞こえる。

丁度私は彼等の席とは反対に位置する為、その内容は解らなかったが―――――ラヴィーネは一瞥しただけで特に何も行動は起こさなかった。




「彼女には“ケントルム”に配属される事が既に決定している。隊長のソウガには既に了解を貰っている」




「え?」

思わず隣のサヤカに視線を飛ばせば、「知らなかった」と言わんばかりに首を振る。

ならば、と近辺のニーナに目線を合わせれば、向こうは視線の意図に気付いたらしく、片手で謝る仕草をした。



“ソウガの独断で決まりました。ゴメンなさい”


まるでそう言わんばかりのニーナの様子では、納得するしかない。

一応は転校生仲間と言う事も有り、新しい仲間が増えると言う事実自体は私も嬉しい。が――――



―――――名前もいつの間にか決まってる………


これは認識を更に改めないといけない。

ソウガ=デルコード。彼は思い付きで行動する『考えるより行動する』タイプだろう、と。













教室から各隊に与えられた部屋へ移った時の互いの自己紹介も、ラヴィーネの態度はあまり変わらなかった。

だが、一つだけ気になる事が有った。



私とサヤカ。

何かを見透かそうとしているのか、値踏みをしようとしているのか―――――何処か視線に此方を探る動きを見せている。



―――――何か気に障る様な事でもしたのか?


教室から今の今までの行動を見返しても、特に相手が気分を害する様な行動はしていない筈。

サヤカに至っても、特に目立った行動もしていないと思う。


当の本人と握手した際も特に気分を害した気配も無かった。

やはり、他のヒトの様に種族の違う姉妹関係だから珍しくて思わず凝視する様になってしまったのだろうか。



―――――多分、そうに違いない。


そうでなくては、他に落としどころが見付からない。

取り敢えず、そう思う事にした。















今日の訓練内容も他の小隊との演習では無く、隊内での訓練となっている。

ソウガ曰く「いつも木偶人形相手じゃつまらないから、1対1の決闘をする」との事でクジを配られた。



次々にクジが引き抜かれる中、ハズレが出れば良いな、なんて甘い考えが過る。

だが、そんな怠惰を運命の神が見逃してくれる筈も無く、引き抜いたクジのには「2」と記されていた。



「1」は誰なんだろうか、とキョロキョロ見渡せば、背後でトントンと背中を叩かれる。

振り返れば満面の笑みを浮かべたサヤカとその手にヒラヒラさせる紙に記された「1」の文字。



ちなみに「3」はラヴィーネ、「4」はニーナ。

ハズレは提案者であるソウガだったりする。



「……ったく、何てオチだ。……まぁ、サヤカとカナデは直ぐに準備を整えて舞台に上がれ」

若干自棄気味なソウガの投げやりな言葉に促され、私とサヤカは訓練場中心部へと向かった。




私はいつもの通り、意識を研ぎ澄まして魔力のみで構成された双剣を両手に収める。

対峙するサヤカは何やらブツブツと呟き――――。


「“イージス”。これが私のパートナー」

そう言いながらその手に収められた一振りの剣は、神々しい光沢と他の武装を圧倒する存在感を放っている。

間違いない。サヤカは先の過ちを繰り返さない様、自分自身の全身全霊に応える最良の武器を用意したのだ。



「しっかり、魔力を込めないと身体の上と下がサヨナラするから、気を付けてね」



「―――――無論じゃ。此奴等には既にいつも以上の魔力を込めさせて貰っておる」

洒落に成っていない洒落を真顔に返せばサヤカはクスッと微笑む。



「さて―――――……」



「―――――行きますか」



両者は駆けた。



サヤカの剣は軽々と振り回す一方、その一つ一つの剣戟はまるで暴風の様だ。

私なんて嵐に浮かんだ小舟と言っても良い。両手に握る剣に伝わる重圧感を何とかそらし、反撃の機会を窺いに出ても、相手には隙が少ない。



―――――少し、距離を置いて様子を見てみないと。



此処は一刻も早く態勢を立て直さなければならない。

サヤカの剣戟の衝撃も利用し、軽やかなステップで後方に逃れれば、彼女は小さな溜息を吐く。




「無闇に距離を空けるのは感心しないかな」

そう言ってサヤカの身体の周りには半円を描く様に現れるに紅の光球が9つ。



「―――――敵に反撃を与える隙になる」


言い終わるなり、全弾発射した。

光球を砲にした様に放たれる紅色の追尾弾。



―――――何て数ッ!?


1つ1つを捌くなんてモノではない。

考える余裕も無い。我武者羅に剣で対処し、迫りくる光線を全身のバネを利用して交わし続ける。



「ホラホラ。次が定まってないから太刀筋も鈍ってく」



―――――何か案は無いのか。


必死に思考を走らせれば、在った。

意外にも“湊”。彼が何処かの雑誌で見た銃と剣が合体した様な武器。

アレのイメージを膨らませれば出力次第で此方も応射可能で対処出来――――――。



予想以上に浸かった思考の海に反応がホンの僅かだけ鈍る。

そんな隙を彼女が逃す筈は無い。


「余所事はダメ。………チェックメイト」


その瞬間、私の後頭部への強い衝撃が走った後、私の意識は闇へと沈んだ。



タイトル誤字修正しました。

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