持久戦で行こう。
初投稿。メイドとご主人様の静かなる戦いの火蓋が、切って落とされる前の話。サラッと読んでいただけたら幸いです。
「お金貯めて絶対に出ていく!」
これが私の最近の口癖。
しかし、
今日もメイド長に叱られ平謝りする新人メイドの私。
かなり気が遠い話になりそうです。
井上│和泉≪いずみ≫21歳、性別はメイド服を着用してるので勿論女だ。
和泉は割れた瓶を拾い、新聞紙で包むと今度は慌てないように早歩きで
庭の隅にあるゴミ収集所らしき小屋に向かう。
長い廊下を抜け、庭に出る階段を降りるとそこに広がるのは花の庭園。
色とりどりの花が咲き誇り、木々の枝は丁寧に切り揃えられている。
この庭園は広く、奥の方に行けば菜園も広がっている。
和泉は、石畳の上を歩きつつ薔薇のアーチをゆっくりと鑑賞しながら抜ける。
「今日も綺麗ぇ・・」
ココは私の癒しの場所だ。
庭を進み、屋敷or別荘?の方を振り返ると白で統一されたヨーロッパ風の
建物が目に入る。そして此処は私の故郷とはとても離れてる。
何故ここで働いているかというと、話せば長くなるので省略するが
ここに住んでいるご主人様に、攫 わ れ た。この一言に尽きる。
よくある話って思った奴出てこい!正座1時間の刑に処す。
話が少し逸れたけど、日本から半ば無理やり連れてこられた初めての海外、
恐らくはイギリス辺りだとは思う。何故なら周りの人はほぼ金髪に近い髪に
青い目をしてるから。
私は、この状況の元凶でもある男がいる執務室を見上げた。
庭を一望できる場所にある2階が、あの男の仕事場所でもある。
『精々働くことだ。・・最も、言葉が通じないお前がどう過ごすか見物だが』
思い出してもウギィーーー!って今にも叫び出したい気分になる。
人を馬鹿にした目をして鼻で笑った男はそう言い残すと、来たばかりの私を
執事に任せて仕事の為屋敷を後にした。あいつは絶対にサドだ!!
それから数日がどんなに、どんなに!(大事なry)大変だったか
・・もう何も言うまい。
あれから、3か月半は過ぎただろうか。
何とか言葉も、身振り手振りとつたない単語でかろうじて通じるまでになった。
人間、慣れって怖いですね。大きくため息を漏らして慌しかった3カ月を振り
返っていると不意に執務室の窓に人影が見えた。
見慣れた嫌な姿に「ゲッ」と思わず声が漏れる。
あちらもこちらに気づいたのか、窓辺に立ちこちらをじっと見てきた。
金色に近い茶髪に、アイスブルーの瞳。年は27、8と言ったところか。
整った鼻筋に冷たい印象を受ける少しつりあがった目元、日焼けしなさそうな白い肌。
間違いなく美形の部類の入ってそうだ。
そして何故か日本語をペラペラ話せて、市街から離れた場所にあるこの屋敷を
最近拠点にして仕事をしているらしい。(※有能執事さん談)
なので、ほぼ毎日は顔を合わせている。朝と晩の食事時間だけだが。
数秒、双方とも睨み合いを続けて居ると男の口元がそっと何かを紡ぎ始めた。
それを何度か繰り返すので、思わず後を追うように真似をする。
「ん?・・・さ・・・お・・あぁ、ぼね。・な・・さ、・・さぼるなぁ!?」
盛大に顔を歪めた私を確認すると、男は1度だけ頷き、手でシッシッと追い払う仕草をしてみせた。
え、偉そうに~!偉いけど!腹立つぅ!ちょっと立ち止まって見てただけじゃない!
和泉は、憤慨しそうになる自身を何とか抑えつけると、男に向かって軽くお辞儀をした。
休んでいた訳ではないが、そう映っても仕方がないと判断したからだ。
しかし、顔だけは不機嫌を隠せずに男に挨拶を済ますと、くるりと背を向けて
ゴミ捨て場に向かって大股でズンズンと音が聞こえそうな勢いで歩いて行った。
その様子を見ながら、男は可笑しそうに口角を上げていたが、和泉は気付くことはなかった。
遅い夕食後、仕事を片付けた和泉は宛がわれた部屋のベットに沈むように倒れ込んだ。
「・・つ・・疲れ・・た」
部屋は6畳半程で簡易机とベットのみだが、個室なのが有難かった。
にしても人使い荒いよ。ここ最近、また嫌がらせの如く仕事量が増えた気がする。
異国人で、話せないからなのかここのメイド達の目がキツイのは恐らく気のせい
ではない。
和泉は疲れた体を起こし、ベットの下から着替えを取り出して部屋着に着替えると
ん゛~!と背伸びをして体の凝りを解して机に座り、1冊のノートを開いた。
「え~と、どこまで書いたんだっけ・・あぁ、ここまでだ」
私の唯一のストレス解消法は物書きだ。小説を言っても、ただの小説じゃないけど。
書くのはBL物。男と男のせめぎ合いのわっしょーい話である。
娯楽というものもないし、暇つぶしには丁度いいしね。
そう、材料はあの二人だ。いつも貴重な糧を頂いております。
1人は分かると思うがこの屋敷の主人でもある、ロイス。
いつも冷静で、表情を余り出さずいつも淡々と仕事をしている。
仕事に関してはメイドいわくデビルと言われる程厳しい。
なので私は影でデビルマンと呼んでいる、そしていつかこの呼び名を広めるつもりだ。
もう1人はロイスの執事も務めている秘書のマーケンさん。年はロイスと同じくらいと思う。
日系人とのハーフらしく、黒に近い茶髪に眼鏡をかけていて第一印象は、優しそうな紳士。
実際に話すと、結構低い声の物腰柔らかい口調で思わず心の中で悶えました。
そして、スケジュール管理は勿論の事、身の回りの世話まで何でもこなせる有能な執事だ。
日本語まで話せるから、マーケンさんと話す時は母国語で語り合える貴重な時間でもある。
まぁ、内容は案外どうでもいい事が多いけど。
小説のタイトルは決まってないけど、執事×伯爵という設定。
執事からの敬語攻め、萌え!普段は控え目な執事が、夜は控えないという鬼畜執事に
翻弄される伯爵。
フハハハハ!貴様は私の頭の中でデビル所か、子羊のように震える瞳で怯えているぞ!
妄想は人間に与えられた特権だね!
ちなみにマーケンさんには罪悪感が残っているけど、私だけが楽しむものだから良しとする。
ちなみに明日は休み。遅くまで起きていても良いので、私はここぞとばかりに
ロイスをいいように書いていった。
これが、近い内に仇となって自分に返ってくるとはこの時夢にも思わなかった。
「・・・・これはどういう事だ?」
「・・・・・・」
はい・・バレました。
1番知られたくない人に。
いつものように仕事をしていると、マーケンさんから呼び止められた。
それは、2階の執務室に来るようにとの事。
咄嗟に眉間に皺を寄せた私に対しマーケンさんは、困った様に笑みを浮かべつつ
『頑張ってください』と私の頭を軽くポンと置いて囁いた。
ちょ!どんだけツボを心得てるんですか!
部屋に着きノックをすると、「入れ」と簡潔な返事が返ってきた。
また現状報告かと思い、中に入れば屋敷の主ことロイスは書斎の並んだ先にある
立派な机に座り、書類にサインをしているところだった。
ロイスは和泉だと分かると、持っていたペンを乱暴に机に放る。
その仕草に、今日は機嫌がかなり悪い事が分かった。
そして先程のロイスの言葉と同時に、机の引き出しからは私の書いていた
禁断の小説がかかれたノートをつき付けられたのである。
絶句。
まさに顔面蒼白という言葉がぴったりで、私は衝撃で顔のパーツがボロボロと
取れてのっぺらぼうになった。(精神的に)
ノートを最近なくしたのは事実。休みの日に屋敷の外での買い物帰り、ベンチで
うたた寝をしてしまい、気が付いたら鞄ごとなくなっていた。
当然慌てたが、お金は少量、鍵はポケットに入れていたので鞄に入ってたのは
ノートと身の回りの消耗品だったので警察に行くまでもなかったのだ。
うぅ、目からデビルビームが出ているような気がする。
光線的な何かが絶対出てるって!だって痛いもの!目で人を攻撃できるんだね!
「・・どうなのかと聞いている、答えろ」
「・・・そ、その、ノートが何か私にか、関係が?」
視線を泳がせて誤魔化す私に、ロイスは片眉をピクリと上げて「ほう?」と
目を細めて呟いた。嘘だってもしかしてバレバレ?
「鞄がベンチに置いてあって、子供が警察に届けたそうだ。中を改めると
住所を特定するものがなかったが・・このノートに見に覚えのある名前が
記されていてな。それで住所が特定できたそうだ。
それで私も中を確認した訳だが、この筆跡‥見覚えないか?」
やばいやばいやばいっ!何でここの主の名前を英語で書いたんだ私の馬鹿!!
というか警察ゥぅ!律儀にノートとか届けないで良いよ!むしろ焼却してくれよ!
ロイスは煮え切らない私に対し、苛々を抑えるように指でトントンと机をたたく
仕草をする。かなりご立腹のご様子。これで更に嘘をつくものなら浮ぶ言葉は一文字だ。
私は覚悟を決めてか細い声で「はぃ・・」と折れた。精神的にも折れた。
「・・・・はぁ・・やはりな。問題はこの中身だ。どうして私とマーケンが
恋人同士なんだ?それで何故女役が私になる」
「・・‥すいません」
不機嫌の理由が分かった。ロイス、日本語も読めたんだ。
でも、自分の名前で男同士でキャッキャっウフフしてる文章を見ては普通怒るよね。
「・・あの、もう書きません。嫌な思いさせてすいませんでした!」
和泉は頭を深々と下げて謝罪した。人間、誠意をもって謝ればデビルマンもきっと・・。
「・・・マーケンはともかく、これで私が許すとでも?」
許してくれませんでした。
そこに居たのはまさしく悪魔です。顔が笑っていたけど目がマジです。
「あぁ、そうだ。これからは、私が英語を教えてやる。他にも色々
教育する必要もありそうだからな、楽しみだ」
この時のロイスの表情を例えるならば、水を得た魚、新しいおもちゃを見つけた
子供などが相応しいだろう。
それに私を思い通りに教育?こいつ会う毎にタチが悪くなってない?
「よろしくお願いしますロイス様」
これは私に対する挑戦状だ。誰が値を上げるものか。
和泉は小さく鼻で笑うと、スカートの裾を両手で軽く持ち上げ優雅に会釈した。
その言葉、絶対に後悔させてやるからな!
拙い文章ではありましたが、ここまで読んでいただき
本当にありがとうございます。