世界が黄色く煙る頃(Classopollis産生植物編1)
世界が黄色く、煙っていた。
クラッソポリスの季節である。
この植物は、風媒に適しているとは必ずしも言えない花粉を、とにかく数任せに大量に放出することによって繁殖する。
おかげで大惨事だ。
目に染みる。前が見えない。
目の前にある植物が、巨大な樹木なのか、足首より低い芝生のような低木なのかすらわからない。
かろうじて見えた葉をむしってみる。
鱗のような小さな葉が、びっしりと覆っているもの、あたかもスギナかなにかのように、葉がほとんど退化して枝のようになっているもの。
松ぼっくりにあたる球果も、スギに似た丸いものから、むしろトウヒに似た細長いものまで様々である。
この花粉をばら撒く植物について、私たちはあまりにも何も知らない。
それをケイロレピディア科と呼ぶのか、ケイロレピディウム科と呼ぶのか、ヒルメリエラ科と呼ぶのかすら、意見の一致がとれない。
私たちがわかるのは、それらが極めて普通な、中生代の温暖な乾燥地帯で最も繁栄した植物であり、形態は様々であれクラッソポリス型の花粉を大量にばら撒くというところまでである。
その黄色い世界の向こうに、何かしらの竜脚類だろうか、それとも木を錯視したのだろうか、大きな影が見えた気がした。
あぁ、前が見えれば。
私は車に退却した。
明日から3日は寝込むだろう。
本作では「無難なこと」の回と、攻めた想像の回を設けようと思います。
攻めた想像をするにしても、どこまでがわかっていてどこからが無理な世界なのかを示さねばならないからです。
Classopollis編 1.
あとがき
中生代、とくにジュラ紀から白亜紀前期の乾燥地を占める主力の植生が、低木なのか高木なのか、そもそも木なのかすらわからない。
…という話です。
Classopollis。
まさにこの花粉化石は中生代、とくにジュラ紀から白亜紀前期の、乾燥地における花粉記録を支配します。
きっと、巨大化を同時期に達成していった恐竜と密接に関係していた植物なのでしょう…
ところが。
その花粉親となるCheirolepidiaceae /Hirmeriellaceaeについても名称、訳語、さらにはグループの定義となる同定形質までが揺れており、Classopollis産生植物であるという以上のことを極めて言いにくい形です。たとえば、Pararaucariaの極めて保存状態の良い雌球果が大量に見つかっているにもかかわらず、花粉も葉もともなっていないことからそれをCheirolepidiaceae /Hirmeriellaceaeに含めるかどうかで意見の一致を延々見ず、系統解析でも立場が出入りしたりグループ全体が側系統群になったりと統一が取れません。気孔の構造はしばしば言われますが、乾燥地適応で収斂したと言われても納得できそうなもので…
小型の多肉質の植物から巨大な樹木まで、著しく異なる生育形が含まれていた…という話もありますが、各種復元にコンセンサスが取れていません。
Frenelopsis ramosissimaがアッケシソウに似た小型の多肉質の湿地植物としての復元の代表例ですが、後に22.5m級が想定される幹とともに見つかり(Jones Ranch、まさにサウロポセイドンの出てる産地でもある)、さらには乾燥地植生ではないかという議論もされます。
まさに大型木本なのか草本なのか湿地なのか乾燥なのか、なにひとつわかりません。
なんなら枝状に見えるFrenelopsisの表面が伸びた葉鞘なのか枝表面なのかすら議論があります。
これが、中生代の乾燥地帯で最も一般的な光景であり、恐竜を支えた植生の最有力候補の姿です。
木であった種類がいたのはたしからしいのですが、それより小さいものがいたのか。どのように育ったのか。
そもそも、しばしば乾燥が著しく進んだ中生代の景観において、乾燥に適応した小型植生はなんだったのか。イネ科やカヤツリグサ科といったいわゆるGrassはないにしても、草原に相当する乾燥地植生のない、乾燥化の進んだ時代を仮定して良いのか。森林か砂漠かという二択ではおそらくなかったはずなのですが。
さらには、あからさまに小回りの効かない巨大恐竜を、森に分け入らせて木の葉を食わせるのか。
生態学的な面から草本状植物の存在は度々提案され、しばしば前提として扱われるもの、それが何だったのか明記されることはほぼありません。
いわゆるソテツやシダといった植生は、花粉・胞子記録からはそこまでの比率を占めていません。
さらに、シダにせよソテツにせよベネチテス類にせよ、わかっている範囲でもその形もまた現代のシダやソテツからはかけ離れていたようですし、復元は未解決問題だらけです。
そもそも推論するにも関節した標本の図示が少なすぎます。シダ植物は概して乾燥が苦手なものが多いのは、有益なヒントでしょう。
しかしいずれにせよ、煙くて見えません。
文字通り、花粉記録が大量のClassopollisに塗りつぶされているのです。
ちゃんと歩ける、根拠を持って復元された世界を旅したい方は、石炭紀に行きましょう。
きわめてストレスフリーです。
→N3095KZ
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