方向性の違いで解散した最強のパーティ。それぞれが違う道を目指すも、結局再結成することになりました
伝説のパーティがあった。
彼らは、優れた統率力で多くのダンジョンを攻略してきた。
特に目を見張るのは、その速度だ。
彼らは、早くて一日に三つのダンジョンを攻略したことがある。
普通の冒険者たちなら、一つ攻略するのに短くても三日ほどかかるところを、彼らは一日で三つも攻略した。
そんな彼らは、今、
「俺、他にやりたいことがあるんだ」
リーダー、俺、ヴァンキッシュ・ランスロット。職業戦士。パーティを解散してパティシエになりたい。
「その、実は私も、・・・前衛で戦わずに裏方として支えてみたいなって最近思うようになって、」
前衛で同じく戦士のメイプル・アルドリック。先程言った通り、裏方に移行したい。
「俺、なんだか本当にやりたいことと違ったなって思ってて、」
賢者のウィルヘルム・アルバート。自分探しをしたい。
「私は、もっと自分の力が活かせる場所に行きたいと思って。そういえば私、昔子供とか好きだったから、」
魔法使いのフォン・アネット。今更思い出した将来の夢。
「そうか。・・・じゃあ、解散するか、」
ずっと一緒にやってきたメンバーだったけれども、俺はリーダーとして、みんなに決められた役割ばかり押し付けてしまっていたのかもしれない。
俺たちは、その日のうちにパーティを解散した。
別に喧嘩をしたわけじゃない。誰かが裏切ったわけでもない。
もっと単純な話だ。
みんな、自分の人生を考え直したのだ。
そして翌日。
俺は王都の菓子店を訪れていた。
「パティシエになりたい?」
「はい。ずっと、やって見たかったんです」
「あ、そうなの。今までは何をやってたの?」
「冒険者を十年ほど」
「・・・菓子作りは?」
「したことありません」
店主のおじさんは、しばらく俺の顔を見ていた。
「まあ、最初は掃除とか道具を洗ったりとか、そっちを頼むよ」
「へ?」
聞き間違いか?だって俺は「パティシエになりたいです」と言ったのだ。
それなのに、このおっさんは「掃除をしろ?」だ?
聞き間違いに違いない。ここまでの馬鹿がいるとは思えない。
「まずは三年くらい修行してから来な」
「三年!?」
「菓子作りを舐めるな」
その言葉が胸に突き刺さった。俺は今まで、剣を握って生きてきた。ダンジョンなら、一日で三つ攻略できる。魔物だって、一人で蹴散らせる。
だが、菓子作りでは・・・。
「卵を割るところからですか?」
「そうだ」
「俺、昨日までドラゴンと戦ってたんですけど。もっと、ふさわしいことがあると思うんです」
「関係ない」
完全に別世界だった。
一応俺は諦めなかった。
夢を叶えるためだ。
まずは卵を割った。
殻が入った。
もう一度割った。
今度は黄身が潰れた。
三度目。
殻が入った。
「・・・死ね!!」
殻が目に入った。
四度目。
今度はぐちゃぐちゃになって、それを舐めて拭き取ったら怒られて、ついでに腹を壊した。
「冒険者としては、俺たち伝説のパーティだったんだけどな・・・」
「菓子屋では新人以下だよ」
店主のおじさんに淡々と言われた。
厳しい世界だった。
それでも、一週間は頑張った。
一か月は頑張った。
二か月目に入ったところで、俺は気づいた。
「俺、才能ないんじゃないか?」
「今さら気づいたのか」
やれやれ、という感じでおっさんが言った。
店主のおっさんには、最後まで厳しかった。
結局、俺はその後すぐに菓子店を辞めた。
こりゃ、俺には向いていないな、と思った。
そして俺は、久しぶりに冒険者ギルドへ向かった。
冒険者に戻るしかないな、と思った。
正直、かなり後悔している。
皆は、うまくやっているだろうか。
ギルドの扉を開ける。
「・・・あ」
「・・・あ」
そこにはメイプルがいた。
「お前、何してるんだ?」
「それはこっちの台詞よ」
「俺はパティシエの修行をしてた」
「・・・そう」
「二か月で辞めた」
「笑いたいところだけど、笑えないわ」
「・・・というと?」
「私は、裏方の仕事を探したんだけど」
「うん」
「書類仕事って、思ってたより大変だった」
「・・・そうか」
「三日で辞めた」
「さすがに酷いよ」
そういって、俺達は笑った。
「ウィルヘルムは?」
「さっきまで一緒だったわよ」
「どこにいる?」
「隣の酒場」
俺たちは酒場へ向かった。
そこにはウィルヘルムがいた。
「お前、自分探しはどうだった?」
「見つからなかった」
「早いな」
「そもそも、自分が何を探してるのか分からなかった」
「・・・なるほど」
その横にはフォンもいた。
「フォンもいたのかよ。お前はどうだったんだ?」
「私は子供たちに魔法を教える仕事をしてみたんだけど」
「それで、」
「一ヶ月で辞めたわ」
「なんで?」
「子供って、魔法を教える前に走り回るのね」
「・・・そうだな」
「あと、私の魔法を見て泣く子がいた」
「それは、」
「私、子供が好きだと思ってたんだけど」
フォンは遠い目をした。
「たぶん、子供そのものが好きだったんじゃなくて、昔の自分が子供だったから好きだっただけなのかもしれない」
「哲学的だな」
「そう?正直に言うと、子供が嫌いになった」
「・・・そうか、」
俺たちは四人で顔を見合わせた。
そして、最後にウィルヘルムが言った。
「・・・なあ」
「なんだ?」
「俺たち、冒険者以外のこと何も知らないんじゃないか?」
「・・・・・」
誰も答えなかった。
否定できなかったからだ。
俺たちは十年間、ずっと冒険してきた。
剣を振って。
魔法を使って。
ダンジョンを攻略して。
仲間を守って。
それだけだった。
だから、他の生き方を知らない。
いや、この生き方しか俺達にはできないんだろうな。
「でもさ」
俺は椅子に背を預けた。
「だからって、また冒険者をやるのも違うんじゃない?」
メイプルが言った。
「そうね」
「そうだな」
「あ、・・・そう、ですね」
全員が頷いた。
冒険者になろうと思ってたんですけど、
しばらく沈黙が続いた。
俺は沈黙に耐えかねて、声を出した。
「もう一回考えてみるか」
「何を?」
「俺たちが、本当にやりたいこと」
誰も反対しなかった。
こうして俺たちは、もう一度だけ、自分たちの人生を考えることになった。
このときの俺たちは知らなかった。
まさかその翌週。
全員がまた冒険者ギルドに集まることになるとは。
それから一週間後。
俺たちは、再び冒険者ギルドに集まっていた。
「・・・結局、ここに戻ってきたわね」
メイプルがそういって、ニコッと笑った。
「ああ」
俺は頷いた。
「でも、前とは違うよ」
受付で依頼を受ける。
向かう先は、王都から少し離れた場所にあるダンジョン。
特別難しい場所ではない。
俺たちなら、昔なら一人でも攻略できる程度の場所だ。
「じゃあ、行くか。全員で、攻略しよう」
俺たちはダンジョンへ向かった。
入口に立つ。
以前なら、ここからが俺たちの本番だった。
俺が前に出る。
メイプルが別のルートから侵入する。
ウィルヘルムが魔法で罠を解除する。
フォンがさらに別の区画を攻略する。
それぞれが最も得意な場所を担当し、最後に最深部で合流する。
それが、俺たちの攻略方法だった。
だから速かった。
一つのダンジョンを、四人で攻略しているように見えて。
実際には、四人がそれぞれ別のダンジョンを攻略しているようなものだった。
それを同時にやる。
だから、一日に三つ攻略することすらできた。
元から俺達、自由にやってたじゃないか。
そりゃ、今更決められたことをやれなんて言われたら、嫌になってすぐにやめるさ。
元から、わかってたんだ。
「じゃあ、行こう」
俺はそう言った。
そして。
俺たちは全員で、同じ入口から入った。
「・・・遅くない?」
メイプルが言った。
「遅いな」
ウィルヘルムも頷く。
「昔なら、もう二階層まで行ってる頃よ」
フォンも笑う。
「いいんだよ」
俺は前を向いた。
「こういうのが、冒険の醍醐味だったんだよ。きっと」
そんなことを話していたら、最初の魔物が現れた。
俺が剣を構える。
その横にメイプルが並ぶ。
後ろにはウィルヘルムとフォン。
四人が、同じ場所にいた。
「行くぞ!」
俺が叫ぶ。
魔物が襲いかかってくる。
俺が剣を振る。
メイプルが横から援護する。
ウィルヘルムが魔法を放つ。
フォンが後ろから支える。
一体。
二体。
三体。
四人で戦ったので、魔物はあっさりと全滅した。
しかし、それとは裏腹に、俺たちはゆっくりと奥へ奥へと進んでいく。
昔なら、もっと速く攻略できた。
きっと今日だって、別々に動けば昼までには終わる。
でも。
「なんか、楽しいな」
俺が言うと、
「・・・うん」
メイプルが笑った。
「そうね」
フォンも笑う。
「俺も、そう思う」
ウィルヘルムも続いた。
俺たちは昔、最速だった。
誰よりも早くダンジョンを攻略して。
誰よりも効率よく魔物を倒して。
誰よりも効率よく、成果を上げてきた。
だけど。
それは、四人で冒険していたから速かったわけじゃない。
四人が、別々に動いていたから速かったのだ。
だから俺たちは、伝説になった。
伝説になっちゃった奴が、今更「自分探し」だとか「夢を叶える」だなんて、よくよく考えればバカバカしいことだ。
「なあ」
俺は三人を見る。
「たまには、ゆっくり行こうぜ」
「・・・そうね」
「異論なし」
「次は、前みたいにやって、それでたまには皆で一緒にやる。そんなんでいいんじゃない?」
俺たちは並んで歩き出す。
四人で。
そして、その日。
伝説のパーティは。
俺たちは、一日かけて、
たった一つのダンジョンを攻略した。
他のも見てね




