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最強の魔王はただ平穏に暮らしたい  作者: 夏2008
第1巻:皇帝の帰還
7/10

第3章:ゴブリン100体を倒す

街の片隅にある小さな酒場。石油ランプの薄暗い灯りが、集まった冒険者たちの顔を照らしていた。グラスを合わせるカチャカチャという音、武器がテーブルに置かれる金属のぶつかり合う音に混じって、あちこちから笑い声がこぼれていた。


壁には大きなボードが掛けられており、モンスターの狩猟からドラゴンの巣窟の掃討まで、様々なクエストがずらりと並んでいた。


「ゴブリンの巣窟の掃討?」


茶髪の小柄な少女は、仲間が差し出したクエストを見て眉を上げた。


「それって低レベルのクエストじゃないの?」


「ああ、でも今回はちょっと様子が違うんだ。」


向かいに座っていた大柄な戦士が頷いた。


「先週、別のグループがこのクエストを引き受けたんだけど、戻ってこなかったんだ。」


その場の雰囲気は一気に冷めた。


新入りらしき少年が、息を呑んだ。


「ゴブリンに遭遇しすぎたのかも?」


「普通のゴブリンならそんなに危険じゃないよ。」


また一人、白金色の髪をした弓兵が口を開いた。


一行は一瞬沈黙した。経験豊富な冒険者ならゴブリンを侮ることはない。ゴブリンは強くはないが、極めて狡猾で冷酷だ。油断すれば、何よりも早く死が訪れるだろう。


「それで…引き受けるか?」


茶髪の少女が尋ねた。


戦士は頷いた。


「ああ、だが準備はしておかなければならない。」


夜明けとともに、冒険者一行は街を出て、ゴブリンのダンジョンがあるという森へと向かった。


冒険者一行は以下で構成されていた。


ガレッド:重剣を操る戦士。一行のリーダー。


エリス:炎魔法を得意とする魔術師。


デイン:俊敏で追跡が得意な弓兵。


新人のレオは剣と盾を構えていた。


道中、デインは湿った地面に小さな足跡を見つけた。


「もうすぐだ。ほら、これは新しい足跡だ。」


一行はクエストで説明されていた洞窟の入り口へとまっすぐ向かった。洞窟の中からは、乾いた血とゴミ、腐った肉が混ざり合った、悪臭が立ち上っていた。


「気をつけろ。ゴブリンの魔術師かリーダーがいたら、罠を仕掛けているかもしれない。」


ガレドは囁き、全員に武器を準備するよう合図した。


一行が奥へ進むにつれて、太陽の光は徐々に消え、松明の揺らめく光だけが残った。エリスは小さな火の玉を作り出し、道を照らした。火の玉は周囲の荒々しい石壁に反射していた。


辺りはいつになく静まり返っていた。


「奴らは隠れている。」デインは囁いた。


予想通り、一行が洞窟内の広い場所に到達すると、四方八方から鋭い叫び声が響き渡った。


「ゴブリンが来る!」


暗闇からゴブリンが突進してきた。緑色の肌と赤く光る目をした小柄な怪物たちが、錆びた武器、短剣、木の棍棒、動物の骨を振り回していた。


「戦え!」


ガレドは叫び、大剣を振り上げた。


ゴブリンの一人がエリスに棍棒を振りかざしたが、エリスは呪文を唱えた。「ファイアボール!」


炎が噴き出し、棍棒は瞬時に燃え上がった。


デインは後ずさりし、矢を抜いて放った。矢はゴブリンの頭や首を貫き、次々と倒れていった。


新米とはいえ、レオは身構えた。盾を掲げてゴブリンの斬撃を受け止め、今度は剣を腹に突き刺して反撃した。


だがその時、チベットツキノワグマよりも大きな咆哮が響き渡った。


暗闇の中から、人間の皮でできた外套をまとった巨大なゴブリンが現れた。木製のメイスには奇妙な魔法のシンボルが刻まれていた。


「ゴブリンの王だ!」エリスは叫んだ。


ガレドは歯を食いしばった。「ちくしょう、こんな奴がいるとは思わなかった!」


ゴブリンの王はメイスを掲げ、呪文を唱えると、猛烈な勢いで振り下ろし、冒険者たち全員を吹き飛ばした。


「ちくしょう!」ガレドは立ち上がり、ゴブリンの王めがけて大剣を振り下ろした。しかし、刃が届く前に、剣士らしき別のゴブリンが飛び出し、鉄のメイスでそれを防いだ。


金属がぶつかり合う音が響き渡った。


「レオ、エリスを守れ!デイン、遠くから援護しろ!」ガレドはゴブリンのリーダーと格闘しながら命じた。


しかし、状況は全く芳しくなかった。彼らは数が多いだけでなく、いつものゴブリンの群れとは違い、組織化されていた。


冒険者たちは反撃を試みたが、数と戦術の違いは歴然としていた。ゴブリンたちは四方八方から彼らを包囲し、弓兵は遠距離から射撃を仕掛け、近接戦闘員は各メンバーを窮地に追い込んでいた。


ガレドは叫びながら、行く手を阻むゴブリンの剣士に剣を振り下ろした。重い剣が肉と骨を切り裂き、地面に叩きつけられた。しかしその時、背後からもう一体のゴブリンが飛びかかり、錆びた刃を彼の脇腹に突き刺した。


「ちくしょう…!」彼は歯を食いしばり、片膝をついた。傷口から血が流れ出た。


エリスは詠唱しようとしたが、詠唱が終わる前にゴブリンの魔術師が腕を振り回し、薄紫色の稲妻を放った。エリスの体は激しく痙攣し、口から泡を吹いて倒れた。


デインは慌ててゴブリンたちに矢を放とうとしたが、ゴブリンの数が増えるにつれて、彼とモンスターたちとの距離は徐々に縮まってきた。一匹のゴブリンが彼の手首を掴み、強く引っ張ったため、彼は倒れた。他のゴブリンたちもすぐに駆け寄り、歯と爪で彼の肉を引き裂いた。彼の叫び声は、野蛮な笑い声にかき消された。


新入りのレオは、盾を掲げて身を守りながら、震えながら後ずさりした。周囲を見渡すと、仲間が一人また一人と倒れていく。恐怖と絶望に目を見開いた。


ゴブリンロードが前に進み出て、メイスを高く掲げた。


「だめ…やめて…」レオは呟き、一歩後ずさりした。


しかし、逃げる隙はなかった。


メイスが振り下ろされた。


骨が砕ける音が響き、崖には血が飛び散った。


ゴブリンたちが散り散りになると、残されたのはバラバラに引き裂かれた冒険者たちの死体だけだった。中には死体をかき分け、武器や防具、さらには無傷の肉までも奪い取る者もいた。


ゴブリンロードは冷笑し、メイスを地面に叩きつけた。


彼はゆっくりと洞窟の奥へと進んでいったが…足音が聞こえた。


カチャカチャ…カチャカチャ…


彼とゴブリンたちは、そこに誰かが立っているのに気づいた。


そう、我らが魔王、シャシキ・アカズハだった。


彼は黙り込み、目の前のモンスターたちを見つめると、ゴブリンの頭を砕き、威嚇するような表情でゴブリンたちに向かって歩み寄った。


洞窟内の空気が突然、息苦しくなった。勝利の歓声を上げていたゴブリンたちは静まり返った。松明の灯りがアカズハの影をギザギザの石壁に映し出し、ぼんやりと、それでいて重苦しい影を浮かび上がらせた。


ゴブリンの王は目を細め、尖った耳をぴくぴくと動かし、まるで空気のわずかな揺らぎを聞き取っているかのようだった。その青年が誰なのかは分からなかったが、本能が彼には、これは手を出してはいけない相手だと告げていた。


アカズハは立ち止まった。彼とゴブリンたちとの距離はわずか数メートルだった。彼はゆっくりと手を上げ、服についた血を払い落とし、小さくため息をついた。


「ここの奴らは哀れだ」


「奴らは猿どもを甘く見ている」


アカズハの言葉が響き渡るや否や、洞窟全体が目に見えない重圧で満たされたようだった。


ゴブリンたちには考える暇もなかった。


「殺せ!」


ゴブリンロードが号令を咆哮すると、ゴブリンたちはまるで猛獣の群れのようにアカズハに突進した。


しかし、彼らは致命的なミスを犯した。


大きな音が響き、最初に突進してきたゴブリンの顔は瞬時に押し潰された。眼窩と鼻からは血と脳漿が粘液のように噴き出した。


アカズハはためらうことなく、剣を振り上げているもう一匹のゴブリンを掴み、そして「シュッ!」と爪で喉を突き刺し、気管を裂いた。ゴブリンはうめき声を上げ、血を流す喉を両手で押さえ、崩れ落ちた。


もう一匹のゴブリン剣士が背後から突撃し、剣を振り下ろした。しかしアカズハは首を傾げるだけで斬撃を避け、すぐにその腕を掴んで強く握りしめた。


「バキッ!」


腕の骨が枯れ枝のように砕け散った。ゴブリンは苦痛に叫び声を上げたが、アカズハが折れた腕を引っ張ると、叫び声は途切れた。ゴブリンは体から引き剥がされ、血が辺り一面に飛び散った。


ゴブリンの魔術師が後ずさりし、素早く呪文を唱えた。しかし、彼が火球を放とうとしたその時、アカズハが目の前に現れ、ゴブリンの上顎と下顎を掴み、口を真っ二つに引き裂いた。ゴブリンの舌と歯は飛び出し、内臓が剥き出しになり、血が石の床に流れ出た。


残っていたゴブリンたちは唖然とした。彼はもはや人間ではなく、怪物だった。


しかし、彼はまだ止まらなかった。


もう一体のゴブリン剣士が剣を水平に振り下ろした。アカズハは避けることなく、片手を掲げ、剣を振り下ろした。


~ドカーン!~ たった一撃で、肉を引き裂き、骸骨ごと粉砕するほどの威力があった。心臓と肺は吹き飛ばされた。


ゴブリンロードは怒りの咆哮を上げ、渾身の棍棒を振り回し、突進してきた。しかしアカズハはただじっと立ち尽くし、ゴブリンロードが近づくのを待っていた。


アカズハめがけて振り下ろされたメイスは、命中と同時に砕け散った。


ゴブリンロードは驚いて後退し、怒りに燃えてアカズハを殴りつけたが、その一撃はアカズハの頭に命中し、砕け散った。


「無駄だ。」


そしてゴブリンロードを殴りつけ、アカズハは遥か彼方へと吹き飛ばされ、玉座へと叩きつけられた。


アカズハはさらに一歩近づいた。ゴブリンロードは怯え、残った腕で大剣を掴み、アカズハへと突進した。


「大剣で俺を殺せると思うか?」


片腕しか残っていないゴブリンロードは、なおも渾身の力を込めて大剣を振り下ろそうとした。


しかし、まさに刃がアカズハの体に触れようとしたその時、


「バキッ!」


アカズハは頭を突き出して刃を防ごうとしたが、その瞬間、刃は鋭い金属片へと砕け散った。破片は跳ね返り、ゴブリンロードの顔と体を突き刺した。無数の傷口から血が流れ出た。


ゴブリンロードは息を切らしながら後退した。


恐怖。


絶望。


かつてゴブリンロードは、この地を支配し、群れの最強にして、敗北を知らない存在だった。しかし今、目の前には…真の怪物がいた。


アカズハは待つ間もなく、


稲妻のように素早く前に踏み出した。


「ポン!」


腹部への一撃で、ゴブリンロードの骨格は完全に崩れ落ちた。内臓は一瞬にして粉砕された。血が赤い波のように口から噴き出した。


しかしアカズハは止まらなかった。


彼はゴブリンロードの頭を掴み、持ち上げた。


ゴブリンロードは弱々しくもがき、頭を掴んでいる手を解こうとしたが、無駄だった。


アカズハはさらに強く握りしめた。


彼の爪がゴブリンロードの頭蓋骨に食い込んだ。肉の裂け目から血が滲み出た。


ゴブリンロードは必死にもがき、何かを言おうとした。慈悲を乞うのか?呪うのか?どちらでも構わなかった。


アカズハは冷たく見下ろし、そして囁いた。


「一つだけ覚えておきなさい。」


「これが、お前がしたことの代償だ。」


「それから、私の家の近くに拠点を建てるな。」


「バキッ!」という音とともに、彼はゴブリンロードの頭を手で押し潰した。


血、脳、砕けた頭蓋骨が辺り一面に飛び散った。首のない体は数秒間痙攣し、冷たい石の床に崩れ落ちた。


洞窟は静まり返った。


逃げる足音も、叫び声も聞こえなくなった。残されたのは死体だけだった。


アカズハは辺りを見回し、生存者はいないことを確認した。


ゴブリンに殺された者たちの死体を見ながら、彼はため息をついた。


「民兵だ。」


死体の下に魔法陣が現れ、全員を蘇生させた。


彼は立ち上がり、その場を去った。


第三章 終

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