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街の片隅にある小さな酒場。揺らめく石油ランプの灯りが、集まった冒険者たちの顔を照らしていた。グラスがぶつかり合う音、武器がテーブルに置かれる金属のぶつかり合う音に混じり、あちこちから笑い声がこぼれた。
壁には大きなボードが掛けられており、モンスターの狩猟からドラゴンの巣の掃討まで、様々なクエストがずらりと並んでいた。
「ゴブリンの巣の掃討?」
茶髪の小柄な少女は、仲間が差し出したクエストを見て眉を上げた。
「それって低レベルのクエストじゃないの?」
「ああ、でも今回はちょっと様子が違うんだ。」
向かいに座っていた大柄な戦士が頷いた。
「先週、別のグループがこのクエストを引き受けたんだけど、戻ってこなかったんだ。」
その場の雰囲気は一気に冷めた。
新入りらしき少年が、息を呑んだ。
「ゴブリンに遭遇しすぎたのかも?」
「普通のゴブリンならそんなに危険じゃないよ。」
また一人、白金色の髪をした弓兵が口を開いた。
一行は一瞬沈黙した。経験豊富な冒険者ならゴブリンを侮ることはない。ゴブリンは強くはないが、極めて狡猾で冷酷だ。油断すれば、何よりも早く死が訪れるだろう。
「それで…引き受けるか?」
茶髪の少女が尋ねた。
戦士は頷いた。
「ああ、だが準備はしておかなければならない。」
夜明けとともに、冒険者一行は街を出て、ゴブリンのダンジョンがあるはずの森へと向かった。
冒険者一行は以下で構成されていた。
ガレッド:重剣を操る戦士。一行のリーダー。
エリス:火魔法を得意とする魔術師。
デイン:俊敏で追跡が得意な弓兵。
新人のレオは剣と盾を構えていた。
道中、デインは湿った地面に小さな足跡を見つけた。
「もうすぐだ。ほら、この足跡は新しい。」
一行はクエストで説明されていた洞窟の入り口へと一直線に向かった。洞窟内からは、乾いた血、ゴミ、腐った肉が混ざり合った、不快な悪臭が漂っていた。
「気をつけろ。ゴブリンの魔術師かリーダーがいたら、罠を仕掛けているかもしれない。」
ガレッドはささやき、全員に武器を準備するよう合図した。
一行が奥へ進むにつれて、日差しは徐々に弱まり、松明の揺らめく光だけが残った。エリスは小さな火の玉を作り出し、道を照らした。火は周囲の荒々しい石壁に反射した。
辺りはいつになく静まり返っていた。
「奴らは隠れている。」デインはささやいた。
予想通り、一行が洞窟内の広い場所に到達すると、四方八方から鋭い叫び声が響き渡った。
「ゴブリンが来る!」
暗闇から、緑色の肌と赤く光る目をした小柄な怪物が飛び出してきた。錆びた武器、短剣、木の棍棒、動物の骨を振り回していた。
「戦え!」
ガレドは叫び、大剣を振り上げた。
ゴブリンがエリスに棍棒を振りかざしたが、彼女は呪文を唱えた。「ファイアボール!」
炎が燃え上がり、瞬く間にエリスは燃え上がった。
デインは後ずさりし、矢を抜いて何度も放った。矢はゴブリンの頭や首に命中し、次々と倒れていった。
新人のレオも覚悟を決めた。盾を掲げてゴブリンの斬撃を受け止め、今度は剣を腹に突き刺して反撃した。
だがその時、チベットのツキノワグマよりも大きな咆哮が響き渡った。
暗闇の中から、人間の皮でできた外套をまとった巨大なゴブリンが現れた。ゴブリンは奇妙な魔法のシンボルが刻まれた木の棍棒を持っていた。
「ゴブリンの王だ!」エリスは叫んだ。
ガレドは歯を食いしばった。「ちくしょう、こんな目に遭うとは思わなかった!」
ゴブリンの王はメイスを掲げ、呪文を唱えると、力強く叩きつけた。冒険者たちは全員吹き飛ばされた。
「ちくしょう!」ガレドは立ち上がり、ゴブリンの王めがけて重々しい剣を振り下ろした。しかし、剣が届く前に、剣士らしき別のゴブリンが飛び出し、鉄のメイスでそれを防いだ。
金属がぶつかり合う音が響いた。
「レオ、エリスを守れ!デイン、遠くから援護しろ!」ゴブリンのリーダーと戦いながら、ガレドは命令した。
しかし、状況は全く良くなかった。ゴブリンの群れは数が多いだけでなく、いつものゴブリンの群れとは違い、組織化されていた。
冒険者たちは反撃を試みたが、数と戦術の差は歴然としていた。ゴブリンたちは四方八方から彼を取り囲み、弓兵は遠距離から矢を放ち、近接戦闘兵は各隊員を窮地に追い込んだ。
ガレドは叫び声を上げ、行く手を阻むゴブリン剣士に剣を振り下ろした。重々しい剣は肉と骨を切り裂き、ガレドは倒れ込んだが、その時、背後からもう一体のゴブリンが飛びかかり、錆びた刃をガレドの脇腹に突き刺した。
「ちくしょう…!」ガレドは歯を食いしばり、片膝をついた。傷口から血が流れ出た。
エリスは呪文を唱えようとしたが、詠唱が終わる前にゴブリンの魔術師が腕を振り回し、薄紫色の稲妻を放った。エリスの体は激しく痙攣し、口から泡を吹いて倒れた。
デインは慌てふためき、ゴブリンたちへ矢を放とうとしたが、ゴブリンの数が増えすぎると、モンスターたちとの距離は徐々に縮まっていく。ゴブリンの一人が彼の手首を掴み、強く引っ張ったため、彼は倒れた。他のゴブリンたちがすぐさま駆け寄り、歯と爪で肉を引き裂いた。彼の悲鳴は野蛮な笑い声にかき消された。
新入りのレオは震えながら後退し、盾を掲げて身を守った。彼は周囲を見回し、仲間が一人ずつ倒れていくのを見た。絶望的な恐怖に目を見開いた。
ゴブリンの王がメイスを高く掲げ、前に出てきた。
「だめだ…やめろ…」レオは呟き、一歩一歩後ずさりした。
しかし、逃げる隙はなかった。
メイスが振り下ろされた。
骨が砕ける音が響き、崖に血が飛び散った。
ゴブリンたちが散り散りになると、残されたのは引き裂かれた冒険者たちの死体だけだった。中には死体をかき乱し、武器や防具、さらには無傷の肉片までも奪い取る者もいた。
ゴブリンロードは冷笑し、メイスを地面に叩きつけた。
ゴブリンロードはゆっくりと洞窟の奥へと進んでいったが、その時…足音が聞こえた。
カチャカチャ…カチャカチャ…
ゴブリンロードとゴブリンたちは、そこに人が立っているのに気づいた。
身長190センチほどの男で、赤い髪に眼帯をしていた。破れた服の代わりに最近買ったと思われる、赤黒のコートを着ていた。足元はダークブラウンのロングブーツで、背中にはバッグを背負っていた。
それはアカズハ・シャシキだった。そして、彼の手にはゴブリンの首があった。
彼は沈黙し、目の前のモンスターたちを見つめた。ゴブリンの頭を砕くと、威嚇するような表情で他のゴブリンたちへと歩み寄った。
洞窟内の空気が、突然息苦しくなった。勝利の歓声を上げていたゴブリンたちは、静まり返った。松明の灯りが、ギザギザの石壁にアカズハの影を落とし、漠然としながらも重苦しい影を浮かび上がらせていた。
ゴブリンロードは目を細め、尖った耳をぴくぴくと動かし、まるで空気のわずかな揺らぎを聞き取っているかのようだった。相手が誰なのかは分からなかったが、本能が、これは手を出してはいけない相手だと告げていた。
アカズハは立ち止まった。ゴブリンたちとの距離はわずか数メートルだった。彼はゆっくりと手を上げ、服についた血を払い落とし、小さくため息をついた。
「ここにいる人たちは、なんて哀れな人たちなんだろう。」
「奴らは、この猿たちを甘く見すぎていた。」
アカズハの言葉が響き渡るや否や、洞窟全体が目に見えない圧力で満たされたようだった。
ゴブリンたちには考える暇もなかった。
「殺せ!」
ゴブリンロードが咆哮をあげ、ゴブリンたちは猛獣の群れのようにアカズハに襲いかかった。
しかし、彼らは致命的なミスを犯した。
ドスンという音が響き、最初に突進してきたゴブリンの顔は瞬時に潰された。眼窩と鼻からは血と脳漿が粘液のように噴き出した。
彼はためらうことなく、剣を振り上げていたもう一体のゴブリンを掴み、そして「シュッ!」と爪で喉を突き刺し、気管を引き裂いた。ゴブリンは血を流す喉を両手で押さえ、窒息し、倒れ込んだ。
もう一体のゴブリン剣士が背後から駆け寄り、剣を振り下ろした。しかしアカズハは首を傾げるだけで斬撃を避け、すぐに腕を掴んで強く握りしめた。
「バキッ!」
腕の骨は枯れ枝のように砕け散った。ゴブリンは苦痛に呻き声を上げたが、アカズハが折れた腕を引っ張ると、悲鳴は途切れた。腕は体から引きちぎられ、血が辺り一面に飛び散った。
ゴブリンの魔術師は素早く呪文を唱えながら後ずさりした。しかし、彼が火球を放とうとしたその時、アカズハが目の前に現れ、ゴブリンの上下顎を掴み、「バキッ!」と口を真っ二つに引き裂いた。ゴブリンの舌と歯は飛び出し、内臓が露わになり、血が石の床に流れ落ちた。
残りのゴブリンたちは唖然とした。彼はもはや人間ではなく、怪物だった。
しかし、彼はまだ止まらなかった。
もう一人のゴブリン剣士が剣を水平に振り下ろした。アカズハは避けもせず、片手を掲げ、剣を腕に突き刺した。
「ケン!」
剣は…砕け散った。
ゴブリンが慌てる間もなく、アカズハは胸に直撃させた。
「ドカン!」
一撃で、肉を引き裂き、骨格ごと粉砕するほどの威力があった。心臓と肺が吹き飛んだ。
ゴブリンロードは怒りの咆哮を上げ、渾身の棍棒を振り回しながら突進した。しかしアカズハはただじっと立ち尽くし、ゴブリンが近づくのを待っていた。
メイスはアカズハめがけて振り下ろされ、衝突すると砕け散った。
ゴブリンロードは驚いて後ずさりし、怒りに燃えてアカズハを殴りつけたが、そのパンチはアカズハの頭部に命中し、頭部は粉砕された。
「無駄だ。」
そしてアカズハはゴブリンロードを殴りつけた。ゴブリンロードは遥か彼方へと吹き飛ばされ、玉座へと叩きつけられた。
アカズハは一歩近づいた。ゴブリンロードは怯え、残った腕で大剣を掴み、アカズハへと突進した。
「大剣で俺を殺せるとでも思っているのか?」
片腕しか残っていないゴブリンロードは、それでもなお、残りの力を振り絞って大剣を振り下ろそうとした。
しかし、まさに剣がアカズハに触れようとしたその時、
「バキッ!」
アカズハは頭を突き出して剣を防ごうとしたが、その瞬間、剣は鋭い金属片へと砕け散った。破片は跳ね返り、ゴブリンロードの顔と体を刺した。無数の傷口から血が流れ出た。
ゴブリンロードは息を切らしながら後ずさりした。
恐怖。
絶望。
かつてこの地を支配し、群れの最強にして、敗北を知らない存在だった。だが今、目の前には…真の怪物がいた。
アカズハは待たなかった。
稲妻のように素早く、彼は前に踏み出した。
~バタン!~
腹部への一撃で、ゴブリンロードの全身の骨格が崩れた。内臓は一瞬にして粉砕され、口からは赤い波のように血が噴き出した。
しかし、アカズハはまだ諦めていなかった。
彼はゴブリンロードの頭を掴み、持ち上げた。
ゴブリンロードは掴んでいる手から頭を振りほどこうと弱々しくもがいたが、無駄だった。
アカズハはさらに強く握りしめた。
彼の爪が頭蓋骨に食い込んだ。肉の裂け目から血が滲み出た。
ゴブリンロードは必死に何かを言おうともがいた。慈悲を乞うのか?呪いを?そんなことはどうでもいい。
アカズハは冷たく俯き、囁いた。
「一つだけ覚えておけ。」
「これが、お前がしたことの代償だ。」
そして、即座に。
~バキッ!~
彼はゴブリンロードの頭を手で砕いた。
血、脳みそ、砕けた頭蓋骨が辺り一面に飛び散った。首のないその体は数秒間痙攣した後、冷たい石の床に崩れ落ちた。
洞窟は静まり返った。
走る足音も、叫び声も聞こえなかった。ただ死体だけが残っていた。
アカズハは辺りを見回し、ゴブリンの姿がもうないのを見て、ため息をついた。ゴブリンに殺された者たちの死体を見ながら。
「どうせここには誰も残っていない。」
「民兵だ。」
緑色の魔法陣が現れた。クローバーの形に刻まれた魔法陣で、葉っぱ一枚一枚に古代語が刻まれていた。
この魔法はミリシア。三十六種の破壊魔法の一つで、魔王のみが使える魔法だが、アカズハはどのように使いこなすのだろうか?第一巻で明らかになるだろう。
青い光が腐敗していく死体、骸骨、そして新たな死体を包み込み、骸骨には肉が浮かび上がり、腐敗していく死体は腐敗していく肉を元の姿に戻し、新たな死体は深い傷跡を塞ぐだけだった。
全員が蘇生した。
「よし、そんなに難しいことじゃないな。」
「でも、まずはここから立ち去らなきゃ。私が蘇生させたと知られたら、説明が難しくなる。」
そう言うと、アカズハはすぐにテレポートを使って立ち去った。
第三章 終了
この章は他の章に比べてかなり短いです。




