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皇帝の帰還  作者: 夏2008
第1巻:皇帝の帰還
1/9

最初の夢

 《破壊神よ、自らが犯した罪に気づいているか?》


 黄金に輝く鎧に、神々の金属で作られた冠を戴いた長身の男、それは神々の父、天父神アモンガだった。


 そして天父神の前に座す者は、天王のような強大な怪物を拘束するために用いられる何百もの鎖で繋がれていた。しかし、苦痛を見せるどころか、ただ沈黙を保っていた。その破壊の瞳は封印の布で覆われ、一兆年の間、誰もそれを見た者はいなかった。しかし今、アモンガは、彼が苦痛ではなく軽蔑の目で自分を見ているのがわかった。


 《父上、私はそれを罪とは呼びません。むしろ、あなたのような神に与える罰と呼ぶのです。》


 その冗談めいた口調に、天父神は居心地の悪さを感じた。


 彼は苛立った口調で彼の周りを歩き回った。


 《かつてのお前は冷酷な人間だった。あの世界に生きる者の心情など顧みず、何でも破壊しようとしていた。ところが、あの少女と奴隷契約を交わした途端、変わり果て、反逆者を滅ぼすために現れた神さえも殺してしまうとは…一体どうしたんだ?破壊神め》


 アモンガは破壊神に問いかけたが、彼はただ黙って彼の顔に唾を吐きかけた。


 アモンガは何も言わず、唾のついた汚れを拭い去り、踵を返して部屋を出て行った。


 《このままここにいて、明日の朝まで待て。》


 アモンガの姿は消え、今は破壊神だけがそこに座り、神々が彼を滅ぼす明日の朝を待ち続けていた。


 部屋は暗く、壁には数本の魔法の炎が揺らめき、その光が破壊神を縛る神聖な鎖に反射しているだけだった。静寂に包まれた空間で、彼が動くたびに鋼鉄がぶつかり合うかすかな音だけが聞こえた。


 《処刑?》


 破壊神は軽く笑った。その低い声が、誰もいない部屋に響き渡った。


 《まさか…奴らは俺に勝てないから、集団で俺を襲おうとしている。卑怯者どもは今頃、俺を殺そうとしているんだな。》


 彼は腕を伸ばすと、鎖が震え、冷たい音を立てた。しかし、どれだけ力を入れてもびくともしなかった。この鎖はただの金属ではなく、無数の呪縛の呪文が込められていた。


 彼は頭を後ろに傾け、冷たい壁に寄りかかりながら、何が起こったのかを考えた。かつての彼は、破壊の力を掌中に収め、誰にも、何にも構わない、強大な神だった。しかしその時…


 一人の少女が現れた。


 彼女は神ではなかった。特別な力も持たない。ただの小さな人間だった。どんな神からも見下される存在だった。


 それでも、彼女は彼のような破壊神を変えてしまったのだ。


 彼は目を閉じた。月神の月の光が、かつての記憶を呼び覚ました。


 かつての彼は、感情のない破壊神だった。幾千もの世界を破壊し、数え切れないほどの命を踏みにじってきた。そんな中、彼に協力を申し出る勇気を持つ少女が現れた。


 イズモという名の彼女は、元々は普通の世界で弟と幸せな家族と共に暮らしていた少女だった。幸せな物語になるはずだったが、悪夢が訪れる。自分の世界に飽きた神が、この星を滅ぼし、別の星を創造しようと決意したのだ。イズモの粛清後、家族は亡くなり、弟を抱きしめて泣いていた。そんな時、神々に抵抗する組織のメンバーが彼女を組織に誘った。


 家族の死への怒りが、彼女を組織への参加へと駆り立てた。ある日、アクスハが別の世界を滅ぼした後、アクスハと出会った彼女は、特殊な装備を使い、まるで獣のようにアクスハを鎮圧した。


 破壊神は当時、彼女を顧みていなかった。人間や他の生き物が彼に抵抗する方法を見つけ、そして無意味に死んでいくことに慣れすぎていた。しかし、イズモは違った。


 彼女は特殊な武器で彼を奴隷契約で縛り付けた。誰もやったことのないことだった。


 破壊神は生まれて初めて、人間に従わざるを得なくなった。


 最初は彼女をただの笑いもの、竜を操ろうとする小さな蟻のようにしか見ていなかった。しかし、時が経つにつれ、彼の中で何かが変わった。


 彼女は彼に殺すことや、自分の利益のために力を使うことを求めたのではない。むしろ、弱者を守ることを望んだのだ。


 《あなたは全てを破壊したいわけではない。》


 それが、あの運命の日に彼女が言った言葉だった。


 《君はただ、正しいことをする理由を誰にも与えられなかった。何をすべきか分からない、ただの子供なんだ》


 そのシンプルでありながら力強い言葉に、彼は初めて自分自身を疑うようになった。そして徐々に、彼は変わり始めた。もはや、彼は自分の意思で世界を破壊しなくなった。彼はそれらの世界を観察し、耳を傾け、そして守るようになった。しかし、この変化は他の神々には受け入れられなかった。組織の一人が仲間を裏切り、最終決戦で敗北した。何千もの人々が殺され、今や生き残ったのはたった一人だけだった。


 《早く彼を舞台へ!》


 一人の天使が叫び、他の二人の天使が彼を舞台へと導いた。その下では、何千もの天界の住人たちが彼に向かって絶え間なく叫び、罵り合っていた。光が空間を切り裂き、アモンガが現れ、彼はゆっくりと着地した。


 《破壊神よ、他に何か言うことはあるか!》


 破壊神の言葉を聞いた彼は、すぐに深く考え込んだ。自分がまだ組織にいた頃のことを思い出した。


 彼は崖に座り、絶え間なく打ち寄せる波を眺めていた。陽光はゆっくりと沈み、穏やかな光景を描き出していた。常に戦争に身を置いてきた彼にとって、これほど美しい光景は見たことがなかった。あまりにも多くの破壊を見てきたからだろうか?


 《なぜここにいるの?》


 出雲は彼の後ろから歩いてきて、彼の隣に腰を下ろした。


 《景色を楽しんでいるの?》


 彼女は尋ねたが、返事は沈黙だけだった。


 出雲はそれ以上何も言わず、ただ静かに彼の隣に座って、潮風に吹かれていた。彼女は徐々に彼の無口さに慣れてきていた。


 しばらくして、彼は口を開いた。その声にはどこか遠くを感じさせるものがあった。


 《私はかつて…この世の全てが無意味だと思っていた。世界も、命も、文明も…全ては私が破壊するためのものだった。》彼は木の葉を一枚拾い上げた。


 出雲は首を傾げて彼を見た。


 《では、なぜ今ここで夕日を眺めているのですか?》


 神は少しの間沈黙し、それから唇をわずかに歪め、かすかに笑みを浮かべた。


 《わからないわ。何か平和なものを見ると、私の中で絶え間なく叫び続ける破壊的な心が、不思議なほど穏やかになるの。》


 出雲は少し複雑な目で彼を見た。


 《自分のしたことを後悔しているか?》


 今度は、彼はすぐには答えなかった。彼は自分の手を見下ろした。数え切れないほどの世界を破壊してきたその手。


 《私のような者に後悔する権利はないと思うわ。》


 出雲はため息をつき、顎を膝に乗せた。


 《あなたは本当に頑固ね。》


 冷たい風が吹き抜け、潮風の塩気を運んできた。出雲は少し身震いしたが、立ち去ることはなかった。


 《いいか、この愚かな神様、もしいつか人生をやり直せるチャンスがあったら、何をする?》


 アクスハはその質問に少し驚いた。アクスハの方を振り返ったが、イズモはただ黙って沈む夕日を見つめていた。


 やり直す?


 こんな破壊神にそんなチャンスがあるのか?


 イズモが彼の顔に手を当て、無理やり笑顔を作ろうとしているのを見て、アクスハは困惑しながら尋ねた。


 《何を…しているんだ?》


 《笑わせようとしているんだ。君が笑うのを見たことがない》


 アクスハはイズモの行動に少し呆然とした。この少女は本当に彼を笑わせようとしているのだろうか?


 アクスハはそんなこと気にしたことがなかった。神にとって感情は無意味だ。笑うことも、泣くことも、怒ることも、神にとっては何も無意味なのだ。


 しかし、無理やり笑顔を作ったイズモの顔を見て、彼は奇妙な感覚に襲われた。


 《奇妙だ…》


 彼は呟いた。


 出雲は眉をひそめた。


 《どうしたの?》


 彼はまだ自分の顔に残っていた彼女の手を軽く触った。


 《あなた。私のような人間が笑えると思ってるの?》


 出雲は彼女の手を離し、腕を組んだ。


 《他に何か?その冷たい顔を一生貫きたいの?》


 彼は少しの間黙り、それから目を閉じた。


 《もしかしたら…もう一度人生があるなら、やってみるかもしれない。》


 出雲はこの答えに少し驚いた。


 彼女は彼が反論するか嘲笑うだろうと思っていた。しかし、初めて彼は破滅以外のことを考えていた。


 彼女は笑った。


 《あなたのような神様だって夢を見ることができるの?》


 一瞬の沈黙が流れた。


 それから彼は静かに言った。


 《私は、自分の望む人生を生きたい。》


 出雲は彼を見つめ、瞳は和らいだ。


 その日が来るかどうかは分からなかったが、もし来るなら、破壊神が道を見つけてくれることを願っていた。


 現実に戻る。


 破壊神は考えを終えると、目の前を見据え、鎖を断ち切り、神々に向かって中指を立てて言った。


 《死ね、この野郎ども》


 アモンガは目を細め、鎖を外せたことに驚いた。


 《何を笑っているんだ、裏切り者め》


 彼はまっすぐに立ち上がり、天使たちが彼を引き止めようと駆け寄ったが、彼の力で消滅させられた。


 《こんな風に私を殺せるとでも思っているのか?》


 彼は頭を上げた。目は覆われていたが、それでも恐ろしい重圧を感じていた。


 《面白いな、この野郎ども!》


 天使たちは眉をひそめ、中には激怒した者もおり、今にも彼に突撃しそうな様子だった。


 アモンガは驚いた様子もなく、ただ冷たく唇を歪めた。


 《引き返す術があるとでも思っているのか? お前を殺す武器は、至高神自身の力によって創造された破壊神剣だ。》


 《へ? そうなの?》


 彼は笑いを止めたが、顔のニヤニヤは消えなかった。


 《楽しみにしているぞ、おじいさん。》


 《だが、一つだけはっきりさせておく。》


 《この破壊神は、いつか戻ってきて、お前たちに地獄がどんなものかを見せてやる。》


 輝く剣を手にした天使が進み出た。刃は天空の輝きを反射していた。彼は威厳に満ちた声で剣を掲げた。


 《破壊神よ、汝は天を裏切り、神々を殺し、幾多の異界の理を破るという大逆罪を犯した!天父神アモンガの予言により、汝に死刑を宣告する!》


 《イズモよ、どうやら俺はやり直すチャンスを得たようだ。》 そう思った。


 彼はそれを受け取るかのように両腕を上げた。


 《よし、来い!》


 刃が振り下ろされた。


 血が宙に飛び散った。


 そして破壊神は処刑された。


 しかし、彼の終わりではなかった。


 彼は深い海へと落ちていった。その時の会話が耳にこだました。


 《それで…もし君の家族がまだ生きていたなら、どうする?》


 彼はイズモに尋ねた。


 出雲は波を眺めながら言った。


 《もし家族がまだ生きていたら、百姓になっていただろう》


 彼はそれほど驚かずに尋ねた。


 《なぜ…なぜ…》


 出雲は軽く微笑み、岩に打ち寄せる波を目で追った。


 《破壊神よ、ご存知ですか?私が幼い頃、父は百姓でした。父はいつも、農業こそが人生を理解するための真の方法だと言っていました。木を植え、世話をし、日々成長していくのを見るのは…素晴らしい気持ちでした。》


 彼女は思い出に浸るように目を閉じた。


 《私はいつも父の畑へついて行き、水やりや種まきを手伝っていました。あの頃は人生で一番幸せでした。》


 彼は黙って耳を傾けた。こんな単純なことを聞いたのは初めてだった。


 彼は肩をすくめた。


 《わかりません。武器を持ち、神と戦ってきたのに、それでも農民になろうとするのか?》


 出雲は笑った。


 《全てを失ったからこそ、普通の生活に憧れる。それが何よりも私の本当の望みなんだ。》


 彼女は真摯な目で彼を見つめた。


 《あなたはどう?もしいつかやり直せるとしたら…何をしますか?》


 彼はすぐには答えなかった。その質問について考え、そして今、答えを見つけた。


「自由が欲しいの。」


 《どういう意味?》


 彼女が尋ねると、彼はただ首を横に振った。


 《僕は子供みたい。いつもすべてを破壊してしまう。それが自分のやるべきことだから。自分のしていることが正しいのか間違っているのかばかり考えていた。何が正しいとか間違っているとか、誰かに言われたことは一度もない。でも、君に出会ってから、僕の心は晴れた。》


 《もし新しい命があるなら、どんな形であれ、生きられる限りの時間を費やして、あの世や他のあらゆる世界を探検する。そうすれば、これまで理解できなかったことを理解し、感じることができる。》


 《自由な人生、好きなことを何でもできる。》


 暗い深淵の前に光が差し込んだ。


 《一体これは何なんだろう…》


 《…》


 《なんて温かいんだ…》


 光は消え、今聞こえるのはただ、赤ちゃんをせき立てる音だけだった。


 《待って、赤ちゃんが出てくる!》


 緊張した辺り一面に、慌ただしい声が響き渡った。悲鳴、水しぶきの音、荒い呼吸の音、それらが混沌とした音となって響き渡った。


 破壊神は、自分の体が締め上げられ、暗く湿った場所から押し出されるような感覚を覚えた。痛みが全身に広がり、そして――


「オエオエ!!!」


 彼は叫んだ。


 それはもはや彼自身には感じられない、自然な反射だった。


 《待て…》


 人間の体はまだ泣き続けているにもかかわらず、彼は思った。


 《今、泣いてしまったのだろうか?》


 優しい手が彼を抱きしめ、柔らかな布で包んだ。先ほどまでの暗い深淵の冷たさからは程遠い、温かい感触が全身に広がった。


 《おめでとうございます。元気な男の子です!》


 助産師の声が響いた。そして、彼は一人の女性の腕に抱かれた。彼女は疲れた様子だったが、その瞳は愛に満ちていた。額には、まだ玉の汗が浮かんでいた。それでも彼女は優しく微笑んでいた。


 《私の小さな子よ…》


 女は彼を強く抱きしめながら、囁いた。


 彼はその顔を見上げた。奇妙な感情が胸にこみ上げてきた。


 彼は本当に生まれ変わっていたのだ。


 もはや破壊神ではなく、ただの人間になっていた。


 最初の夢の終わり

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