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薄明かりの書庫番  作者: 朝陽 澄
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第58話 北方への旅、未知の災厄

薄明かりの書庫を後にし、リンは護衛と共に北方領地へ向かう馬車に揺られていた。窓から差し込む朝の光は、どこか冷たく、風に乗る土の匂いが北方の厳しい気候を告げる。


「……この匂い……土地そのものに、不穏な気配が混ざっている」


リンは小さなメモ帳を取り出し、先日調べた古文書の情報と照合する。北方で報告されている症状、気候、地形、交易記録……点と点を結ぶと、災厄の輪郭が浮かび上がる。


「ただの病気ではない……前の災厄とは性質が違う。もっと根源的なものかもしれない」


護衛の馬がわずかに立ち止まり、遠くから低い唸り声が聞こえる。風に乗って、異様に甘く、だが刺激的な香気が鼻をつく。リンは瞬時に分析する。


「……これは、香……いや、毒の匂い。大気にまで混ざっている」


馬車が北方の集落に差し掛かると、住民たちの顔色は青ざめ、表情は硬い。言葉少なに、リンに目を向けるその瞳に、恐怖と困惑が映る。


「……やはり、兆しは現実になっていた」


リンは馬車を降り、地面を踏みしめる。土の湿り気、風に混じる香、遠くで鳴く鳥の声まで、五感すべてを研ぎ澄ます。古文書の記述に沿って、症状の広がり、発症パターンを思い浮かべる。


「症状は軽度……だが、このまま放置すれば、急速に拡大する可能性がある」


リンは立ち止まり、深呼吸して呼吸を整える。北方領地で初めて目にする未知の災厄。知識だけで解決できるのか、体験しなければわからない。だが、恐怖に押しつぶされるわけにはいかない。


「行くしかない……情報を収集し、原因を特定する。知識が私の武器だ」


護衛の視線を確認し、リンは小さく頷く。集落の中心へ向かう足取りは、確かな決意に満ちていた。


背後には書庫の静寂はなく、代わりに現実の脅威が迫る。北方領地の大地に根差す未知の災厄が、リンを待ち受けている。彼女の知識と観察眼は、これから現れる試練にどう対峙するのか――すべては、彼女の判断と行動にかかっていた。

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