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呪いごっこの贈り物

作者: おたろー

あらすじ

「サイコロサイコ 第五の目 災子」のヒロイン災子と「ヒューマンバグ大学」のキャラクターの佐竹博文が夢の共演!

どこにでもいる普通の男、佐竹博文と不幸体質の少女、災子との奇妙な繋がりが明らかに!?

プロローグ:順風満帆からの転落

俺の名前は佐竹博文。どこにでもいる普通の男だ。いや、正確には、少し前までは「普通よりちょっと恵まれた男」だったかもしれない。黒焉街の東に位置する久遠町のそこそこ綺麗なマンションに住み、大手の貿易会社でバリバリ働いている。海外出張は毎月のようにあって、英語も中国語もペラペラ。取引先の外人どもに「サタケ、頭いいな」と褒められるのが日常茶飯事だった。病気? 災難? そんなもんとはほぼ無縁だ。風邪すら年に一度引くかどうか。人生、順風満帆って言葉がぴったりだった。

「佐竹君、今回の契約も完璧だったよ。ボーナス上がるんじゃない?」

同僚の田中がデスク越しにニヤニヤしながら言う。俺はコーヒーを啜りつつ、肩をすくめて返す。

「まあな。努力の賜物ってやつだろ。運も実力のうちだ」

実際、そう思ってた。俺の人生は自分の手で切り開いてきたものだ。努力と才能と、ほんの少しの幸運。それで十分だった。

その日は出張帰りで、久遠町の駅に降り立った。スーツケースを引きながら、いつもの帰り道を歩く。夕暮れ時の空は茜色に染まり、風が気持ちいい。

「ふぅ、やっと家だ。シャワー浴びてビールでも飲むか」

独り言をつぶやきながら歩いていると、公園の脇にある小さな花壇が目に入った。普段なら素通りする場所だ。でも、その日は何かが違った。花壇の前に少女がしゃがみ込んでいて、手には小さなジョウロ。ピンク色の花に水をやりながら、どこか儚げに微笑んでいる。

「お、園芸好きなガキか。まあ可愛いもんだな」

俺は軽い気持ちで近づいた。別に深い意味はなかった。ただ、順調な一日を締めくくるちょっとした癒しでも見つけた気分だった。

「おじさん、花好き?」

少女が顔を上げて、俺を見た。内気そうな声。長い髪が風に揺れ、花びらのような柔らかさを感じさせる。歳は二十代前半くらいか。俺は少し驚きつつも、気軽に答えた。

「いや、まあ、見るのは嫌いじゃないよ。綺麗だなって思うくらいだ」

「そっか。私、花育てんの好きなんだ。…でも、すぐ枯らしちゃうけどね」

少女が小さく笑う。その笑顔に、何か引っかかるものがあった。悲しげで、でもどこか楽しそうで。不思議な感覚だった。

「枯らすって、お前、よっぽど不器用なんだな。ジョウロの水、ちゃんと量ってるか?」

俺が冗談っぽく言うと、彼女は少し目を伏せて呟いた。

「ううん、違うよ。私が触ると、なんか…不幸になっちゃうんだ」

「不幸?」

俺は笑いそうになった。子供っぽいオカルト話かよ、と。だが、彼女の目は真剣で、少しだけ冷たく光っていた。

「呪いごっこ、知ってる? 触ったら伝染る遊び。私、それで…不幸になっちゃったのかな」

「呪いごっこ? 何だそれ、昔の遊びかよ」

俺は鼻で笑ったが、彼女は黙ってポケットからサイコロを取り出した。六面体の白いサイコロ。妙に古びていて、角が欠けてる。

「これ、私のサイコロ。おじさん、拾ってよ」

「拾うって…お前、落としたのか?」

「ううん、私のだよ。でも、触ったら…呪いがうつるかも」

彼女がクスッと笑う。冗談だろうと思った。俺は適当に手を伸ばして、地面に転がったサイコロを拾った。冷たい感触が指先に残る。

「ほら、拾ったぞ。で、呪いって何だよ。俺が怪物にでもなるのか?」

「ううん、そんなんじゃないよ。ただ…不幸になるだけ」

彼女の言葉が終わる前に、背後でガシャンという音が響いた。振り返ると、俺のスーツケースが倒れて中身が散乱してる。さっきまでちゃんと立ってたのに。

「おい、何だこれ…?」

「ね、言ったでしょ。私、災子って言うんだ。よろしくね、おじさん」

災子と名乗った少女が、ニコッと笑った。その瞬間、俺の足元で靴紐が切れ、よろけた拍子に電柱に頭をぶつけた。

「痛ってぇ! お前、何!?」

「ごめんね。私が近くにいると、そうなるんだ」

災子が首をかしげる。その無邪気な仕草に、俺の順風満帆な人生が音を立てて崩れていく予感がした。

それからだ。俺の人生が狂い始めたのは。会社でミスが続き、出張先で荷物をなくし、風邪を引いて寝込む。しまいには階段で転んで骨折寸前。医者には「よく生きてるね」と言われたが、俺は笑えなかった。

「災子…あのガキか。呪いごっこだと?」

鏡に映るやつれた顔を見ながら、俺はあのサイコロを握り潰したい衝動に駆られた。でも、どこかで分かってた。あの出会いが、俺を「日常茶飯事レベルの不幸体質」に変えたんだって。


第一幕:不幸の感染と佐竹の転落

佐竹博文は、かつて順風満帆な人生を歩んでいた男だった。大手の貿易会社でバリバリ働き、海外出張は日常茶飯事。英語も中国語もペラペラで、取引先から「サタケ、最高だな」と持ち上げられる日々。病気なんて年に一度の風邪くらい、事故なんて論外。だが、あの花壇での出会い以来、すべてが変わった。

「くそっ…何なんだ、このツキのなさは!」

佐竹は久遠町のオフィスで、書類の山を前に頭を抱える。昨日、重要な契約書を紛失し、上司に「佐竹、最近どうしたんだ!」と怒鳴られた。出張先では飛行機が欠航、帰国したら空港でスーツケースが消滅。しまいには、コンビニで買った弁当が腐ってた。

「俺の人生、こんなんじゃなかったはずだろ…」

佐竹はデスクに突っ伏し、ため息をつく。同僚の田中が心配そうに声をかける。

「佐竹君、大丈夫? なんか、顔色悪いぞ。最近、ミス多すぎないか?」

「うるせえよ、田中。ちょっと運が悪いだけだ。すぐ挽回するさ」

佐竹は強がって笑うが、心のどこかで違和感が広がる。あの少女、災子。サイコロを拾ったあの瞬間から、何かがおかしい。

その夜、帰宅途中で風邪をこじらせ、熱が40度近くに。フラフラしながら久遠町の病院に駆け込むと、医者が眉をひそめる。

「佐竹さん、肺炎寸前ですよ。よくここまで歩いてこれましたね。…生きてるのが奇跡だ」

「奇跡!? 冗談じゃねえよ! ただの風邪だろ!」

佐竹はベッドで毒づくが、点滴の針が刺さる感触に力が抜ける。入院生活は一週間。退院の日、医者が笑いながら言う。

「佐竹さん、ほんとしぶといね。こんな状態で生き延びるなんて」

「しぶとい…だと? ふざけんなよ…」

佐竹は病院のロビーで呟き、松葉杖を手に外に出る。まだ体は重いが、なんとかアパートに帰らなきゃ。公園を通り抜ける道を選んだのが、運の尽きだった。

夕暮れの公園。花壇の前に、あの少女がいた。災子だ。ジョウロを手に、ピンクのシャクナゲに水をやりながら、どこか楽しげに笑っている。

「…お前か」

佐竹は松葉杖をつきながら近づく。災子が振り返り、驚いたように目を丸くする。

「あ、おじさん! え、生きてるんだ。元気そうじゃん!」

「元気!? ふざけんな! 俺の人生がボロボロなのは、お前が原因だろ!」

佐竹の怒鳴り声に、近くの鳩が一斉に飛び立つ。災子は首をかしげ、無邪気な声で答える。

「あ、ごめんね。おじさんに呪いごっこ、うつっちゃったみたい」

「呪いごっこ!? 何だよ、それ! お前のそのサイコロのせいか!」

佐竹が指さすと、災子はポケットから白いサイコロを取り出す。古びた六面体、角が欠けた不気味な物体。

「これ? うん、私、これでずっと不幸だったの。転ぶし、怪我するし、花も枯れるし。でもね、おじさんにうつったら…なんか楽になったかも」

「楽になった!? お前、ふざけてんのか!」

佐竹が一歩踏み出した瞬間、足元の石につまずき、池にドボン。冷たい水をかぶり、松葉杖が流される。

「うわっ! くそっ、なんだこれ!」

「ほら、不幸って面白いよね! おじさん、すっごく似合うよ、呪いごっこ!」

災子は手を叩いて笑う。佐竹は池から這い上がり、ずぶ濡れで彼女を睨む。

「面白いだと!? 俺の人生、ギャグじゃねえんだぞ!」

だが、災子はサイコロをくるくる回しながら、どこか冷たい目で言う。

「私、ずっと不幸だったけど…おじさんが受け取ってくれて、助かったよ。ありがと、おじさん」

「ありがと!? お前、俺を…!」

佐竹が叫ぶ前に、頭上から鳩のフンが直撃。目に入り、悶絶する間に、災子は花壇を離れ、軽やかに去っていく。

「待て、コラ! 話は終わってねえぞ!」

佐竹の声は空しく響き、公園に夕陽が沈む。

それからの佐竹は、不幸の連鎖に飲み込まれた。退院した翌日、階段で転び骨折。完治したと思ったら、交通事故で再入院。会社は「ミスが多すぎる」とクビを宣告。アパートのベッドで寝込む佐竹は、ぼんやり天井を見つめる。

「あのガキのせいだ…呪いごっこ、だと?」

ポケットに手を入れると、あのサイコロがまだそこにある。冷たい感触が、佐竹の心に刺さる。

「くそ…何なんだよ、これ…」

彼はサイコロを握りしめ、目を閉じる。災子の笑顔が、頭から離れない。あの無邪気で、どこか不気味な笑顔。佐竹の人生は、ここから底辺へと突き進むのだった。


第二幕:災子の解放と佐竹の底辺

佐竹博文の人生は、あのサイコロを拾った日から坂道を転がり落ちるように崩れていった。貿易会社のエースだった男は、今や久遠町のボロアパートで、湿った布団にくるまりながら咳き込む日々だ。

「ハックション! くそっ、また風邪かよ…」

佐竹はティッシュを掴もうとしてベッドから転げ落ち、肘を床に強打する。痛みに顔を歪めながら、天井を見上げる。

「ったく、最近やることなすこと裏目だ。書類は紛失する、取引先には怒られる…しまいにはインフルエンザで入院だぞ」

先週の入院は、インフルエンザが悪化して肺炎寸前だった。医者が「佐竹さん、よく生きてますね」と笑った顔が頭にこびりついている。

「生きてるって…これのどこが生きてるんだよ!」

佐竹は叫びながら立ち上がるが、足元でスリッパが滑り、テーブルに頭をぶつける。

「痛ぇ! もういい加減にしろ、この呪い!」

呪い。その言葉を口にした瞬間、あの少女の顔が浮かんだ。花壇でサイコロを差し出した、災子と名乗るガキ。あの無邪気でどこか不気味な笑顔。

「あのガキ…今頃何してんだ?」

佐竹は窓の外を睨む。公園の花壇が遠くに見えるが、誰もいない。災子の姿はどこにもなかった。

一方、災子は別の街で新しい生活を始めていた。めたろーと駆け落ちしてから数ヶ月。借金取りの手を逃れ、二人は小さなアパートに落ち着いた。家賃は安いが、窓辺には災子が育てたピンクの花が咲いている。

「ねえ、めたろー君。この花、枯れないんだ。変だよね」

災子は花壇を眺めながら、ジョウロを手に呟く。内気な声だが、どこか軽やかだ。めたろーが台所から顔を出し、笑いながら答える。

「変じゃねえよ。災子が大事に育ててるからだろ。ほら、俺も水やってみるか?」

「ううん、私がやる。花は…私の友達だから」

災子は微笑む。彼女の笑顔には、かつての重さが消えていた。転ぶことも、怪我することも、突然の不幸もなくなった。あのサイコロを佐竹に渡した日から、まるで呪いが解けたみたいに。

「めたろー君、私…不幸じゃなくなったみたい。不思議だね」

災子が花に水をやりながら言う。めたろーは彼女の隣に立ち、肩に手を置く。

「なら、もう俺から離れなくていいよな? あの時、駅で離さなくてよかった」

「あ…うん。ありがとう、めたろー君。私、今、すっごく幸せ」

災子は顔を赤らめ、めたろーの手を取る。二人は笑い合い、アパートの小さな部屋に戻る。夕暮れの光が花壇を照らし、ピンクの花が静かに揺れる。

災子は花屋でバイトを始めた。客に「この花、元気ね」と褒められるたび、胸が温かくなる。めたろーは工場で働き、夜には二人で夕飯を食べる。貧しい暮らしだが、災子にはそれが初めての「普通の幸せ」だった。

「ねえ、めたろー君。いつか、もっと大きな花壇作りたいな」

「いいね。そしたら、俺も花の名前覚えるよ。ピンクのやつ、なんだっけ?」

「シャクナゲだよ。…私の大事な花」

災子は笑う。あのサイコロを握りしめていた手は、今、花の苗を優しく抱えている。不幸体質はどこかへ消え、彼女は新しい人生を歩き始めていた。

佐竹の人生は、対照的に地獄の底へ突き進む。退院した翌日、アパートの階段で滑って足首を捻挫。医者に「安静に」と言われたが、帰り道で自転車に轢かれ、再入院。

「佐竹さん、ほんとよく生きてますね。こんな頻度で事故る人、初めて見た」

医者の言葉に、佐竹はベッドで苦笑いする。

「ハハ…医者まで笑うかよ。俺の人生、ギャグ漫画か何かか?」

だが、笑い事じゃなかった。会社は「ミスが多すぎる」とクビを宣告。アパートの家賃も滞り、電気代の督促状がポストに溜まる。

「病気も事故も日常だ。呪い? んなもん、どうでもいいよ」

佐竹は病院の窓から久遠町の街を見下ろす。心のどこかで、あの花壇の少女がちらつく。

「あのガキ…俺に何をしたんだ? 呪いごっこだと?」

彼はサイコロを思い出す。あの冷たい感触。あの瞬間から、順風満帆だった人生が崩れ去った。でも、なぜか怒りより諦めが先に立つ。

「まあ、慣れたよ。こんなもんだろ、俺の人生」

佐竹はベッドに横になり、目を閉じる。だが、閉じた瞼の裏に、災子の笑顔が浮かんで消えない。


第三幕:すれ違いと決着

佐竹博文の人生は、もはや不幸のオンパレードだった。久遠町のボロアパートは家賃滞納で追い出されそうになり、仕事はクビ、身体はボロボロ。松葉杖をつきながら、公園のベンチに腰掛ける。

「ハッ…これが俺の人生か。病気、事故、入院のループ。笑えるぜ」

佐竹は空を見上げる。曇天の下、公園の花壇が目に入る。あのピンクの花が咲く場所で、災子と出会った日からすべてが狂った。

「あのガキ…俺に何を押し付けたんだよ」

呟いた瞬間、頭上に鳩のフンが落ちそうになり、慌ててよける。だが、よけた先で足を滑らせ、松葉杖が折れる。

「くそっ! まだ続くのか、この呪い!」

地面に這いつくばりながら、佐竹は歯を食いしばる。だが、どこかで諦めが芽生えていた。不幸は日常だ。もう慣れた、と自分に言い聞かせる。

その時、公園の花壇に人影が見えた。少女がジョウロを手に、花に水をやっている。長い髪、穏やかな笑顔。災子だ。隣には、背の高い男が立っている。めたろーだ。

「ねえ、めたろー君。このシャクナゲ、今年はもっと咲きそうじゃない?」

災子の声は、かつての内気さとは違う明るさに満ちている。めたろーが笑いながら答える。

「だな。災子が世話してるからだろ。そろそろ子供でも作るか? 花壇みたいに賑やかにしようぜ」

「え、子供!? うーん…でも、いいかもね。名前、シャクナゲにちなむ?」

二人は笑い合い、手をつないで花壇を眺める。夕陽が花を照らし、ピンクの花びらがまるで幸せそのもののように輝いている。

佐竹は目を疑った。あの災子が、こんな幸せそうな顔をするなんて。彼女の周りに不幸の影はなく、花も枯れず、笑顔が自然だ。

「お前…何だ、その幸せそうな顔は!」

佐竹は松葉杖を放り、這うように花壇に近づく。災子が振り返り、驚いたように目を見開く。

「あ、おじさん! え、元気…そうだね。生きてるんだ」

「生きてる!? ふざけんな! 俺をこんな目にしておいて、なんでお前がそんな顔してんだよ!」

佐竹の叫びに、めたろーが眉をひそめる。

「おい、落ち着けよ。災子に何の用だ?」

「用!? このガキが俺の人生をぶっ壊したんだ! 呪いごっこだとかなんだとかで!」

災子は一瞬目を伏せ、静かに呟く。

「ごめんね、おじさん。私、昔は不幸だったの。いつも転んで、怪我して、花も枯らして…呪いごっこが私を縛ってた。でも、おじさんにうつしたら…解放されたの」

「解放!? お前、俺に押し付けて幸せになったってのか!?」

佐竹が怒りを爆発させた瞬間、近くに停めてあった自転車が倒れ、チェーンが足に直撃。

「ぐあっ! ほら、まただ! これがお前の呪いだろ!」

めたろーが慌てて助けようと手を伸ばす。

「大丈夫か? ちょっと、落ち着いて話そうぜ」

「触るな! お前まで呪われるぞ!」

佐竹はめたろーの手を振り払い、地面に座り込む。災子はそんな佐竹をじっと見つめ、静かに言う。

「私、不幸だったけど…おじさんにうつして、幸せになれたよ。めたろー君がそばにいて、花も枯れない。おじさんなら、生き延びられるよね? だって、いつも生きてるもん」

災子の声は無邪気で、どこか冷たい。佐竹は彼女の目を覗き込む。あのサイコロを渡された日の、儚げで不気味な笑顔がそこにある。

「ふざけんな…お前、俺をこんな目に…」

佐竹は呟くが、なぜか笑いがこみ上げる。自分がどれだけ転んでも、病んでも、死ななかったこと。医者が「よく生きてる」と笑ったこと。

「ハハ…生き延びる、か。確かに、俺はしぶといぜ」

災子は微笑み、めたろーの手を握る。

「じゃあ、おじさん。またね。呪いごっこ、楽しかったよ」

二人は花壇を後にする。佐竹は地面に座り込んだまま、夕陽に染まる花壇を見つめる。

「楽しかった、だと? ったく…とんでもねえガキだ」

彼は苦笑いし、折れた松葉杖を拾う。不幸はまだ続く。だが、どこかで心が軽くなっていた。


エピローグ:残された呪いと咲いた花

佐竹博文は、久遠町のボロアパートに帰ってきた。家賃滞納の督促状がドアに挟まっているが、気にしない。いや、気にする気力すら残っていない。松葉杖を壁に立てかけ、ベッドに倒れ込む。

「ふぅ…今日も生き延びちまったか」

窓の外を見ると、公園の花壇が夕陽に照らされている。あのピンクの花が、遠くからでも鮮やかに映る。佐竹の唇に、苦い笑みが浮かんだ。

「あのガキ…幸せそうだったな。災子、だったか」

あの公園での再会から数週間。災子の無邪気で冷たい言葉が、頭の中でこだまする。「おじさんなら、生き延びられるよね?」。その通りだ。佐竹は転び、病に倒れ、事故に巻き込まれても、なぜか死なない。医者に「佐竹さん、ほんとしぶといね」と言われた回数は、もう数えきれない。

「しぶとい…か。ハハ、確かにそうかもな」

彼はポケットから、折れた松葉杖の破片を取り出す。公園で自転車に轢かれたあの日の、唯一の「記念品」だ。

「呪いごっこ、か。ったく、俺に押し付けて幸せになるなんて、どんなガキだよ」

佐竹は呟き、窓の外に目をやる。花壇には誰もいないが、ピンクの花は変わらず咲いている。災子の笑顔が、ふと脳裏に浮かんだ。あの幸せそうな顔。あの、呪いを手放した軽やかな声。

「まあ…いいか。俺は俺で、こうやって生きていくさ。不幸だろうが何だろうが」

佐竹はベッドに寝転がり、天井を見つめる。不幸はまだ続く。明日もきっと、階段で転ぶか、風邪を引くか、鳩のフンに襲われるか。でも、なぜか心のどこかで吹っ切れていた。

「災子、お前…いい花育ててたな。せめてそれだけは、認めてやるよ」

独り言を呟き、佐竹は目を閉じる。窓の外で、花壇の花がそっと揺れる。まるで、呪いごっこの最後の挨拶のように。

一方、遠く離れた街の小さな家で、災子は新しい生活を紡いでいた。窓辺にはシャクナゲの鉢植え。彼女が花屋のバイトで持ち帰ったものだ。夕飯の支度をしながら、めたろーがキッチンから声をかける。

「災子、今日の花はどうだ? また元気にしてるか?」

「うん! 見て、めたろー君。このシャクナゲ、つぼみが増えたよ!」

災子は笑顔で鉢植えを指さす。内気だった彼女の声に、今は純粋な喜びが響く。めたろーが隣に立ち、肩を寄せる。

「いいな。ほんと、お前、花育てんの天才だよ。子供の名前、どうする? シャクナゲから取るか?」

「えー、まだ早いよ! でも…もし女の子だったら、ピンクの花の名前がいいな。ね、めたろー君は?」

「俺? んー、災子の好きな名前でいいよ。お前が幸せなら、それで十分だ」

災子は顔を赤らめ、めたろーの手を握る。

「ありがとう…私、ほんとに幸せ。今の私は、呪いなんかないよ」

彼女の言葉に、めたろーは優しく笑う。窓の外で、シャクナゲが夕陽に輝く。かつての不幸体質は、まるで夢だったかのように消えていた。

小さな家の中、災子は花に水をやりながら呟く。

「ねえ、シャクナゲ。あの時のおじさん、元気かな? 呪いごっこ、ちゃんと受け取ってくれて…ありがとう、だよね」

彼女の声は、どこか遠くへ届くように響く。キッチンからめたろーが「飯できたぞ!」と呼ぶ声に、災子は笑顔で振り返る。

「うん、すぐ行く!」

シャクナゲのつぼみが、そっと開き始める。呪いごっこは佐竹に残り、災子を解放した。そして、彼女の花は、これからも咲き続ける。


THE END「呪いごっこの贈り物」

皆さん、如何でしたか?

CHARONゲームの名作の「サイコロサイコ」のヒロイン災子と「ヒューマンバグ大学」のメインキャラクターの佐竹博文、二人は不幸体質で共通しています。不幸体質を持つ彼らを共演させることで、二人の奇妙な繋がりを表現したいと思いました。

ヒューマンバグ大学とCHARONゲームの二次創作で佐竹が不幸体質になったきっかけは、災子の呪いごっこで不幸体質を感染された設定にしてみました。

皆さんが楽しんで頂けたのでしたら、この上ない喜びです。

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