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第一章 村の襲撃

 風霊大陸

 エルヴィーン連邦北部の国境地帯、アルウィン村。

 夏の夜、上弦の月が高く掛かり、満天の星が輝いている。

 村の入り口にある広場には、男も女も老人も子供も大勢が集まっていたが、誰一人として談笑している者はいなかった。皆、恐怖の表情を浮かべ、不安に怯えていた。

 村人たちの周囲には、甲冑を身にまとった兵士たちが取り囲んでいた。肩には弓や弩を背負い、手には剣や斧を握りしめ、松明を掲げた目には凶光が宿っている。

 地面にはいくつかの遺体が無造作に転がっており、その体には矢が突き刺さり、死んだばかりのようである。一部の遺体からはまだ鮮血が流れ出ており、血の匂いが空気中に漂っていた。


 広場の端にある小さな木造の家の中では、エヴァンの小さな体がドアの後ろにしゃがみ込み、扉の隙間から外の様子を窺っていた。人混みからは遠く離れており、さらに光が薄暗いため、よく見ることはできなかった。

 つい先ほど起きた出来事は、まだ10歳の彼には到底理解できるものではなかった。


 昼間、エヴァンは仲間たちと楽しく遊んでおり、夜には村で開かれた領主の客人を歓迎する宴会に参加していた。

 宴会の最中、子供たちは焚き火の周りで輪になって踊り、村人たちは琴や笛で調べを奏で、笑い声が響き渡っていた。

 本来なら、そんな和やかで幸せな光景が広がるはずだった。しかし——

 突然、闇の中から放たれた一本の矢。それは村人の一人に突き刺さり、その悲鳴とともにこの幻想的な光景は一瞬にして崩れ去った。

 群衆は悲鳴を上げて四方八方に逃げ惑い、

「子供たち、早く家の中へ!」と誰かが叫んだ。

 そのとき、エヴァンの頭は真っ白になっていた。それでも大人たちの言葉に従い、全力を振り絞って一緒に遊んでいた二人の仲間を引っ張り、小さな木造の家に逃げ込んだ。


 エヴァンはドアの後ろで息を整え、額の汗を拭いながら荒い呼吸を繰り返し、激しく上下する胸を抑えた。そして、部屋の隅で縮こまっている二人を振り返って見た。

 一人は妹のリサで、同い年の10歳。

 もう一人は貴族の少女で、名前はアリセア。11歳の彼女は今日エヴァンが初めて出会った人物だった。彼女は兄と一緒に遠出をしていて、その午前中にアルウィン村を訪れた。昼間にはエヴァンと遊び、夜は宴会に参加する予定だったが、まさかこんな悲劇に巻き込まれるとは思いもしなかった。


 二人は壁際で体を丸め、震えていた。リサは完全に怯えきっており、その様子にエヴァンの胸は痛むばかりだった。一方、アリセアはリサを抱きしめながら、緊張した面持ちでエヴァンを見つめていた。その瞳には恐怖が浮かんでおり、エヴァンから外の状況を知りたいという切実な期待が読み取れた。

 エヴァンは彼女に静かにするよう手で合図し、恐怖を和らげようと試みた。その後、再びドア板にしがみつき、扉の隙間から外の様子を探り続けた。


 エヴァンの心臓は今にも胸を突き破りそうなくらい激しく鼓動していた。彼は左手で右手を押さえ、震えを何とか抑え込もうとしていた。

 そのとき、外から突然、大きな爆音が響いた。

 パー!

 エヴァンはドアの隙間から見て、二つの人影が十数歩先まで吹き飛ばされ、包囲の外に転がるのを目撃した。

 外のざわめきが一瞬で静まり返った。

 二呼吸ほどの静寂の後、突然、激しい怒声が響き渡った。

「許せん!」

 その声にエヴァンは聞き覚えがあった。アデリアンだ。アリセアの兄であり、昼間にエヴァンが剣技を教わった人物だ。

 この貴族の兄妹はただの遊覧の途中で、たまたまアルウィン村に立ち寄っただけだった。それが、こんな襲撃に巻き込まれることになるとは思いもしなかったに違いない。

 アデリアンの怒声とほぼ同時に、数人が口を揃えて叫んだ。

「源能使いだ!ボス、気をつけろ!」

 次の瞬間、「ガン!」 と鋭い衝撃音が響き渡った。それは刃がぶつかり合った音だった。


 エヴァンは小屋の中で息を殺し、怯えながらその様子を見つめた。人混みの外側で二つの人影が激しくぶつかり合い、剣光と刀影が交錯していた。鋼鉄のぶつかり合う音が次々と響き渡る。

 短い間の激闘の後、二つの人影はそれぞれ五歩ほど飛び退いた。

 すると、低くかすれた声が響いた。

「まあいい。今日は割に合わない仕事だ。」

 その声は冷たく耳を刺すようだった。エヴァンはそれが村人の声ではないことに気づいた。その声の主は、間違いなく襲撃者の一人だ。

 しばしの沈黙の後、その冷たい声が再び響いた。

「おや、驚いたか?源能は……お前だけの特権じゃねえ!」


「源能使い……それは何だ?」

 エヴァンの思考は激しく渦巻いていた。顔を扉の隙間にぴたりと押し付けたが、外の様子を詳しく見ることはできず、外から聞こえる断片的な声を頼りに状況を推測するしかなかった。

 外の状況を必死に考え、耳を澄ませていたそのとき、村人たちの悲鳴がいくつも立て続けに響いた。

 すぐさま、外は大混乱に陥り、叫び声、足音、怒号が入り混じるカオスとなった。

 ほどなくして、濃厚な血の匂いが小屋の中にまで漂い込み、エヴァンは吐き気を催しそうになった。

 目を大きく見開き、扉の隙間から覗く光景に息を飲んだ。

 火光に照らされた外では、剣や斧が振り回され、血が四方に飛び散り、切り飛ばされた手足や頭部が暗闇の中で影のように躍っていた。

 エヴァンの頬を涙が静かに伝い落ちた。彼は口を押さえ、必死に恐怖を抑え込み、声を上げないよう努めた。

 心を落ち着かせる間もなく、ふいにエヴァンは扉の隙間から、小屋に向かって歩いてくる黒い影を見つけた。彼の心臓は凍りついた。

「見つかった!」


 この小屋は雑貨や農具を収納するための場所で、壁際にはいくつかの農具が立てかけられ、奥には干し草が積まれていた。

 アリセアはそのときリサを抱きしめ、小さく震えながらエヴァンを見つめていた。

 エヴァンは彼女のそばへ這い寄り、震える声でささやいた。

「声を出さないで。」

 そう言うと、彼はアリセアの背中にあった黒いマントを引き上げて二人に被せ、その上から干し草をかぶせてカモフラージュを施した。

「ドンッ!」

 エヴァンがそれを終えた直後、小屋の背後から突然、轟音が響いた。振り向いたエヴァンは、目の前の光景に息を呑んだ。

 木製の扉が勢いよく蹴り飛ばされ、後ろの壁に叩きつけられていた。もしエヴァンが扉の裏に居続けていたら、間違いなく扉に押し潰されていただろう。

 扉の外から、血にまみれた屈強な大男が巨斧を手に現れた。彼の体は逆光に包まれ、その顔は見えなかったが、恐ろしいほど鋭い眼光がエヴァンを射抜いた。地獄から這い出てきた修羅のようだった。

「どけ!」

 その男は低く粗野な声で命令した。

 エヴァンは草の山の前で立ち尽くし、恐怖と混乱で全身の毛が逆立ち、大脳が空白になっていた。

 そのとき、草の陰から小さな手がそっと伸びてきて、エヴァンの服の裾をきつく掴んだ。その手は震えていた。

 それがアリセアの手なのかリサの手なのか分からなかったが、その触感がエヴァンを現実に引き戻し、少しだけ冷静さを取り戻させた。

 午後にアデリアンと共に行った短い剣術訓練と、その際にアデリアンが語った言葉が頭をよぎった。

 エヴァンは小さく息を吸い込み、覚悟を決めた。

 その大男はゆっくりとエヴァンに近づいてきた……

 ドサッ!

 誰も予想しなかったことが起きた。エヴァンが突然その場にひざまずき、涙と鼻水を垂らしながら黒い影に向かって何度も頭を下げ始めたのだ。

「殺さないでくれ!お願いだから!」

 草の中に隠れていたアリセアは、今夜の出来事にすでに怯えきっていた。大男が小屋に入ってきた瞬間、彼女は本能的にエヴァンの服を掴み、彼にすがりついた。この10歳の華奢な少年が自分を守ってくれることを願ったのだ。

 エヴァンはたった一日しか一緒に遊んでいない友達に過ぎなかったが、兄のアデリアンが外で戦っている間、彼女にはエヴァンしか頼る相手がいなかった。

 しかし、エヴァンの懇願の声を耳にした瞬間、彼女の最後の希望は音を立てて崩れ去った。彼女の体は固まり、心は失望、恨み、無力感に襲われた。これらの感情が渦を巻き、ついには完全な絶望に陥った。崩壊寸前の精神状態で、彼女は震えながら息を詰めた。

 一方、大男はエヴァンの卑屈な態度を見て、一瞬動きを止めた。しかし次の瞬間には足を振り上げ、エヴァンを蹴り飛ばした。その一撃に全力は込められていなかったものの、エヴァンは吹き飛ばされ、小屋の奥へと叩きつけられた。

 大男はそのまま草の山に向かい、勢いよく干し草をかき分けた。すると、中に隠れていたアリセアとリサが姿を現した。

「ボス!ここにガキが三人います!」

 大男は外に向かって叫ぶと、すぐに二人を掴もうと手を伸ばした。

 リサはすでに虚ろな目をして、顔は灰色に染まっていた。一方のアリセアは叫び声を押し殺し、震えながら細い腕で本能的に身を守ろうとした。

 その瞬間、思いもよらない出来事が起きた。

 アリセアは身を丸めて震え続けていたが、大男の手は一向に自分に触れることがなかった。彼女は恐る恐る腕を下げ、状況を確認しようとした。そして、目の前の光景に目を疑った。

 大男の手は空中で止まったまま動かず、顔は苦痛に歪み、充血した目を見開いて信じられないといった表情を浮かべていた。その視線は自分の背後に向けられていた。

 アリセアは大男の視線を追い、彼の肩から首にかけて斜めに深く食い込んだ一本の薪割り用のナタを目にした。傷口からは勢いよく血が吹き出し、まるで赤い噴水のようだった。

 その血の噴水の向こう側には、一人の小さな影が立っていた。その影の全身は血に染まり、その手にはなおもナタが握られていた。

 それはエヴァンだった!

 エヴァンの茶色い短髪は血で黒赤く染まり、粘り気のある血液が頭頂から流れ落ち、顔を伝って滴り、地面に赤黒い染みを作り出していた。

 彼は血の中にじっと立ち尽くし、濃緑色の瞳には鋭い冷光が宿っていた。

 エヴァンの頭の中では、昼間剣術を学んだ際にアデリアンが教えてくれた言葉が反響していた。

「剣術とは手の中の剣ではなく、心の中の覚悟だ。誰かを本当に守りたいのなら、敵を倒す恐怖に打ち勝たなければならない。」

「覚えておけ。時には、力が不足していることが最高の隠れ蓑になるんだ。」

 エヴァンは手を上げて顔を拭い、血で染まった自分の手のひらを見つめた。周囲の状況や音が徐々に鮮明になり、鼓動だけが響いていた世界から抜け出した。

 彼の表情には再び恐怖が浮かび、呼吸が荒くなった。湿り気を帯びた濃厚な血の匂いが鼻を突き、思わず吐き気を催した。

 わずか二呼吸の間に、大男は地面に崩れ落ち、肩と首の傷口を押さえようと手を伸ばしたが、手は傷口に届かなかった。声を出そうとしたものの、喉が詰まったように「ガッ、ガッ」という音しか発せず、地面で痙攣しながらも鮮血を噴き出し続けていた。

 エヴァンは心を平静に戻す余裕もなく、すぐにアリセアとリサの元へ駆け寄った。

「大丈夫か?」

 アリセアの瞳は大きく揺れ、先ほどまでの一連の出来事は彼女の想像をはるかに超えていた。

 恐怖、期待、驚愕、絶望、無力感、衝撃、感謝、そしてエヴァンへの非難から来る罪悪感――これらの感情が次々と押し寄せ、彼女の心は対応しきれず、完全にフリーズしてしまった。

 口を開けたままエヴァンをじっと見つめていた彼女の頬を涙がつたった。

 これまで必死に保とうとしていた強さや気高さは、とうとう保ちきれなくなった。アリセアはついに我慢の糸が切れ、エヴァンに飛びつき、大声で泣き出した。

 エヴァンはアリセアの反応に驚いたものの、このとき彼が最も気にかけていたのは妹リサの様子だった。

 その瞬間、突然屋外から一人の人影が駆け込んできた。エヴァンはその人物に目を凝らし、すぐに誰かを認識した。

 金髪碧眼の長身の青年――アリセアの兄、アデリアンだった。

 アデリアンは剣を握りしめ、荒い息を吐きながら小屋に踏み込んできた。その顔には、こめかみから顎まで縦に裂けた一指幅の傷口があり、どうやら直前に負ったものらしい。

 彼は小屋の中の状況をざっと見渡し、眉をひそめて舌打ちをした。続けて声を張り上げた。

「アリセア!約束してくれ!これから夜明けまで、絶対に目を開けるな!」

 アリセアはアデリアンの姿を見つけると、まるで溺れる者が救命の藁をつかむように、その言葉に従ってぎゅっと目を閉じた。

 アデリアンは一歩前に進み、地面でまだ痙攣している大男の胸に剣を突き刺し、とどめを刺した。

 その後、エヴァンの腕からアリセアを引き取ると、エヴァンに向かって短く言い放った。

「よくやった!だが、今の俺にはこれが限界だ。いいか、ここでじっと隠れていろ。声を出すな。」

 そう言うとアデリアンはアリセアを抱きかかえ、小屋の外へと走り去った。アリセアはエヴァンの手を掴んでいたが、その手も自然に離れていった。

 アデリアンが小屋を出た直後、鋭い口笛の音が外から響き渡った。それに続いて馬の嘶きと蹄の音が混じり合い、遠くから近づき、そしてまた遠ざかっていった。

 それと同時に何人かの大声が聞こえてきた。

「あいつを絶対に逃がすな!急げ!」

「お前ら数人!ここを片付けたらすぐ追え。何人かは残しておけ!」

「了解です、ボス!」

 エヴァンはその声を聞いて肝を冷やした。外で何が起きているのか見当もつかず、両親の安否が気になって仕方がなかった。

 しかし、目の前で完全に心が壊れかけているリサの様子を見ると、アデリアンの言葉に従い、ここで隠れ続けるしかないと悟った。

 リサの目は焦点が定まらず、どこか虚ろなままだった。その姿にエヴァンは胸を締め付けられるような痛みを覚えた。

 エヴァンは近づいて、アリセアが置き忘れた黒いマントを手に取り、そっとリサの頭にかぶせた。彼女に自分の今の血だらけの姿を見せないためだ。

 それからリサをしっかりと抱きしめ、小声で語りかけた。

「大丈夫だよ、リサ。俺はずっとここにいるから。」

 エヴァンの腕に包まれた瞬間、リサの体が一瞬びくりと震えたが、声を聞くと次第に安心したのか、その細い腕をゆっくりとエヴァンに回した。

 ……

 1ヶ月後。

  グランフィール城外の簡易難民キャンプ。 キャンプの広場で、中年の男性が本を手に持ち、子供たちに授業をしていた。その男性の名前はケイラン。彼はアルウィン村の惨劇から生き残った数少ない人々の一人だった。

「世界はヴィラエールの一瞬の視線から生まれました。彼の一瞥によって、混沌から世界が創造されたのです。ドミナラはヴィラエールの初めの使者として、すべての物質と精神を司り、万物が運行する秩序を制定し、維持しています…」ケイランが神学を教える度に、子供たちはいつも眠そうにしていた。

 ただ一人、エヴァンだけが頭を支え、真剣に聞いていた。

「うーん…質問があるか?」ケイランは重く咳をして、子供たちを驚かせた。

「ケイラン先生、人間はどうして生まれたんですか?」一人の子供が手を挙げて尋ねた。

「…えっと、書いてありませんね…」ケイランは少し気まずそうに答え、続けて質問を投げかけた。「他に質問は?」

 子供たちは黙ってケイランを見つめていた。神学には全く興味がないようだった。

「ケイラン先生、源能って何ですか?」その時、エヴァンが突然手を挙げて質問した。

 アルウィン村での襲撃事件からの日々で、エヴァンの調子はだいぶ良くなった。彼は少しずつ心の深淵から這い上がろうと努力し、積極的に人々と話すようにしていた。

 あの日の悪夢のような光景は今でも彼の心に残っており、その夜小屋の中で聞いた断片的な言葉を思い出していた。彼は、村を襲った人々が「源能」と関係があるのではないかと考えていた。

「おお、それか…本当は後の授業で教えるつもりだったが、こんなに興味を持ってくれる生徒がいるとは思わなかった。しっかり聞いていてくれ!」ケイランは自信満々に言った。エヴァンが質問した内容は、どうやらケイランがよく知っている分野のようだった。

 ケイランは手のひらを上に向けて差し出し、指を広げて緊張させ、空気を掴むような動きで力を入れると、掌の中心にぶどう粒ほどの大きさの光の塊が現れ、柔らかな微光を放ち始めた。子供たちの驚きのまなざしの中で、ケイランはゆっくりと話し始めた。

「源能は創世の初めから存在していて、世界が動くための基本的なエネルギーだ。それは世界の隅々、自然、生命、精神など、すべての存在に存在している。すべての生命体は源能を持っていて、それは血液のように体内に存在している。源能の量は個体の潜在能力に依存していて、修行や瞑想、その他の方法でそのコントロールを高めることができる。源能は戦闘に使え、強化にも使える。魔法には源能が必要で、生活のあらゆる面で使われている。」

「源能を使うには、源能が覚醒する必要がある。覚醒した後、源能使いとして源能をコントロールできるようになるんだ。」

「この世界では、記録によれば、源能使の数は人口の10%ほどしかいない。見た目はこうだけど、実は先生も源能使なんだ。」

「今、みんなが見ているのが魔法だ。光球だ。これで暗い場所を照らすことができる。」

 ケイランは子供たちの崇拝のまなざしに酔いしれながら続けた。

「ちなみに言っとくけど、源能を使えることと魔法が使えることは同じじゃないぞ!」と言って、彼は腰に手を当て、子供たちの反応を待った。

 その場にいるすべての子供たちは、この新しい知識に魅了されていた。中には源能使のことを聞いたことがある子もいたかもしれないが、実際に源能が使えるところを目の当たりにしたことはなく、しかも魔法を使ったデモンストレーションを見たことは初めてだった。子供たちは口を大きく開け、目を輝かせ、胸の前で手をぎゅっと握りしめ、ケイランを崇拝の眼差しで見つめていた。

 その時、エヴァンは胸の中で熱い感情が湧き上がるのを感じた。それはまるで洪水のように押し寄せ、抑えきれず、冷静さを引き裂きながら、内面のすべてをかき乱していった。それは潮のように、心の岸辺に激しく打ち寄せた。

「その夜、外で源能使について話しているのを聞いた。アデリエン兄さんも源能使なのか?敵の中にも源能使がいる…」エヴァンは思考を巡らせた。

 彼は待ちきれず、さらに質問を続けた。

「源能をコントロールすることで強くなれるのか?」

 ケイランは少し驚き、複雑な表情を浮かべながらエヴァンを見た。ゆっくりと答えた。

「源能が覚醒すれば強くなれる。領主の衛兵や国軍、冒険者たちの中にも源能使がいるけど、戦闘面では普通の人より少し強い程度だ。ただし、1人では10人の兵士には勝てないし、源能を使うことには代償もある…でも…」

「でもって、何ですか?」

「もし源能のコントロールが源能共鳴に達したなら、その先はどうなるか分からない。そういう源能使は私も見たことがない。ただし、記録によれば、世界人口のごく一部しかいないと言われている。」

 子供たちは静かにケイランの話を聞き、夢のような想像に浸っていた。

 その時、突然、クラスの静寂を破る声が響いた。

「俺は源能使になりたい。」

 その声に、みんなが驚き、声の主を見つめた。そこに立っているのはエヴァンで、彼の目は決意に満ちていた。

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