第55話 中学生達との邂逅
四人でまず向かったのは、乃愛とデートした時と同じくショッピングモールだ。
とはいえ、以前のようにただぶらつくのではなく、今日は行く場所を決めている。
四人で談笑しながら歩いていると、あっという間に目的地に辿り着いた。
「そ、それではまた……」
「翼、水樹さん、また後で!」
ダブルデートなのに、男女に分かれて買い物をする。
本来ならばデートとして失格だが、この店だけはそれでいい。
二人と別れ、翼と一緒に別の店で買い物を終えた。
女性陣は時間が掛かると分かっているので、乃愛達が入った店にゆっくり戻り、その近くで待機する。
「男は選ぶのが楽でいいよなー」
「だな。どの水着も似たり寄ったりだし」
「だからその分、体で勝負ってな。瀬凪はバイトで体を動かしてるし、杠に自慢出来るだろ」
「自慢する程じゃないって。翼こそ真面目に鍛えてるだろうが」
俺の誕生日から今日まで、何度か乃愛に俺の体を見られている。
その際に興味深そうにぺたぺた触られたので、水着を着ても喜んで貰えるかは謎だ。
「そりゃあ莉緒にだらしのない体を見せたくないからな。ま、男の水着なんて俺達からしたらどうでもいいし、お互い恋人の水着を楽しみにしとこうぜ」
「おう。翼達と一緒にプールか海に行きたかったけど、ごめんな」
「いいっていいって。杠に無理はさせられねえよ」
いくら前髪を切って多少前を向けるようになっていても、乃愛の性格が変わった訳じゃない。
本当ならば夏休みのどこかで時間を作り、皆でプール等に行くつもりだった。
しかし普段着よりも肌を見せる水着を、大勢の人の前で着るのは無理だと乃愛に言われたのだ。
なので水着を買う予定など無かったのだが、良い案を思い付いたので買って貰っている。
翼も莉緒も乃愛の性格を分かっており、謝罪するとへらりと軽く笑われた。
「俺達は俺達で楽しむから、瀬凪達も楽しんでくれ」
「そうさせて貰うよ。……にしても、俺達と同じような人が居るなぁ」
周囲を見ると、高校生よりも若く見える男子達が、変に思われない程度に女性用の水着専門店から離れて時間を潰している。
彼等も後のプール等を楽しみにしているようで、会話を弾ませていた。
「そりゃあ夏だからな。学生も青春してますなぁ」
「大学生も学生だろうが」
夏を楽しみにしているのは俺達も彼等も変わらない。
全く関わりは無いが、同士を見つけたような気がした。
その後はお互いに近況報告をしていると、乃愛と莉緒が店から出てきた。
何故か女子中学生らしき集団が二人の後ろから着いて来ている。
「二人共待たせてごめんなさーい!」
「女の買い物が長いのは当たり前だろ? 気にすんな。それで、後ろは?」
「乃愛のクラスメイトなんだって」
「ふぅん……?」
どうやら運悪く鉢合わせしてしまったらしい。
乃愛が前髪を切った際に、それなりに話せる友人が出来たようだが彼女達だろうか。
取り敢えず乃愛の反応を窺えば、蒼と黄金の瞳が何かを伝えようとジッと俺を見ている。
ずっと一緒に居るのだ。乃愛が学校で俺をどういう風に言っているかを考えれば、この場で俺がどんな行動をすれば良いか分かる。
乃愛に近付き、ぽんと頭に手を乗せた。まるで年下の妹を扱うように。
「乃愛ちゃん、気に入った水着はあった?」
もう懐かしく思える呼び方をすれば、乃愛がぱっと顔に歓喜を滲ませた。
俺の対応は合っていたらしい。
「はい! 瀬凪さんに見せるのが楽しみです!」
「そっか。俺も楽しみにしてるよ」
髪が乱れない程度に、少し乱暴に頭を撫でた。
ちらりと翼や莉緒を見れば、事態を静観している。
「えと、杠さん。その人が……?」
問わずにはいられなかったのだろう。
一般的に見て可愛らしい女子中学生が、驚きながらも乃愛に問い掛けた。
すぐ傍で誰かを待っていた男子達も目を見開いているので、彼等もクラスメイトらしい。
乃愛はというと、僅かに顔を綻ばせてクラスメイト達を見る。
「そうですよ。好きな人が居るって言ってるじゃないですか。ねー、瀬凪さん」
再び甘さを帯びた笑顔になった乃愛が、こてんと可愛らしく首を傾げて俺に問い掛けた。
あまりの変わりように、クラスメイト達が絶句している。
「ありがとね、乃愛ちゃん。俺も好きだよ」
「もう! そうだけど、そうじゃないです! いつになったら分かってくれるんですか!」
「いや、分かってるつもりなんだけど……」
乃愛の好意を兄のような存在として受け取り、わざと惚ける。
まともに受け取ってくれないと乃愛が唇を尖らせ、顔を背けた。
「瀬凪さんは全然分かってません。意地悪です」
「えと、ごめん。これで許してくれる?」
「……今は、許してあげます」
再び頭を撫でれば、渋々ながらも唇の端を緩めた乃愛が許してくれた。
俺と乃愛のやりとりを見ていた彼女のクラスメイトが、ひそひと小声で話しだす。
「うわぁー。あの人なんだねぇー」
「かっこいいなぁ。高校生かな? 大学生かな?」
「分かんないけど、そりゃあ杠さんが好きになるよねぇ」
「あんな杠、初めて見たんだけど」
「俺も俺も。学校じゃ殆ど笑わないからびっくりした」
「あんな顔されたら、俺達が眼中に無いって絶対に分かるって……」
「という訳で、嘘じゃないと分かってくれましたか?」
乃愛がクラスメイト達に放ったのは、少し親し気な声だった。
この様子からすると、このクラスメイト達――多分女子だけだが――は多少話せる友人なのだろう。
「うん。そりゃあもう!」
「それじゃあ、私達は行きますね」
「うー。……分かった」
乃愛のクラスメイト達が退散していく。その中で女子達が凄まじく名残惜し気な顔をしていた。
それを見送った後、乃愛が思いきり溜息を吐く。
「はぁ……。すみません、瀬凪さん。合わせてくれてありがとうございます」
「おう。完全にアドリブだったけど、何とかなったな」
「ばっちりです。……この後も尾行されそうなのは問題ですけどね」
ちらりと乃愛のクラスメイト達が去った方を見れば、壁に隠れて俺達を見ていた。
どうやら俺達が気になって仕方がないらしい。
中学生らしい暴走の仕方に、苦笑を落とす。
「好きにさせればいいんじゃないか? 乃愛とさっきのようにすればいいんだろ?」
「そうですねぇ。前のデートと同じような感じになりますけど、いいですか?」
「勿論。遠慮なく来てくれ」
「じゃあホントに遠慮なく!」
水着が入った買い物袋を手に下げつつ、乃愛が俺の腕に抱き着いた。
壁から頭を出している中学生達が驚いているのが視界の端に見える。
なので動揺を全く見せず、乃愛の好きにさせた。
「今時の中学生ってあんな感じなんだなぁ」
「みたいだね。乃愛が絡まれてどうなるかと思ったけど、会話に割って入らなくても大丈夫そうで安心したよ」
事態を静観していた翼と莉緒が、くすりと微笑を零した。
彼等も年齢差のある恋愛をしているので、俺と乃愛のやりとりに文句を出すつもりはないらしい。
「心配してくれてありがとうございます。実は、もしもの時には莉緒さんに助けて貰うつもりでした」
「今回は機会が無かったけど、いつでも遠慮なく頼ってね!」
「はい!」
俺の腕に抱き着きつつ、莉緒に頭を撫でられて喜ぶ乃愛。
仲の良い姉妹のようなやりとりに、俺と翼が顔を綻ばせる。
「俺達年上の彼氏は、状況に合わせつつ流されるだけってな」
「甲斐性の見せどころだな。乃愛を今更妹のように扱うのは嫌だけど」
「周囲を誤魔化すのも大事だって、瀬凪も分かってるだろ? そこは今だけ気にすんな」
「ああ、そうさせて貰うよ」
乃愛の頭を一撫でしてから、ダブルデートを再開するのだった。




