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-4- 依頼

はい。こんにちは。


更新が遅い。。

申し訳ございませんです、はい。


「失礼、します。」


 おずおずと、からりと開けた扉。

部活棟の最上階、辺りに人気は無く、静寂が包んでいる。

ルルが手をかけた、何の変哲もない扉は、彼が思ったよりも軽かった。


「ふむ。到着まで4分35秒か。これから導かれる回答は何かな?ルル君。」

突如。


まさしく、突如。


 先程までルルがいた場所。

即ち、廊下から声がかかる。

低く、ただし聞き取りづらくはない、男性の声。


 勢い良くルルが振り返ると、そこには白い制服のようなものに身を包んだ青年がいた。

若干、ルルが見上げる形ではあるが、そこまで背が高いわけではなさそうだ。

真っ赤な縁の眼鏡の奥に在る瞳は掲げた左手の端末に注がれていた。

漆黒といって良いほどの、艶のない髪の毛。肩にかかるほどの長さのそれを、自然に下ろしている。


 端末を見ていた視線を、ちらりとこちらに寄こす。

端末と一緒にある、銀色に輝く腕輪が、開けられた室内から漏れる光に反射して、きらりと光る。

下げた右手には、黒い腕輪、それに付けられた銀色のタグが一瞬目に入った。


「あ、あの。…あなたは?」

突然声をかけられ、わけの分からないことを言われたルル。

当然のように、目の前の青年に言葉をかける。


「ここまでヒントがあって、気付かない方がおかしいと思うが?」

言いながら、ルルの脇を通りぬけて室内へと歩を進める。


 思わず、半歩身をそらして道を譲るルル。

ふと、オノダから感じた、タバコの匂いと近いものを感じた。


 あ、と声をかけようとした時、くるりと青年が振り返った。

出かけた音を飲み込み、こくり、と喉がなる。

その音に対してかは分からないが、彼が微笑む。


そして、低い声で、こう言った。


「ようこそ、我が購買部へ。」








 時刻は夕刻、多くの生徒が岐路へと着く時間帯。

購買部顧問であるオノダは、今、非常に困っていた。

腕を組み、火をつけていないタバコを口にくわえぷらぷらとさせている。

座っているに背を預け、キィキィとリズムを刻む椅子の調子を耳に入れながら、うなる。


 彼の目の前にあるのは一枚の書類。

今時珍しい、紙ベースの形式である。

差出人は、見知った人物、ただあまり進んで会いたくはないのだが。


その紙にはただ一文、達筆な毛筆でこう書かれていた。

『お嬢様がリュウノスをご所望です。』


 ただ一文、しかし、オノダの溜息を誘うには十二分であった。

「全く、あそこの執事とお嬢様は。」

そういって指先から小さな火を灯し、口にくわえたタバコに火をつける。


 大きく、しかし丁寧に口内に煙を満たす。

少しだけ租借するように、味をかみ締めゆっくりと紫煙を外に吐き出す。

肺に煙は入れない。

昔、ある人に言われてからそうしている。



 暫く、気がついたら目を閉じていた。

「ま、一年も入ったことだしいいかね。」

呟くと、すっとまぶたを開く。


 ジジッ、と咥えた火種から灰が落ちると注意される。

慌てる様子も無く、ゆっくりと口からそれを放し、携帯灰皿へと灰を落とす。

口元には戻さず、指の間にそれを挟んだまま、己の端末を取り出して耳に当てる。


きっかりワンコール。

聞きなれた声を右耳になじませつつ、用件を伝える。

それだけ。


後は彼に任せておけばいい。


 オノダは、彼の旧知である執事とお嬢様へ。

又会わなければならない事態への対処に頭を悩ますだけでいい。


再度、背を預けた椅子からの、金切り声の非難を受けつつ。

またそれを口に咥えた。



ゆっくり、丁寧に、紫煙は、けして肺を満たすことはない。







 ルルは、まさしく困惑していた。

原因は目の前にいる青年のせいである。


 窓に背を向け、上等の椅子に腰掛け、なにやら熱心に目を走らせている。

何を見ているのかは、こちらからは確認できないが、恐らく書籍であろう。眼球の動きが左右に走る。

……とても常人の速度ではないが。


ルルは、先刻と同様の位置で立ち尽くしていた。

いかほどの時が過ぎたか、時計を見ていないので定かではない。


購買部と思われる部室、そこへたどり着いたとたん、意味の分からない事ばかり。

恐らく、彼は購買部の部長なのであろうことは理解できた。


しかし、それだけ。


 彼は、ルルの事を、まるでそこに存在しないかのように扱う。

先程、声をかけられたときのみ。

以降、全く歯牙にもかけないその様子に、溜まらずルルから声を投げた。


「あ、あの。部長さん?」

おずおずと、疑問系になっているのは、まだ彼が部長だという確信が無い為。

ルルの問いに、ピタと視線を止める。


「なにかな?」

視線を向けることなく、尋ねてくる。

感情の感じない声。

しかし、冷たい印象は受けない。


ごくり。


喉を一つ鳴らして、ルルが続けようとするが、それは叶わない。


「はい。」

自身の端末を耳にあて、応答する青年。

ちかちかと点滅しているそれを見るに、誰かから連絡が入ったようだった。

「…。分かりました。では後程。」


短い対話。


スッと、腕を下ろし、こちらに向き直る。

「さて、早速の仕事だ。ルル君。」

唐突に、視界がブラックアウトする。


にやり、と笑っているような気がした。


「健闘を祈る。」


最後に聞こえたそれを、反芻しながら意識を手放す。






まぶしい。


初めに感じた。


頭がずきずきする。


徐々に感覚が戻ってくる。


甘い、香りが鼻をくすぐる。

視界が、戻る。


「………。」

きっかり三秒。

ルルの思考が正常に戻るまで。


覗き込む、赤。いや、深紅。

「ア、アイファ先輩!?」

眼前に広がるのは、最近知り合った女性。

深紅の眼がこちらを見下ろす。


…気がついた。


ルルは、自身が今どういう状態かを。

「ど、うわ、あぁ!?」

奇声を上げて、アイファの膝から体を起こす。

思わず飛び退いて、後ろに強かに背をぶつけてしまう。


「あ、痛っ!」


「大丈夫か?」

からからと笑いながら、こちらに視線を寄こしているアイファに対し、非難の視線を被せる。

痛めた背中をさすりながら、辺りに視線を向ける。


「な、何でアイファ先輩が?というか、ここは?部長さんは?」

矢継ぎ早に疑問を投げかける。

ルルの頭に、具現化された「?」マークが見えた気がした。


「お仕事のため。ここはヘリの中。部長は、……何してるかな?お茶でも飲んでるんじゃない?」

ルルの質問に対し、律儀に答えるアイファ。

最後の答えは疑問系だったが。


「し、仕事?それに、ヘリの上って、うわぁ!?」

がたん。

いきなり揺れた床に、対処しきれず体勢を崩し、倒れ掛かる。

再び来る痛みを意識し、目を閉じるルルだが、来るべき衝撃は何時まで待っても来ない。

代わりに、背に回された腕のぬくもりを感じる。

「?」

疑問符を浮かべながら、後ろを振り返る。


……一言で言えば、そこには執事がいた。

何故、だとか、誰、だとか。

あらゆることをすっ飛ばし、ルルは、彼が執事なのだと理解した。


「あ、あの。ありがとうございます。」

体を起こしながら、礼を述べる。


「いえいえ、お怪我が無くて何よりです。」

漆黒の衣装を纏った、彼。

背がそれほど高くはないのだが、どこか大きく感じる。

短い髪の毛は、無造作に撫で付けられているだけだったが、野暮ったい感じはしない。

どこかさわやかな印象を受ける。


「今回の依頼主の一人よ。」

背後から、アイファの声が投げられる。


「デック、と申します。以後お見知りおきを。」

恭しく、礼を返す。


「あ、ルルです!こちらこそ宜しくお願いします!」

ペコり。

頭を上げると、こちらに微笑みかけるデックと目が合う。


彼の、吸い込まれそうな漆黒の眼は、どこか寂しそうだった。



お疲れ様でした。


活動までまだまだ。

頑張れルル。

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