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第4戦

「わたしが修得したスキルは『お料理』だって」

 と、どこからともなく蜂が飛ぶような音が……違う

「ドローンだ。何かぶら下げている」

 真っ黒なドローンが亜紀ちゃんの頭上2mほどの高さでホバリングをし、なにやら赤い物体を投下した。

「あ、危ない!亜紀ちゃん」

「ん、何これ?」

 亜紀ちゃんは、目の前に落ちてきた赤い物体を右手一本でさっとわしづかみにした。心配して損した。

「ケチャップだ。おいしそう」

「ああ、オムライスにケチャップで絵や文字を書いて、おまじないをかけるってやつですね。メイド喫茶などの演出のひとつです」

「え、監督、メイド喫茶行ったことあるんですか?」

「いや、昔旅打ちしてた時に、朝ご飯食べるお店がなくて仕方なくですね……」

「旅打ちって?」

「いや、その話はおいといて。しかし、ケチャップがあっても、肝心のオムライスのお店はないですね」

 南監督はうまく話をそらした。旅打ちってなんだろう?今度パパに聞いてみよう。

「あ、いいものがあるよ。ちょっと待ってて」

 慶次君が小走りでロリッテマスネバーガーの方に向かった。

「よし、慶次を待っている間に、これまででいくら稼いだか確認しておこうぜ」

 修は手近にあった椅子に腰かけて、携帯を操作した。

「ええっと、健康診断クリア、二択問題正解……おお、凄え、おれ一人でも10万アンゲットしてるぜ。みんなも多分、10万アンずつ稼いでんだろ?」

「うん、わたしも、監督もてっちゃんも10万アンずつ稼いでる。てことは、慶次君の分も合わせて総額50万アン!」

「このままだと、目標の100万円なんて、すぐにクリアできそうですね。ただ問題は……」

「最終ボスを倒せるかどうかってことね」

「そうだな。そのためにまずは……そもそもボスって、どこにいるんだ?」

 消防団のみんなが言ったとおり、ぼくらはまだラビリンスに来たばかりで、どこに何があるのか、どこに誰がいるのか全く把握できていない。

「せっかく地図も手に入ったことだし、慶次が帰ってきたら、地図を見ながら作戦会議開こうぜ」

「お待たせ。やっぱりオムライスはなかったから、これ買ってきたよ」

 慶次君は両手でやっと抱えられるくらいの大皿にフライドポテトを山盛りにして、慎重に歩いて帰ってきた。

「ま、確かにケチャップとは合うかもね。じゃあ、亜紀ちゃん、お願い」

「わ、わかった。本当はあんまり料理は得意じゃないんだけど」

 亜紀ちゃんは「おいしくなあれ、おいしくなあれ」と呪文を唱えながら、フライドポテトにケチャップをかけまわした。


「ところで慶次君はどんなスキルを修得したの?」

 呪文を唱えなくても普通においしいポテトを食べながらぼくが聞くと

「ちょっと待って、手をふかないと携帯がべたべたになっちゃう」

 慶次君はロリッテマスネバーガーからもらって来ていたおしぼりで丁寧に手を拭いてから、アプリケーションを開くと

「なんだこれ『捜索願』?あ、通知がもう一つ来てる。『捜索願のソフトをダウンロードしてください』だって。えっと、これをタップして……」

「あ、じゃあ哲也君のお父さんの居場所がわかるかもしれませんね」

「ちょっと待ってね。ここに探してほしい人の情報を入力するんだって。てっちゃん、お父さんの身長とかわかる?」

「うん、パパは身長175cm、体重86kgで……」

「お父さん少しやせたんだね?」

「うん、ずっとダイエットしてるんだけど、フットサルをはじめてから約9年でやっと2kgくらいやせたって」

「よし。髪形は『ほぼ丸坊主』で、人相は『あまりよくない』『DB』にチェックをいれて、着衣は『上下とも水色、半そで半ズボン』『傷跡もタトゥー』もなし。いなくなったのは今日だから……よし、これで送信」

 慶次君が手早く「捜索願」を送信すると、ほとんど間を置かずにメールの着信を示す振動がした。

「早いな。もうわかっちまったのか?」

「『該当する人物は、ラビリンス内の14か所のカメラに写っています』だって。あ、写真が添付されてる。みんなに転送するね」

 おのおのが転送された14枚の写真をチェックすると

「あれ、どこだここ?お父さん、ラーメン食べてるよ」

「普通に一人で歩いてるな」

「特に拘束されたりはしていませんね」

「ちょっと、みんな一番新しい写真を開いてみて」

 ファイル名に記載された時間を確認し、最後に撮影されたと思われる画像をタップした。

「エレベーターの中のようですね。3階のボタンを押しています」

 え、パパがラビリンスに?3階?

「じゃあ、早く助けにいかないと!」

「ちょっと待てよてつ、消防団の人たちが2階に上がるのもたいへんだって……」

「そうですよ、哲也君。お父さんもひどい目にあっているわけではなさそうですし。ここは落ち着いて」

「そうだね。てっちゃん、まずは作戦を立てよう」

 立ち上がって駆けだそうとしたぼくを、みんなが必死になって押しとどめた。

「うん、でもどうすれば……」

「3階に行くまでにどれだけ時間がかかるかわかりません。それに2階に食事ができるところがあるかどうかもわかりません。こういう時一番大切なのは、食料と飲み水の確保です」

 みんな一斉にうなずいた。

「しかし、その前に……」

 南監督が提案した第一目標は、フードコートの東側にある「かばん屋」だった。

「地図に載っているお店の中で、1階にいるうちに行く必要があると思われるのが、ドラッグストアと電器屋、そしてかばん屋です」

「監督、なんで電器屋がそんなに大事なの?」

「このゲームにおいて、携帯電話が非常に重要な意味を持っているからです」

「携帯電話……あ、そうか充電器ね」

「そう、それと一度に全員分の携帯が充電できるよう、延長コードなども買っておきましょう。そして大量の非常食や飲み物などが持ち運べるよう、スポーツバッグやリュックサックを購入する必要があります」

 そうか、だから2階に上がるエレベーターとは逆方向にあるが「かばん屋」に行く必要があるのか。地図で確認すると「かばん屋」はフードコートから2ブロック東に行ったところにある。

「よし、そうと決まれば早速ショッピングに出かけようぜ!」



「いらっしゃいませ~。現在タイムセール中で、店内の商品は全て30%オフとなっております」

 う、かばん屋の前では、若い女性の店員さんが立って呼び込みをしている。20代前半だろうか。ワイシャツにベージュ色のチノパンと赤いエプロンを身に着け、元気いっぱいに叫んでいる。

「お客様、何をお探しですか?」

 目ざとくぼくらを発見したお姉さんが、さっそくセールストークをしかけてきた。

「はい、リュックとか、スポーツバッグとか……」

「いろいろと取り揃えておりますので、ゆっくり見ていってくださいね。でもその前に……」

 お姉さんの目が妖しく光った。

「やっぱりそうくるのね。お姉さん、その前になあに?」

「お店に入るには、わたしと勝負して勝っていただく必要があります」

「どうやって勝負するの?」

「簡単ですよ。わたしが出すクイズに正解できたら、お客様の勝ちとなります。問題は1問、お客様の誰が答えても結構です。制限時間は3分間。準備はいいですか?」

 ぼくらはお姉さんを半円形に囲むように一列に並んだ。よく見るとお姉さんの後ろには長机が1台おいてある。

「それではこのショッピングモールで売っている商品からの出題です。問題は1度しか読まないから、よーく聞いてくださいね。 

 こちらに置いてある囲碁、リバーシ、将棋、チェス、麻雀で使用されている石、駒、牌の「種類」は合計いくつでしょうか?それでは、考慮時間スタート!」

 お姉さんは、長机に置かれたタイマーのてっぺんについた大きなボタンを勢いよく押し込んだ。

「なんか、同じようなクイズを出されたことがあるぞ。リバーシの石は黒と白の2種類あるように勘違いしがちだけど、黒い石と白い石が表裏にはりつけてあるから、答えは1種類だっていうひっかけ問題だ」

「でも、将棋とかチェスは、駒の種類がもっとたくさんあるよね」

 じっと考え込んでいた南監督が口を開いた。

「この問題は……普通の知識だけで答えることはできません。商品のことを全て詳細に把握しているか、でなければ運ゲーですね」

「え、監督、どういうこと?」

 慶次君が不安そうに尋ねた。ぼくも囲碁やリバーシ、将棋まではなんとかわかりそうだが、チェスや麻雀になると、正直お手上げだ。

「わたしは皆さんより生きている期間が長いため、これらのゲームは一通り経験済みです」

「なんだ、さすが監督、頼りになるわ」

「はあい、1分経過で~す。近寄って見ていただいても結構ですけど、商品に触れたら失格ですよお」

「ですが問題は、とくにこの麻雀です」

「どういうこと?」

「いいですか?このかばんの中には慶次君の手のひらサイズのトレーが4つ入っていて、隙間なく牌がつめられています。1つ目から3つ目のトレーにはそれぞれ万子、筒子、索子といって『数字』を示す絵柄が書かれている牌が入っています。これは1から9まで同じものが4つずつありますから、9種類×3通りで27種類ですね」

 よくわかんない。亜紀ちゃんと慶次君も首を傾げている。修だけはなんとなくわかっているようで、小さくうなずきながら南監督の声に耳を傾けている。

「問題は最後のトレーです。これには東・南・西・北と白・發・中という文字が書かれた牌が4つずつ入っていますが、残りの8枚については、商品によって何通りかのパターンが存在します。通常、春・夏・秋・冬と書いた牌は入っているはずですが、残りの4枚はほんとうに……う~ん」

「2分経過、残りは1分です」

「いいぜ。監督、おれ達は監督の勝負強さに賭けるよ。思ったとおりに答えてくれ」

「うん、じゃあ最初から整理していこう。囲碁は黒と白の2種類で、リバーシはさっき言ったとおり1種類しかないよね。将棋は、歩、香車……8種類か」

「いえ、哲也君、将棋の駒には王将と玉将の区別がありますから9種類ですね」

「え、そうなの?知らなかった」

 やばい、やばい、ぼくひとりだったらこの時点で不正解だった。

「チェスはポーン、ナイト、ルーク、ビショップ、クイーン、キングをそれぞれ黒と白の2種類ずつ使用しますから、合計12種類。ここまでを全て合計すると24種類になります。

麻雀でここまでわかっているのが38種類。最後の4枚は……」

「監督、時間が無いわ。お願い、決断して!」

 タイマーの残りはあと20秒ほどだ。南監督は時計をにらみつつ指を何度も曲げたり伸ばしたりしながら、必死に何かを数えている。

「ラスト、10、9、8、7……」


「わかりました。答えは65種類です」

「お客様、65種類でよろしいですね」

 みんな南監督の方を見ながら、おそるおそるうなずいた。南監督はあごに手を当てて一瞬考え込んでいたが、ようやく決断できたのか、大きくうなずいた。

「それでは発表します。正解は~」


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