最終決戦 その1
「やべえ。主宰ものすげえ力だ。慶次、ヘルプ頼む」
「わかった。でも主宰に触れずに修を助けるには……そうだ、確かこのポケットにドラッグストアで買った……」
慶次君は制服の胸ポケットから小さな袋を取り出し、封を破った。
「な、なにこの匂い?それに水が跳ねるような音が……」
「磯の香りに、波の音?な、なんでこんなところで……」
いや、これはスルメの匂いと、慶次君がそれを咥えてちゅぱちゅぱしゃぶっている音だ。よし。主宰を混乱させたぞ。この隙に……
「監督、今日の出来事を思い出して。そしてその裏に隠された意味を理解すればこの問題は解けるはずだよ」
「ええっと、今日は目が覚めたらテントにお坊さんが3人やってきて……みんなで紋章を探しました」
「うん。それからフードコートで……」
「ええ、慶次君が和尚さんと相撲をとって、そのあとはみんなで『VIVANT』の歌を歌いましたね」
「慶次君が相撲をとった相手は、パパが大好きな伝説のヘヴィメタルバンドのベーシストだったんだ」
「ヘヴィメタル……そういえば、わたしが以前お父さんの車に乗せてもらった時に、ヘヴィメタルが流れていました。ああ、じゃあひょっとして『VIVANT』の歌は……」
「うん。伝説のコメディーグループが歌ってたんだけど、あの人たちは実は……」
「はい。わたしも聞いたことがあります。彼らはバンド活動もしていたと」
「てっちゃん、やばい、もうスルメが……」
う、もうスルメを食べ終わったのか?スルメは噛めば噛むほど味が出てくるんだから、焦ってすぐに飲み込んでしまうのはもったいない。もっとゆっくり食べないと……
「次はわたしの出番ね」
「あ、亜紀ちゃん」
亜紀ちゃんが主宰の目の前で空手の演武を始めた。メイドの衣装を着たままだから、スカートがひらひらと捲れて、いや、亜紀ちゃんはスカートの下にショートパンツを履いているはずだから……
そのことは主宰もわかっているはずなのに、演武にくぎ付けになっている。そうか。うまいぞ亜紀ちゃん。見えるか見えないかぐらいの高さでスカートをひらひらさせたら……見ている方はついついひょっとしたら……という期待を抱いてしまう。
「そうか、そうだったんですね『D、A、R、X、L』と『I、K、T、N、S』というのは2つのバンドのメンバーを意味していて、R=Kというのは、それぞれのバンドで同じ楽器を演奏しているメンバーのことを表しているんですね」
「うん。ぼくもRとKがドラマーで、Xが示している和尚さんがベーシストなのはわかった。でも、もう1つのバンドのベーシストがわからないんだ」
「そうですね。そのバンドが活躍していたのは、哲也君が生まれるずっと前のことですから……知らないのも無理はありません」
「じゃあ、監督」
「はい。哲也君、よく頑張りました。そこまでヒントを出していただいて、ようやく答えがわかりました。Xと同じ楽器を演奏していたのは、Iです。わたしも古い動画でしか観たことはありませんが、あのバンドには弦楽器の担当が3人いて、そのうち弦が4本しかないベースを弾いていたのは……」
「ふふふふふふ、アハハハハハ」
突然、主宰が甲高い声で笑い出した。ま、まさか不正解?亜紀ちゃんも思わず演武を止め、立ちつくしている。
「さすが監督、よく知っていたわね」
「え、じゃあ……」
「お見事。大正解よ」
「よし。じゃあぼくらの勝ちだね。早くパパを返して、あと賞金も……」
「ふふふふ、せっかちねえ哲也君。せっかくここまで来たんだから、もっと楽しんでいってよ」
「え、どういうことだ?」
「あなたたちもRPGをやったことくらいあるでしょう?その中で、最終ボスを1度倒しただけであっさりクリアーになるゲームなんてあったかしら?」
くっ、確かにぼくはあまりゲームをする方ではないけど、言われてみれば……最終ボスを倒したと思ったら、復活してもっと強くなったり、仲間が出てきたりして……
「くそ、何言ってやがる。約束はきちんと守れよ」
「お黙りなさい。今この場ではわたしがルールブック。これからが本当の勝負よ」
「ま、まさか勝負って……じゃあ、監督はこの展開を予想してわたしたちにこんな格好を……」
「なんのために5人でチームを作ってもらったと思っているの?」
「やっぱり、最後はフットサルなんだね」
「そう。一応、フットサル小説っていうカテゴリーだからね。たまにはフットサルの場面も書かないと、読者が納得しないわ」
「でも、そっちのメンバーは?まさか1対1?それともPK勝負なの?」
「ふふふ、焦らないで。わたしのメンバーを紹介するわ」
「あ、エレベーターが……」
エレベーターの扉が開き、漆黒のユニフォームに身を包んだ4人の選手が現れた。
「あ、『ゆび』の人……ていうか、どっかで見たことがあると思っていたら、ひろさん!」
ひろさんも50台に突入しているが、長い手足を活かした粘り強いディフェンスは健在だ。
「その後ろにいる2人は、お坊さんの役をやっていた、太一君と虎太郎君」
「うん、消防団の役もやってたけどね」
「哲也さん、ガチでいきますからね。覚悟してください」
小柄ですばしこい虎太郎君と、長身でパワフルなプレイが心強い太一君。20歳になったばかりの2人は、いつも疲れ知らずにコートを駆け回る。
そしてその2人の後ろで静かにたたずんでいるのは
「松山さん、なんで?実験が忙しいって……さっきも電話に出てくれたのに」
「うん。でも主宰から1時間だけ付き合ってくれって言われたら、断れないよね。さっきの電話も実はここの2階で受けていたんだ」
「そして最後の1人、ゴレイロはもちろん、おれだ」
くっ、パパまで。なんだよこれ、17Sのレギュラークラスじゃないか。紅白戦では何度も対戦している相手だが、実力的にはぼくら5人に全く引けを取らない。いや、南監督は膝に爆弾を抱えている分、ほんの少しこちらが不利かもしれない。
「おれたちはもうアップはできてるぜ。コートもすぐそこにある」
パパに促されて部屋の外に出ると、もとは駐車場だったはずのコンクリートの上に木の板が敷き詰められ、フットサルコートが設営されている。
「ご丁寧にラインまで引いてあるじゃねえか」
「うん。ゴールポストもちゃんとしたやつだ」
「屋外なのに床が板張りっていうのも、なんかへんな感じね」
「いつもと違って風のことも考えないといけねえな」
なんだかんだ言って、こっちのメンバーもすでにやる気満々になり、各々でウォーミングアップを始めた。
「時間無制限、先に1点取った方が勝ちよ。キックオフはあなたたちにあげるわ」
主宰が帽子とドレスを脱ぎ捨てると、真っ赤なユニフォームを着た、パパが現れた。
「さあ、てつ。思い切って撃ってこい。全部弾き飛ばしてやるぜ」
くっ、考えてみれば、こんなふうにパパと敵味方に分かれて対戦するのははじめてのことだ。
「とりあえずわたしは前線にはりついてポストをやります。今日は修二君が右アラ、亜紀ちゃんは左アラをお願いします。あとはいつも通り、フィクソが哲也君、ゴレイロは慶次君で」
「了解。お、ちゃんとレフェリーが出てきたぞ」
「あ、あれは正さんときよせんさん」
「準備はできたか?こっちはいつでもいいぜ」
「上等だよ。こうなったら、当たって砕けろってやつだ。みんな、いくぜ」




