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第6戦 その3

 一瞬の静寂の後、重たいドラムロールに続いて盛大なファンファーレが鳴り響いた。

「おめでとうございます。正解はクイーンです」

「よ、よかった」

 ぼくはそのまま膝から崩れ落ちた。同時に胃袋の中からラーメンのスープが逆流してくる。

「うっ」

「てっちゃん、大丈夫?」

 すかさず駆け寄った亜紀ちゃんが、ポケットティッシュを3枚引き抜いて手渡してくれた。

「亜紀ちゃん、ありがとう。やっぱりラーメン食べた後に走るのは体によくないね」

「よっしゃあ、よくやったな、てつ」

 修がぼくの右手を掴んで、引き起こしてくれた。

「修、ありがとう。あれ、慶次君は?」

「おう、あそこでそのまま倒れて、おれ達が戻ってきたらいびきをかいていたよ」

 そうか、慶次君はちょうど昼寝の時間だったんだな。DBには食後の昼寝が欠かせねえって、パパも言ってた。

 南監督は膝に負担をかけないよう、ゆっくりと歩いて戻ってきた。

「あ、監督お帰りなさい」

「哲也君、この様子だと無事、正解したようですね」

「はい。監督、ありがとうございました。ぼく、今のクイズ全く答えがわかんなかったから……監督がヒントをくれなかったら……」

「何言ってるんですか、哲也君、わたし達3人のDBの中で2,400m走り切れるのは哲也君だけだったんですから、わたし達4人が哲也君のサポートをするのは当然です」

「そうだぜ、てつ。お前が最後まであきらめずに走り切ったから、おれたちなんとか勝てたんじゃねえか」

「修……。あれ、そういえばみゆきさんはどうしたの?」

「ああ、みゆきさんなら向こうのベンチでまだココア飲んでるんじゃない?」

「ココア?」

「そう、ポケットティッシュの袋の中に、ココアの無料券をいれといたんだ。それでみゆきさんが立ち止まったところに、修が『ちょっと向こうでお話ししませんか?』って声をかけたら、みゆきさんついて来てくれたのよ」

「おう、今度みゆきさんの陸上チームとバーベキュー大会することになったからよ。てつも来てくれよな」

「うん、わかった。でも監督、どうして『三択』が『クイーン』だってわかったんですか?」

 南監督はなんだか遠くを見るような目をして

「わたしたちは、みんな子供の頃、毎週のように伝説のクイズ番組を見ていましたからね。教授と漫画家、そして女王はその番組で長くレギュラーを務めた方たちなんです。わたしやお父さんの世代の人間なら、すぐにぴんとくるでしょうけど、慶次君や哲也君にはなんのことかわからなくてもしかたありません」

「ふうん、そうなんですか。あ、慶次君も戻ってきた」

「お帰り、慶次君。もう目が覚めちゃったの?」

「うん、ぼく、いつもの枕じゃないとよく眠れないんだ」

「よし、慶次が帰ってきたところで、きよせんさんに職務質問してみようぜ」

「そうですね。じゃあ、きよせんさん、すみませんけどこちらで少しお話を聞かせてください」

 南監督が丁寧にお願いすると、きよせんさんは自らベンチに腰掛け、ぼくらにも座るように促した。

「きよせんさん、パパとは昔からの知り合いなんですか?」

「はい。あなたのお父様、坂本健太様が国際DB振興協会の初代会長、わたしは副会長兼事務局長を務めております。そもそも会長がDBとして覚醒した高校2年生の時に、わたしはお父様のクラスを担任しておりました」

「え、きよせんさんって、学校の先生だったの?」

「はい、きよせんという呼び名はもともと『清泉先生』を略したもので、高校時代のお父様に命名していただいたものです」

「きよせんさん、パパは今無事なの?どこにいるか知っているの?」

「ええ、もちろんお元気ですよ。つい1時間ほど前にもこちらに降りて来て『腹が減ったから一緒にラーメン食おうぜ』とおっしゃって」

 さっきの写真に写ってたのは、その時のことか。

「じゃあ、ラーメンを食べた後、また3階に戻ったってことなの?」

「ええ、普段は3階の会長室でお仕事をされていますよ」

 やっぱり3階か。まずはなんとかして3階に上がらないといけないな。

「それと、ぼくがさっき走っている途中で、北側にエレベーターが見えたんだけど、あのエレベーターは今も動いているの?」

「ええ、あのエレベーターは現在、地下と1階を往復するだけですが、運行はしております」

 地下か。確か地下にはフィットネスクラブがあるって言っていたな。2,400mも走って結構汗を書いてしまった。シャワーだけでも浴びられるといいな。

 慶次君や南監督が2階にある店のことをいろいろと聞いてみたが、きよせんさんも2階のお店のことはあまりよく知らないようで、有益な情報は得られなかった。


「じゃあ、職務質問はこれくらいにして……」

各々がアプリで確認すると、報酬は各2万アン。修だけがスキルを修得していた。

キュラキュラと聞き覚えのあるキャタピラ音とともに、頭のとれたダンプカーのようなものがドラッグストアの中から現れた。荷台の上には……キャスター付きの茶色いバッグ?

「お、これは折り畳み式のテントじゃねえか?おれが修得したスキルは『築城』だ。さっきも話した豊臣秀吉は城を築くのも得意だったんだ」

「もう午後4時を過ぎています。やはり今夜はラビリンス内に泊まることになるんでしょうね」

「まあ、1日でクリアできるとは思ってなかったからね。わたし、テントで寝るなんて何年ぶりだろう?なんか、ちょっと楽しくなってきたな」

 テントが入った収納袋は修が運び、キャリーケースは慶次君が運ぶことになった。


「じゃあ、ドラッグストアで買い物していくか。とりあえず必要な物は……シャンプー、ボディソープ、非常食、飲料水、下着、タオルってとこかな?」

「そうですね。あとは各自で店内をよくみて、必要と思われる物を買って行ってください。会計は各自でお願いしますね」


「ええっと、自動販売機はあちこちにあるから飲み物はちょっとだけで大丈夫だよね。ゴミ袋と、ガムテープがあるとなにかと便利だってパパが言っていた」

ぼくは亜紀ちゃんと2人で店内を回り、必要な物をかごに放り込んでいった。

「わたし、ものほしと、ものほしロープがほしいな。それと目薬に、のど飴と……」

 慶次君は常人なら1週間は生き延びられそうなほどの非常食を買っていた。かなり重たそうだが、力自慢の慶次君なら大丈夫だろう。修はプロテインやサプリメントをこまごまと買いそろえている。南監督は

「ハトは何を食べるんでしょう?」

と店員さんと大激論を交わした挙句、ポップコーンを2袋とおつまみ用の大豆を1袋買い、亜紀ちゃんは化粧に必要な道具も一通り買いそろえたようだ。5人の合計で4,2000アンを支払ってドラッグストアを後にした。

「じゃあ、次の目標は地下のフィットネスクラブだな」

 ぼくらは再びトレーニングを開始し、賑やかに歩みを進めた。


「いらっしゃいませ。男性用の更衣室はみなさまから見て右手側、女性用は左側となっております。更衣室の先にシャワールームとプールがございますが、プールは現在ご使用いただけません」

 カウンターのあるフロントのようなところに行くと、ぼくらと同じくらいの年齢で、トレーニングウエアを着た女性が元気よく施設の説明をしてくれた。

よかった。ここでもバトルは発生せずに無条件でお風呂に入れるみたいだ。確かにバトルに勝つことができないで、何日もお風呂に入れない参加者がいるというのは、運営としても都合が悪いのだろう。

「じゃあ、亜紀ちゃん、ぼく達終わったらここで待っているから、ゆっくり入って来てね」

「うん。わたし髪を乾かしたりするから、多分ちょっと時間かかると思う」


「あれ、これ、どうすりゃいいんだ?」

 真っ裸になった修が素っ頓狂な声をあげた。

「修、どうしたの?」

「修君の大鎧がロッカーに入らないんです」

 ロッカーは通常の衣装やバックパックをゆうゆうと納められるだけの十分なスペースを備えていたが、確かに鎧は入りそうにない。

「しょうがねえ。地べたにおいといても誰もこんなもの持っていかねえだろう」

「いや、修君、ダメですよ。発生する確率がどんなに低くても、被る被害が甚大なら、そのリスクは無視するべきではありません。万が一、大鎧が盗まれてしまったら、その後、修君は素っ裸でラビリンス内をうろつくことになります。いえ、素っ裸で更衣室を出たら、その時点で『レッドカード』ということもありえます」

「う、監督、じゃあどうすれば?」

「仕方ありません。少し時間はかかりますが、哲也君と慶次君、先にシャワーを浴びて来てください。終わったら私たちがシャワーを浴びますから、その間、大鎧が盗まれないよう、見張っておいてください」

「わかりました。じゃあ慶次君、あんまり亜紀ちゃんを待たせるとまずいから、急いでシャワーを浴びてこよう」


 ぼくたち4人はいそいそと交互にシャワーを浴びて、急いでフロントに戻ったが、予想に反して亜紀ちゃんはまだ更衣室から出てきていなかった。

「ごめーん。てっちゃん、待たせちゃった?」


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