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第6戦 その1

「へえー、電器屋さんってドローンまで売ってるんだ。ほかにもラジコンヘリとかおそうじロボットとか。おもしろーい」

 亜紀ちゃんは普段電器屋にくることはほとんどないらしく、ものめずらしそうに商品を見て回っている。

 南監督と慶次君は少々歩き疲れたみたいで、マッサージチェアの体験ブースでひと休みしている。しょうがない。買い物はぼくと修の2人ですませてしまおう。

「延長コード、携帯電話の充電器と、ドライヤーは男女各1本。電動シェーバーは2つあれば足りるかな。電動歯ブラシは一応人数分買っといて、と」

「お、電源がどこにあるかわかんねえから、このコードリールはあった方がいいな。あと念のためモバイルバッテリーも人数分買っておこう」

「O.K.閉店後は暖房切れちゃうかなあ?こたつとかあるといいかも?」

「暖房はどうかわかんねえけど、暖の取り方は別の方法を考えるよ。あんまり重いものを買っちまったら運搬がたいへんだからな」

「そうだね。とりあえず必要最小限のものを買っといて、ほかに必要なものがあったらまた買いにくればいいよね」

「ああ、すみません。ついうとうとしてしまいました。お買い物はもう終わってしまいましたか?」

 南監督が寝癖をつけたまま小走りでやってきて、ぼくらが持っている買い物かごをのぞき込みながらそう言った。

「いえ、清算はこれからっす」

「うん。これくらい買っておけばいいでしょう。じゃあ割り勘にするのもたいへんなので、わたしのアプリでまとめて清算してしまいますね」

「はい。お願いします」

 この清算方法が後にピンチを招くことになるのだが、この時のぼくらはそんなことは考えもしていなかった。

「いえ、かばんがたくさんあるので袋は結構です」

 コードリールを慶次君のバックパックに、そのほかの物資はぼくのキャリーバッグに詰め込んで、ぼくらは電器屋をあとにした。次の目的地は西に100mほど進んだところにあるドラッグストアだ。


「ガッコン」

 重たい金属製の扉が開くような音がして、軽快なファンファーレが鳴り響いた。

「皆様、たいへん長らくお待たせしました。これより第99回クイズDBを開催いたします」

 黒髪を7:3に分け、タキシードを身に着けた男が厳かに告げた。パパよりだいぶ年上で、明らかなDB体型だ。

「クイズ、DB?どこかで聞いたことがありますね」

「いいえ、お客様。名称は似ていますが、このクイズは、あの伝説のクイズ番組とは一切関係ございません。あ、申し遅れましたがわたしは司会を務めます清泉(きよいずみ) 大でございます。みんなからは『きよせん』と呼ばれています。皆様もどうぞ気軽に『きよせん』と呼んでください」

「ふうん、きよせんさんね」

「はい、ただし、『よ』は決して拗音にしないでくださいね。なにやら大人の事情でたいへんなことになってしまうらしいので」

「わかったよ。『きよせんさん』ね。気をつけるよ」

 きよせんさんは満足げに大きく頷いて

「それでは早速ルールを説明いたします。このクイズに参加できるのは『DB』の方のみです。スタートラインに5枠5名のDBに並んでいただいて、クイズの正解がわかった方には、ラビリンス内に設置された2,400mのコースを走っていただきます。早くゴールした方から優先的に回答できるという仕組みになっております」

「え、DBしか参加できないのに、2,400mも走らないといけないの?」

 南監督も慶次君も立派なDBだが、監督は膝を痛めているし、慶次君はラーメンを合計6玉食べたばかりだ。2,400mを走り切るのは無理がある。

「なあ、DBかどうかって誰が判定するんだよ?そもそもDBがどういうもんかって、正直おれ、よくわかってねえし」

「ラビリンス外では、国際DB振興協会(IDBA)が定めた手続きにしたがって、DB認定検査を受けていただき、合格した方にDB認定証を交付しております。ただし、それではこのクイズに参加できる方がごく限定的になってしまいます。そのため、このラビリンス内では、A.I.を搭載したこちらの簡易DB判定機でDBと認められた方を仮認定し、クイズDBにご参加いただけるようにしております。

また、DBの定義についてはIDBA名誉会長 坂本健造氏が執筆したこちらの『DBの起源』に記載してございます」

 坂本健造。ぼくのじいちゃんのことだ。

「重要な部分だけ抜粋してご紹介いたします。ただし一部にグロテスクな表現がございますので、閲覧は自己責任でお願いします。特にお食事中の方は、食事を終えてしばらく経ってから閲覧していただくことを強くお勧めいたします。それでは

『当時、妻が手術を受け、入退院を繰り返していたため、長男 健太は通学途上で営業する食料品店で弁当を購入し、昼食として高校に持参していた。その際、長男は好んでデリシャス弁当を購入していた』」

「デリシャス弁当ってどんなお弁当?」

 やはり慶次君はそこに反応するのか。

「はい。デリシャス弁当とは丼1.5杯分の白米に唐揚げ、白身魚のフライ、エビフライ、とんかつ、ハンバーグ、スパゲッティナポリタン、ポテトサラダを盛りつけたものと記載されております。なお、定価650円ですが、健太氏はいつも夕刻、下校する際に翌日分の弁当を購入していたため、30%オフの455円で購入できた。とされております」

 なるほど、一食当たり455円なら毎日食べてもそんなに負担は大きくないな。

「それでは続けます『毎日のようにデリシャス弁当を食べている長男のことを、クラスメイト諸兄は親しみを込めて『デリシャス君』、『デリ弁君』などと呼んでいた。ところが、ある日ささいなことで長男と口論となったクラスメイトの一人が、思わず『〇リベン野郎』と発言してしまい……」

「げ、〇リベンはひでえな。そいつ、その後でボコボコにされたんじゃねえの?」

「いや、パパは絶対に暴力は振るわないって誓いをたてていたみたいだよ。DBが常人を殴ったりしたら悲惨な結末が訪れるって……」

「はい。その時健太氏は悲しそうな表情を浮かべ、一人でとぼとぼと教室を去っていったそうです」

「おとうさん可哀そう。それで?」

「『それでも長男は愛するデリシャス弁当をあきらめることなく、以前にも増して頻繁にデリシャス弁当を食べ続けた。そんな長男を見たクラスメイトがある日新たな呼称として、デリシャスと弁当の頭文字をとって『DB』を提案するにいたった。この呼称を気に入った長男は、誰に恥じることなく堂々とデリシャス弁当を食べ続け、無事に高校を卒業することができた』

こうして健太氏は、人類史上初のDBとして誰もが認める強靭な肉体を獲得したとされています」

「そんなことがあったのか。むかしパパが言ってた。『DBは身体だけでなく精神も強靭じゃなきゃいけねえんだ』って」

「うん。ぼくも知らなかったよ。周りの人がみんな『DBはデラックスボディの略だ』って言ってたから、てっきり……」

「そういえばその頃DJやMCなど、頭文字をとった呼称が使われ始めていましたからね。『DB』よい響きです。お父さんも嬉しかったんでしょう。そうですか、お父さんにとって『DB』はクラスメイトとの絆の証でもあったんですね」

 南監督は感激のあまり今にも泣きだしてしまいそうだ。慶次君もうんうんと何度も頷いている。


「ねえ、ぼくはそのDB坂本健太の息子なんだ。だから、ひょっとしてぼくもそろそろ……」

「ほう、会長の息子さん……」

 きよせんさんは、ぼくの身体を上から下まで値踏みをするようにじっくりとみつめ、肩やお腹を軽くさわったあと

「確かにDBの素質はあるようですね。では簡易DB判定機で測定をおこなってみましょう」

 そうか、これでいよいよぼくも、子どもの頃から憧れてていたDBになれるかもしれない。

「その前に『DBの定義』はどうなったんだよ?そんな機械でどうやってDBかどうか判定するんだ」

「『DBの定義』は何も難しいことはございません。『常人を一定程度上回る重量と頑健さを有する人物』具体的には『体重(kg)を身長(m)で2回割った数が22をわずかでも上回ること』がただ一つの条件とされております』

「えっと、それってただのBMIじゃあ……」

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