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情報戦

 どれどれ

「あ、ぼくもスキルを修得してる。『推測』か。観察するだけじゃなくて、観察の結果をもとにいろいろ考えろってことか」

「よし、てっちゃん、早速力士のおじさんに『職務質問』のスキルを使ってみようよ」

「そうだね。せっかくだから亜紀ちゃんたちの所に戻って、みんなで情報共有しよう」

「了解。じゃ、あなた。ちょっとこっちに来て。いろいろ教えてもらってもいいかな?」

 慶次君は、急に威厳をただして大男にそう告げた。

「お、お巡りさん、おれはなんにも……」

「時間はとらせないから、ちょっと協力していただけると助かります」

「う、わかりました。おれにわかる範囲でお話しするっす」

 ぼくと慶次君は万が一にも大男が逃げ出さないよう、左右から挟み込んで亜紀ちゃんたちが待つベンチの前に連れて行った。


 みんなはベンチに並んで座り携帯電話を操作していたが、南監督がいち早くぼくたちに気付いて声を上げた。

「慶次君、哲也君、やりましたね。こちらにも対戦結果のメールが届きました。そちらの大きい人はひょっとして?」

「うん。さっきの対戦相手の力士だよ。ぼくが『職務質問』のスキルを修得したからいろいろ教えてもらおうと思って……」

「なるほど、情報収集ってやつだな」

 慶次君の指示にしたがってベンチを2つ用意して大男を座らせ、ツートップに慶次君と修、両サイドに南監督と亜紀ちゃん、自陣最後尾にぼくというフォーメーションで大男を取り囲んだ。

「はい、まずはこれを飲んで。リラックスしてくださいね」

 亜紀ちゃんが自動販売機でゲットしてきたホットココアを銀のお盆にのせて男の前に差し出した。

「あ、ありがとうございます」

「じゃあ、まずぼくから質問するから、正直に答えるように」

 正面からDBの慶次君とこわもての修が圧力をかけ、両サイドの南監督と亜紀ちゃんがなだめ役を務める。こういう時は、飴と鞭作戦が効果的だって、何かで読んだことがある。ぼくの役目は大男が逃亡しないように真後ろをガードすることと、携帯電話のメモ機能を使って記録をとることだ。

「まずは本名と年齢、職業を言って。嘘をついても調べたらすぐにばれるんだからね」

「今野正、33歳、職業は力士っす」

 33歳か?見た目よりは若いんだな。おじさんと呼ぶのはちょっとまずいかもしれない。

「で、早速だけど、2階にも食事をする店はあるのかな?」

 さ、最初の質問がそれか……まあ、慶次君にとっては最優先事項かもしれないけど……

「2階で営業しているのは、喫茶店くらいだって聞いてっるす」

「喫茶店か。おすすめのメニューは?」

「は、はい。パスタはうまくてボリュームもあるって……」

「パスタね。まあ、しょうがないか」

「でも、一度2階に上がったら1階に戻るのは自由だから、フードコートで食事をする参加者が多いみたいっす」

「ああ、なるほどね」

 安心したように慶次君がつぶやいた。

「ねえ、職業斡旋所でお姉さんがお風呂があるようなことを言っていたんだけど、地図には書いてないのよ。正さん、お風呂はどこにあるの?」

「ああ、地下のフィットネスクラブにシャワーがあって、自由に使えるっすよ」

「シャワーか。まあ無いよりはましね。タオルとかシャンプーなんかはおいてあるの?」

「ああ、いや、そういうのはおいてないから、向こうにあるドラッグストアで買って、持って行かねえといけないっす」

「ああ、やっぱり聞いといてよかった。てっちゃん、タオルとシャンプーってメモしといてね」

 うん、まあ亜紀ちゃんだったらお風呂の優先順位が高いのはしかたない。

 慶次君は腕組みをしたまま黙って厳しい表情を浮かべている。無言の圧力ってやつか。

「そろそろ本題に入るか」

 修が身を乗り出した。ああ、ここまでは前置きね。最初に答えやすい質問をして会話が弾むようにするのもテクニックの一つだって聞いたことがあるぞ。

「2階に上がるエレベーターを守ってるのは、どんなやつなんだ?」

「ええっと、はい。エレベーターを守ってるのは、このショッピングモールの支配人と、営業課長その他の幹部職員っす」

「支配人と幹部?なんかやばそうな響きだな。で、そいつらとはどうやって勝負するんだ?」

 正さんはキョロキョロと周りを見渡してから、修の耳に顔を近づけてから囁いた。

「おれがしゃべったことは内緒にしといてくださいよ。ばれたらクビになっちまう」

「わかってるよ。ここだけの話ってやつだ」

 いや、動画が全世界に配信されているけどね。

「2階に上がるエレベーターに乗るには、うちの幹部連中と5人対5人で特殊なゲームをして勝たなきゃいけないって話っす」

「特殊なゲーム?どんなゲームですか?」

 南監督が相手を落ち着かせるようにやんわりと問いかけた。

「い、いやおれも詳しくは知らねえんすけど、誰にでもできるゲームにちょっと制限を加えて難易度を高くしたって」

「ふうん、誰にでもできるゲームって?」

「いや、だから本当に具体的なゲーム名までは知らねえっす。けど『経験がものを言う』とか『今日は運が悪かっただけだ』って営業課長が言ってたっす」

 誰でもできるけど『経験』と『運』が必要か……ぼくは修得したばかりの『推測』のスキルを発動した。

「一度に10人で対戦できて、誰でもできるってことは麻雀や将棋なんかの複雑なゲームは該当しないね。すごろくとかトランプは運の要素が強いから経験がものを言うって感じでもない。じゃんけん?いや……」

「てっちゃん、何かわかった?」

「うん。誰にでもできて、経験がものを言うけど『運』の要素もあるっていうか、相手次第でもあるゲームは、多分……」

「わかりました。では次の質問に行きましょう。最終ボスはどこにいるんですか?」

「最終ボス?主宰のことっすか?いや、それだけは勘弁してくださいよ。じゃなくて、知らねえ。主宰の居場所は誰も知らねえっす」

 正さんは心底おびえているようにイヤイヤと首を振りながらうつ向いてしまった。

「そうですか。仕方ありませんね。ではこのダンジョンの3階には何があるんですか?」

「3階?3階っていうか、屋上には駐車場があって。あ、でも真ん中に小さい部屋があって、あれは倉庫かなんかだろうって……」

「わかりました。とにかく3階には部屋があるんですね」

「ああ、警備員のおっちゃんが言ってたから間違いはねえっすよ」

「では、2階にはどんなお店があるんですか?」

「2階っすか、おれは1階担当だからあんまり行ったことないんすけど、でっかいゲームセンターとかスポーツショップがあるみたいっす」

「スポーツショップか……最近のスポーツショップにはアウトドア用品なんかも売ってたりするからな。よし、2階に上がれたらまずはスポーツショップに行ってみるか」

「よし、任意の職務質問ですからあまり長時間拘束するのも問題ですね。これくらいにしておきましょう。皆さん最後に聞きたいことはありますか?」

 南監督がぼくらを順に見渡して問いかけたが、誰も発言しない。と、それまでじっと黙っていた慶次君が手を挙げて、

「た、正さん、一番近いトイレはどっちですか?」


 いつでも誰でも使えるようにという配慮からか、さすがにトイレの前は誰も守っていなかった。まあこのタイミングで慶次君に勝負を挑むのは運営側にとってもぼくらにとっても不幸な結果しかもたらさないから、賢明な判断だろう。ぼくらも慶次君につきあってみんなで用を足すことにした。


「そういえば、みんなは新しいスキルは修得できたの?」

 ぼくが問いかけると

「わたしは『カード』のスキルを修得しましたよ。ほら、トランプのカードも送ってきました」

「まだ、ハトの出番もないのにねえ。わたしは『ティッシュ』を修得したよ。ほら、ティッシュも段ボールひと箱分」

 ティッシュ配りをして、店の宣伝をしろってことなのか……

「おれは今回はスキルの修得はしなかったよ。それより電器屋はすぐそこだ。早く行こうぜ」

「ちょっと待って」

「てっちゃん、どうしたの?もう1回トイレに行っとく?」

「いや、幹部との対決なんだけど、少し準備が必要だと思って……」

「ほう、どんな準備ですか?」

「ぼくの推測が当たってるとは限らないんだけど。もし当たってなかったとしてもそんなに無駄にはならない。歩きながらできる簡単なトレーニングがあるんだ」

 ぼくはみんなを集めて簡単にやり方を説明したあと、電器屋に向かって歩きながらトレーニングを開始した。


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