プロローグ
「なんだ、ここは?」
夜が明けてから、まださほど時間はたっていないはずだが、閉め切られた暗幕のせいで室内は薄暗い。
「ううう、え?……ぎっ」
唐突に、少し離れたところからうめき声が聞こえた。今のは南監督の声か?そういえば、てつや亜紀ちゃんの姿が見当たらない。
「あいつら、どこに連れていかれた?無事、なのか?落ち着け、まずは状況確認だ。」
周りを見渡すと、水色の服を着て、白いスリッパを履いた中年の男が20人ほどと、足元まで覆う白衣を着て、ゴーグルとマスクを着けたやつらが30人ほど。顔が隠れているため性別や年齢は推測できない。
他人のことを言っている場合ではない。おれもいつの間にか水色の薄っぺらい服を着せられている。携帯電話や財布は見当たらない。
「なんだ、これ?」左の手首のあたりに樹脂製のバンドが巻き付けられている。
「と、とれねえぞ」血流を止めないようにとの配慮か、手首に食い込むほど締めつけられてはいないが、手首から抜くことはできない。引っ張ってもちぎれそうにない。
バンドの一部には固い手触りのものが埋め込まれているようだ。「まさか、発信機か?」
「おい、お前はこっちだ」
頭上からくぐもった声がふってきた。見上げると
「でかい」175cm、90kgのおれより10cm以上は背が高い。盛り上がった三角筋や大胸筋が白衣を突き破りそうだ。
でかい手で乱暴に背中を押され、ベッドの前に連れていかれた。そのままベッドの上に押さえつけられる。見た目に違わず凄い力だ。
「おい、ここはどこだ?おれをどうしようっていうんだ?てつは?亜紀ちゃん達は?」
「騒ぐな」
ベッドの隣には、同じ白衣を着た小柄なやつが座っている。髪はショートカットにしているが、こいつは女か?ゴムのバンドをおれの左腕に巻きつけ、注射器のようなものを取り出した。
「まじか?こいつら、何しやがる?」
おれは必死で起き上がろうとしたが、上体は巨漢に抑え込まれ、ぴくりとも動かせない。左腕は関節が伸び切っているため、思うように力が入らない。太い針が左腕に押し込まれる。
「違う。これは注射じゃねえ。こいつら、おれの血を抜いて……」
急激に血圧が下がり、視界が暗く、狭くなっていく。うすれていく意識の中に、てつと亜紀ちゃんの顔が浮かんできた。
「てつ、すまねえ。亜紀ちゃん、てつを頼ん……だ」