魔王の娘
しかし、そうなると疑問が残る。
「一つだけ聞かせてくれ。なぜそこまでして人間を滅ぼしたいんだ? 何か恨みでもあるのか?」
「別に恨んでなんていないわよ。ただ単に人間が嫌いなだけ。だから滅ぼすのよ」
なるほど……。
彼女が人間を憎んでいる理由は分かったが、その動機までは分からなかった。
ただ単純に人間を嫌っているというだけでここまでのことを起こすとは考えにくい。
何か他に理由があるはずだ。
俺はそのことを聞こうと口を開いたその時、突然背後に何者かが現れた気配を感じた。
咄嵯に身を翻し、刀に手をかける。
かつて俺が勇者パーティで追い求めていた魔王その娘が目の前にいる。彼女から情報を聞き出せたら……
そんな考えが脳裏をよぎる。
「君の名前は」
「私はラティーファよ! あなたもどうせ私の部下になるつもりなんでしょうけど、お生憎様。私は絶対にあなたなんかの下にはならないわ」
「部下だと!?」
俺は彼女の口から飛び出した予想外の言葉を聞いて思わず目を見開いた。
「それはいいからうちまで来ないか」
「嫌よ! 誰があんたなんかと一緒に行くもんですか」
俺が勧誘すると、ラティーファは即座に拒絶した。
まぁ当然の反応だな。
「お前の父親である魔族について知っていることを全て話してくれれば、悪いようにはしないぞ」
「嘘をつくんじゃないわよ。さっきだっていきなり斬りかかってきたくせに」
確かに言われてみればその通りだ。
「それに言ったはずよ。私のパパはこの世界を統べる王なのだって。そしてこの世界を支配するに相応しいのはこの私よ」
「なっ……」
まさかあの男がこの世界の王だとでもいうのか。
俄かに信じ難いことだが、仮に本当だとしたらまずいな。
この女の言葉を信じれば、奴らは本気で人類を滅ぼしかねない。
そうなったらいよいよ厄介なことになってしまう。
どうにかして説得しなければ……。
俺は必死になって頭を悩ませた。
「どうしても教えたくないと言うなら力づくで言うことを聞かせるまでだ!」
俺はそう言いながら抜刀する。
「ふんっ、やれるものならやってみなさい!」
ラティーファは不敵な笑みを浮かべた。