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4、赤髪は白龍に話した

 守り人の役目は、黒龍を守ること。その存在を失わないようにすることだった。なのに人間たちが不穏な動きをするせいで、破滅を破壊するという仕事が増えた。


 あいつらは、魔法を使えない。

 この星の一部である、無垢な精霊たちの愛によって与えられた魔術しか扱えない。子供たちの愛を利用して、自分たちが生きる世界を壊そうとするのだから。


 ――本当に、忌々しい。


 多くの戦場を駆けた。魔術を悪用する者、存在してることが害になる街。そのすべてを、破壊した。

 躊躇いはなかった。

 邪魔だと判断すれば子供であろうと殺す。魔術で改造された命が、苦痛の声をあげるのだから。楽にしてやるべきだろ。


 そうしてたくさんの命を散らした俺は、いつしか殺戮の王と呼ばれるようになった。


「赤髪の精霊を見たら即殺せ。あれは気狂いだ」

「あれは本物の化け物だ。知り合いから聞いたんだが、生まれたばかりの赤子を食い殺したらしいぞ!」

「恐ろしい」

「なんであんな精霊がいるんだ」

「誰かあの赤髪を殺して! 私の子供を狙ってるの!!」


 存在することが罪でしかない人間の、馬鹿げた噂話。真実すらねじ曲げるあいつらを、何度鏖にしようと思ったことか。

 優しい同胞たちが愛する生き物だから、必死に我慢するも。

 やっぱり、存在してることが不愉快だった。


 守り人の中で俺が一番強かった。戦うことが好きだったから、抑止力という役目を引き受けた。


 なのになぜ、殺しが好きだと言われなければならない?


 あまりにも酷い噂に、同胞たちが代わろうか? と言ってくれたが。自分のせいで彼らが傷付くのは、見たくなかった。

 同胞たちはみんな、分かってくれてる。

 力がない己を悔やんでいることも、俺は知っていた。

 だから、堪えた。守り人としてふさわしい在り方を貫き続けた。そしてその先で、運命を見つけたんだ。


 ――美しい黒だった。


 自由に空を飛ぶ。その、あまりにも眩い光景に。気付けば涙があふれてた。心に溜まっていた嫌なものが、一気に洗い流されて。初めて目にした、守るべき存在に――。


「恋を、してしまったのですね」

「……運命だと、思った。誰にも渡したくなかった」


 目の前にいるバレンティアに、俺はあの時のことを話した。今でも鮮明に思い出せる。あの瞬間から、カムラという男は黒龍のために生きたのだ。


「……バレンティア。黒龍は、どうなった?」


 嫁になってほしいと、彼に傷薬を塗っていた時に俺たちは襲われた。あの鎧は帝国のものだった。

 なによりも大切な黒龍を殺そうとしたあいつらは……っ!


「そんな顔をしないでくださいな。ワタシが助けられなかったのはあなただけですよ。帝国の人間はすべて滅ぼしました」


 バレンティアの静かな言葉に、俺は心から安堵した。帝国はもう、どこにもない。黒龍は誰にも害されない。今もどこかで、平穏に生きてるのだと。深く、息を吐いた。


「あれから、何年経ったんだ?」

「千年になりますね」


 そんなにも長い時間を、俺は無駄にしてしまったのか。


 黒龍は、彼はまだ独身だろうか?

 人間という唾棄すべきものに生まれ変わってしまった俺を、愛してくれるだろうか?


 妾の子として、十二年も幽閉された俺は。彼がどこにいるのかをまったく知らない。バレンティアが助けてくれたから、こうして外にいるが……。なぜ黒龍に会わせてくれないんだ。


「バレンティア」

「ええ。あなたがなにを考えてるのか、ちゃんと理解しています。なぜ黒龍のところではなく、ワタシの塒へと連れてきたのか。それを教える前に一つ、約束をしてください」


 ゆっくりと顔を上げた白龍は、最後まで話を聞くことを要求した。

 ……黒龍に、なにかあったのだろうか? やはりもう、誰かと結ばれてしまったのか?

 最後まで聞くと約束して、話してくれるのを待った。



「あなたが恋した黒龍ですが……。四百年前に死んでいます。人間に、殺されてしまいました」



 ……………………はっ?





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