表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

15、古いおとぎ話

 古き時代から、精霊たちは龍と共に生きてきました。けれど、もっと昔には、妖精と呼ばれるものたちが存在した。


 まだ人がいない時、精霊たちに祝福されて一つの命が生まれた。刻む名は、始まりの魔法使い。これから生まれてくる妖精の王となる彼は、特別な力を与えられていた。


『あなたは王様。私たちの新しい仲間は、人に近い生き物!』


 白い肌の、可憐な少女が笑う。

 守護者としての役目を与えられた少年は、世界の意思に触れて、まだ見ぬ古龍たちに敬愛を抱いた。


『僕は、妖精王。たくさんの命を守って、幸せを育むもの』


 いつかやって来る古龍たちのため、この世界を楽園にしよう。すべての愚かさを僕は赦す。妖精も人も間違えてしまう生き物だから、みんなで幸せになれる方法を探そう。


 助け合うことを当たり前にするんだ。自分とみんなに、たくさんの愛をあげよう!


 魔法を使うことができた妖精王は、愛しい民たちの暮らしを支えました。彼らも王の幸せを願って、自分たちにできる仕事を頑張った。

 ここには確かに、楽園があった。もしこの時に黒龍たちが来ていたなら、その素晴らしさに驚いていたはずだ。あの悲劇を、止められたかもしれない。


 だけど、その日は来てしまいました。


『『ごめんなさい、ごめんなさい、我らの王よ!』』


 多くの妖精たちが泣いた。存在する自分たちを嫌って、その命を絶った。なにもかもが、燃えていく。楽園はただの夢だと嗤うように、きれいな願いを灰にした。

 なぜ、こうなってしまったのだろう。

 自分の怒りが、絶望が、呪いへと変わっていく。守らなくてはいけないものを、僕が壊してた。


「……僕は、いない方がいい」


 守護者の役目を、自分は果たせなかった。全部を無駄にした。どうか、どうか僕ら妖精を――。


「許さないで」


 古龍たちがやって来る前の、古い物語。始まりの魔法使いに呪われた妖精たちは、今もどこかで、人に紛れて生きています。


 悪意を隠して笑う、妖精の少女も。

 大好きな赤い青年を求めて、ゲームを進めていく。

 自分の周りにいるものはすべて、使い捨ての道具だった。国も、家族も、妖精王すら玩具のように壊した少女は、自分を愛してくれるものを求める。


「あーあ、もっと早くに会いたいなぁ」


 お城の庭で、王女は笑う。カムラ、と。愛しそうに呟いて、彼の腕に抱かれる想像をした。









 ✡ ✡ ✡









「クロ、寒くないか?」

「大丈夫だよ」


 だってカムラが、隣にいてくれるから。幸せそうに寄り添う二人を見て、アレクは腕の中の魔獣に視線を向けた。


「……お前も、手伝ってくれるか?」

「キュキュ!」


 当たり前だ! と叫ぶようなそれに、彼は笑った。これから自分たちは、国と戦うことになる。黒龍の帰還と、二人の番契約の報告。そして、人間たちへの断罪。

 アレクとクロとカムラ、そして小さな魔獣の旅は、とても過酷なものになるだろう。

 洞窟に残ることになった白龍と合流するのは、四日後。それまでに、二つの国の王を引きずり出さなくてはいけない。クロが暴れないように、カムラが暴走しないように、慎重に立ち回るのはいいけど。

(精霊の国に戻る前には、勘違いに気付いてほしいな……)

 クロは渡さない。これは自分の妻だ。そう睨んでくる赤髪の少年に、アレクは深いため息をついた。


(もうすでに、お前と黒龍は夫婦だよ。よかったな、カムラ。彼に勝つことができて)


 黒龍はどの古龍よりも強く、母の血を受け継いだ存在だ。

 創造主に近いからこそ、彼らの番になった者にも彼女の恩寵が与えられる。

 愛し合う二人に、永遠の幸せを。

 害する者には災いを。

 多くの願いを踏みにじり、命を貪った大罪人の夢は――呆気なく砕け散るだろう。


 ここはゲームに似た、異なる現実だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ