15、古いおとぎ話
古き時代から、精霊たちは龍と共に生きてきました。けれど、もっと昔には、妖精と呼ばれるものたちが存在した。
まだ人がいない時、精霊たちに祝福されて一つの命が生まれた。刻む名は、始まりの魔法使い。これから生まれてくる妖精の王となる彼は、特別な力を与えられていた。
『あなたは王様。私たちの新しい仲間は、人に近い生き物!』
白い肌の、可憐な少女が笑う。
守護者としての役目を与えられた少年は、世界の意思に触れて、まだ見ぬ古龍たちに敬愛を抱いた。
『僕は、妖精王。たくさんの命を守って、幸せを育むもの』
いつかやって来る古龍たちのため、この世界を楽園にしよう。すべての愚かさを僕は赦す。妖精も人も間違えてしまう生き物だから、みんなで幸せになれる方法を探そう。
助け合うことを当たり前にするんだ。自分とみんなに、たくさんの愛をあげよう!
魔法を使うことができた妖精王は、愛しい民たちの暮らしを支えました。彼らも王の幸せを願って、自分たちにできる仕事を頑張った。
ここには確かに、楽園があった。もしこの時に黒龍たちが来ていたなら、その素晴らしさに驚いていたはずだ。あの悲劇を、止められたかもしれない。
だけど、その日は来てしまいました。
『『ごめんなさい、ごめんなさい、我らの王よ!』』
多くの妖精たちが泣いた。存在する自分たちを嫌って、その命を絶った。なにもかもが、燃えていく。楽園はただの夢だと嗤うように、きれいな願いを灰にした。
なぜ、こうなってしまったのだろう。
自分の怒りが、絶望が、呪いへと変わっていく。守らなくてはいけないものを、僕が壊してた。
「……僕は、いない方がいい」
守護者の役目を、自分は果たせなかった。全部を無駄にした。どうか、どうか僕ら妖精を――。
「許さないで」
古龍たちがやって来る前の、古い物語。始まりの魔法使いに呪われた妖精たちは、今もどこかで、人に紛れて生きています。
悪意を隠して笑う、妖精の少女も。
大好きな赤い青年を求めて、ゲームを進めていく。
自分の周りにいるものはすべて、使い捨ての道具だった。国も、家族も、妖精王すら玩具のように壊した少女は、自分を愛してくれるものを求める。
「あーあ、もっと早くに会いたいなぁ」
お城の庭で、王女は笑う。カムラ、と。愛しそうに呟いて、彼の腕に抱かれる想像をした。
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「クロ、寒くないか?」
「大丈夫だよ」
だってカムラが、隣にいてくれるから。幸せそうに寄り添う二人を見て、アレクは腕の中の魔獣に視線を向けた。
「……お前も、手伝ってくれるか?」
「キュキュ!」
当たり前だ! と叫ぶようなそれに、彼は笑った。これから自分たちは、国と戦うことになる。黒龍の帰還と、二人の番契約の報告。そして、人間たちへの断罪。
アレクとクロとカムラ、そして小さな魔獣の旅は、とても過酷なものになるだろう。
洞窟に残ることになった白龍と合流するのは、四日後。それまでに、二つの国の王を引きずり出さなくてはいけない。クロが暴れないように、カムラが暴走しないように、慎重に立ち回るのはいいけど。
(精霊の国に戻る前には、勘違いに気付いてほしいな……)
クロは渡さない。これは自分の妻だ。そう睨んでくる赤髪の少年に、アレクは深いため息をついた。
(もうすでに、お前と黒龍は夫婦だよ。よかったな、カムラ。彼に勝つことができて)
黒龍はどの古龍よりも強く、母の血を受け継いだ存在だ。
創造主に近いからこそ、彼らの番になった者にも彼女の恩寵が与えられる。
愛し合う二人に、永遠の幸せを。
害する者には災いを。
多くの願いを踏みにじり、命を貪った大罪人の夢は――呆気なく砕け散るだろう。
ここはゲームに似た、異なる現実だ。