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13、知らないのは本人たちだけ

 お前の横にいるそいつが……。


「番、なのか?」

「……っ!」


 俺を見た黒龍が、真っ赤な顔になって俯いた。だから俺は、アレクという男に殺意を抱いた。


「(これは、ものすごい勘違いですね)」


 この状況を誰よりも理解していた白龍は、面白そうだからと放置することにしたらしい。

 あとでそのことを知った時は、なぜだ……と絶望した。


「……黒龍」

「うん、久しぶりだね」


 俺の横へと来た少年がにこりと笑った。


「今はクロって名乗ってるんだ。できればカムラにも、そう呼んでほしい」


 俺にも、か……。

 やはりあの男が番なのだな、黒龍。だが俺は、そんなことで諦めたりはしない!









 ✡ ✡ ✡









 サクラを撫でていた手を、止めた。こちらへと近付いてくる気配に、顔を上げる。


「ん? なにかあったのかい?」

「……たぶん、バレンティアだ。あいつの魔力を感じる」


 そこから動かないで、と伝えたい様子だった。僕がここにいることを知って、会いに来たのかもしれない。「キュウ」と鳴いたサクラを抱え直して、立ち上がる。


「ごめん、ちょっと行ってくる」

「待ってくれ。サクラはまだ、古龍を見たことがないんだろ? きっと驚くはずだから、私が持つよ」


 白龍の大きさを思い出して、確かに驚くかもしれない、と。サクラをアレクに渡した。いい子にしててね、と。その頭を撫でておく。


「でも、なんでいきなり来たんだろ」

「導き手が二人も出たんだ。精霊たちの目を借りるのは当然だと思うよ。それにここは、アグナの聖域です」


 なるほど、アグナから聞いたのか。白龍を歓迎するような精霊たちの声に微笑みを浮かべて、洞窟の外へと向かった。外は、快晴だった。

 飛ぶには最高すぎる天気だ。


 真っ白な巨体が、ゆっくりと僕の前へと降り立った。


「……黒龍」

「うん、久しぶりだね。我が友よ」


 僕を吹き飛ばさないように魔法で風を緩め、泣きそうな目をしてる白龍の頭を、伸ばした両手でぎゅっと抱きしめた。


「……ああ。あなたの匂いです」

「うん。バレンティアも、元気そうでよかった」


 固くて冷たい鱗。その下から感じる彼の温もりは、まったく変わってない。僕を傷付けないように顔を擦り付けるバレンティアは、本当に嬉しそうだった。

 一緒に旅するようになって、初めてこんなにも離れたから。きっと辛いことがたくさんあったはずだ。

 帝国を滅ぼしたこと、クロノーズ王国を作ったこと。僕が知らない話は、あとでゆっくりと聞くことにしよう。シズたちのことも、その時に話したい。


「ごめん、白龍。四百年も待たせた」

「そんなのは気にしてませんよ。ワタシたちからすれば瞬きほどの時間です。それより、黒龍。本当に小さいですね。これでは空も飛べないしょう。カムラ探しに熱中するのはいいですが、ちゃんとワタシたちを頼ってください」

「……うん、ありがとう。確かに、精霊たちに頼めばよかったね」


 離れていくバレンティアの頭から手を外した。


「バレンティア、今の状況を教えてほしい。ずっと君たちを探してたんだ」

「その前に一つ、ワタシからあなたに贈り物があります」

「贈り物?」


 なにかを見せるように背中を低くしたバレンティアから、赤い髪の少年が降りた。


「とても驚くと思いますよ。彼は人間になってしまいましたが、ワタシたちには関係ありませんからね。やっと、この時が来ました」


 信じられない気持ちで、十二歳くらいの彼を見つめた。首と手首に拘束されたあとがあって、子供にしては痩せすぎてる。それだけでどんな環境にいたのかが分かるけど、僕のこれは戦士にはいらない心配だ。

 カムラが求めてる言葉は、たった一つだった。

 息を吸って、どこかに逃げてしまった勇気を引きずり出す。大丈夫、僕なら言える。何度も頭の中で練習したんだ。心臓がドキドキして、喉がほんのりと熱くなる。

(ああ、駄目だ。返事がブレスになっちゃう)

 好きなのに、愛してるのに。その言葉を口にできなかった。


「番、なのか?」

「……っ!」


 バッと顔を上げて、カムラを見てしまった僕は、すぐに俯いた。とても恥ずかしい気持ちが、顔に熱を集めてしまう。


(そっか、そっか……。僕ら、もう番なんだ)


 もし尻尾があったら、嬉しすぎて揺れていたかもしれない。このまま喜びの歌を歌いたいけど、それはアグナを助け終わったあとだな。


「今はクロって名乗ってるんだ。できればカムラにも、そう呼んでほしい」


 カムラが番だと言ってくれた。僕のことを、伴侶だと。

 彼の片手を握って、二つの魂を繋ぐ。それにバレンティアが笑って、白い翼で僕らを包み込んだ。


「全部終わらせたあとに、もう一度やらせてくださいね。じゃないとあの馬鹿が拗ねてしまうので」

「うん。その時はよろしくね」

「ええ、もちろん。同胞たちすらも驚くほどに、盛大にやりましょう」


 どういう意味なのか分かってない旦那様には、楽しいことだよっと、内緒にした。





「(黒龍が上機嫌で、カムラは俺を睨んでる、か……。間違いなくすれ違ってるな)」

「キュ?」


 深いため息をついたアレクに、サクラがこてんと首を傾げた。


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