終わりと始まり
白いレースの布地だ。
風もないのにゆらゆらと漂っている。
逆光の中にはシルエットが透けて見えている。見惚れるくらいに綺麗な曲線だ。
下には、か細い脚が大胆にのぞいている。
純白のレースにも負けないくらい、白く眩しく透明感に包まれていた。
「もうそろそろ良いでしょうか?」
鈴の音のような声が聞こえる。
時はほんの少しだけ遡る・・・・
休日にソファーで一人、
のんびりとくつろいでテレビを見ていたら・・・・
「ウッ!?」
急に胸に鋭い痛みが走りだした。
この感じはちょっと不味いかも。
これはひょっとしたら心筋梗塞なのか!?
・・・・
「こんな事もあろうかと♪」
事前に準備は済ませてある。
とは言ったものの、ニトロ薬とかを用意している訳ではない。交通事故や流行り病で急死した際に周りが困らない用に、簡単な書き置きがしてあるだけだ。
資産、書類、手続、連絡先なんかを整理して、目録やチェックリストの用に整理をしてある。よく使う書類入れの目のつきやすい処に入れてあるので、遅かれ早かれ誰かが見付けることだろう。
生命保険は満期前なので、地方なら豪邸が建つほどの金額が降りてくる。残した家族が生活に困る事は無いだろう。それどころか他にも動産、不動産がソコソコあるのでかえって心配だ。
命の危機の割には、冷静で落ち着いているなあ。自分を客観的に観察しながらも、ゆっくりと深呼吸を試してみる。これで治まれば良いのだけれど。この感じからすると、どうもこれは駄目っぽい。
過労には自信があるけれど、
心臓麻痺は嫌だなあ~。
・・・・ふと気が付くと、ソファーに横たわる自分を見下ろしていた。これが幽体離脱と言うものなのだろうか?
「幽体離脱ではありませんよ。」
すぐ側から声がかかる。
いつの間にか少女の姿をした何かが其処に居た。確かにさっきまでは何も無かった所にだ。
見た目は10歳を少し過ぎた位だろうか。
恐ろしく肌が白い。まるでアルビノだ。
目は蒼く、長い髪は銀の絹のようだ。
白いワンピースと銀色の髪が、風もないのにふんわりと漂っている。
「貴女は女神様なのでしょうか?」
人間とは思えない完成された美しさに、女神という言葉が自然と浮かんできた。
「申し訳ないのですが、その質問にはお答えする事が出来ません。」
・・・所謂、禁則事項なのだろうか?
「神の定義が曖昧ですので。」
・・・確かにおっしゃるとおりですね。
「それではお名前をお伺いしても?」
「私は只のユーザーインターフェース。取り敢えずユイとでも呼んで下さい。先ずは此方から説明をさせて頂きますね・・・・」
ユイの話を簡単に要約するとこうだった。
・私は心臓麻痺で死んだ。
・脳死前にナノマシンで治された。
・死体のダミーコピーが用意された。
・ユイもナノマシンも宇宙人の凄い技術。
ムーアの法則というものがある。ざっくり言うとコンピューターは10年で千倍に成長するというやつだ。
この宇宙は137億歳。地球は45億歳。1億年レベルの文化の違いがあれば、それは神様と変わらないという事か。
ユイの説明はまだ続く。
・この宇宙の管理者のようなモノから提案。
・其処にはヒトのようなモノが居た。
・大気中や体内のナノマシンを使い、魔法のような生活をしていた。
・ヒトは多くの亜人や怪物をも創造した。
・愚か者が争い、文明が滅んだ。
・外宇宙になるがそこで新たな生活をしてみないか?
あらゆる意味で断る選択肢は無いだろう。
それでも、確認したいこともある。
「私は其処で何をすれば良いのでしょうか?
やはり、魔王の討伐とかをするのでしょうか?」
「目的は貴方経由の観測ですので、其処に居てくれるだけで構いませんよ。なるべく長期間。出来れば1億年以上で。」
「ご冗談はよして下さい。人間はそんなに生きられませんよね・・・、いや、もしかして、出来るのか?」
「察しが良いですね。そのためのナノマシンです。」
ガイドラインに沿うようにはしていますが、運営からストップが入ったらすみません。