序層 2
「これも何かの縁だと思います、是非とも名前を教えてもらえないでしょうか?」
大通りからそれた暗い、路地裏の奥で名前を尋ねられる。...周りには大の男が二人も苦悶の表情で泡を吹いているカオスな状態だが、マサタケは笑って応える。..少し苦笑いに近かったかもしれないが、
「もちろん。構わないけど、その前にこの状況どうするの?憲兵を呼ぼうかい?」
「憲兵は呼ばないでください!」
子供が明確な拒絶をする。
「...どうしてだ?」
「...私は、この中で一番身分が低いので。
捕まりたくはないんです...」
「?君は襲われたから反撃をしたんだろう?だったら問題ないんじゃ──」
「...ああいう方達は自分達の行使できる権利を誇り、勧善懲悪を謳っています。ですが、本質は弱者からの搾取です。こんな諍いでは、親もいない孤児の私が矢面に立つんです。嫌ですね。」
なるほど。この子は常にそんな環境に身をおいていたらしい。
そして、嫌疑をかけられ、一方的に悪と呼ばれていた。それならば仕方ない。
と、マサタケは思う。
「僕の方から口利きしてもかい?」
そして一言、口添えするとも加えた。イケメンである。
「···いえ、それは結構です。
ああ、それより名前ですよ。教えてもらえますか?」
「わかった。僕の名前はマサタケだ。よろしく。君は?」
「私は、そうですね···リラと呼んでください。」
「え?君女の子だったの?」
「え、いや、違いますよ?私達に正式な名前は無いので。仮の名前でごめんなさい。
さっき一度言いましたけど孤児なんです。親とは、借金の肩代わりとして出されてから一回も会えてないんで。寂しいですね。」
ハハ、っと笑いながらリラは言った。
「なるほど...」
言葉尻から状況が目に浮かぶ。
きっと彼は、両親に売られたあとさっきの人達に買われるところを逃げてきたのだろう。だがなまじ力があったおかげで切り抜けた。そんなところだろうか。
···いや、さっきの口ぶりから察するに親と別れたのは随分前のようだ。じゃあ何故追われていたのか?
幾ら考えてもそれは推測の域からは出ない。これはそういうもんだいなのだから。
だがわかったことがある、
この者は助けられなければならない弱者だ。立場弱者だ。有用なら使う価値がある。
「えーっと、」
「わかった。リラ、僕も君との出会いに縁を感じるよ。だからいつでも頼りにきてくれ。
でも今は急いでるんだ。また今度ゆっくり話そう。
僕は基本的にこの街の冒険者ギルドにいるから是非とも来てほしい。それじゃあ。また。」
「あ...」
そのためには一度別れるべきだ。振り返るべきではない。それが最善だ。早計は愚者がするもの。勇者が愚か者であるはずがない。
身分が卑しくても自分の功罪に恥がなければ表で話すこともできるはずだ。
それに、ギルドに来てもらうほうが話が早く済む。
そう考えたマサタケは、路地裏から大通りへ颯爽と去っていった。
気絶した大男と共に置いていかれた、困り顔の愚者を置いて。