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序層 1

その路地裏では、厳つい顔の大人達が子供を隅に追い込み取り囲んでいた。


その子供は(すす)汚れた格好で項垂れたまま、度々全身が痙攣させている。

3対1の、それも1側がダウンしてる上に追い詰められ、それでいて子供は虚弱児のような(さま)なのだ。誰がどう見ようとこれは、が有利な構図だ。


だが、そこには強面の男が一人泡を吹いて倒れていた。

そして、他の者は、動けない化け物でも見るかのように、恐怖と愉悦、そして憤りを晴らそうとして、だが油断して仲間の二の舞になることも恐れ、手を出すことはなかった。


「お、おまえよぉ、どこから来たんかは知らんがなぁ、うちのもんに手ぇだしといて、ただですむと思うなよ!」


子供がよろよろと顔を上げる。(くま)もあり、何日か寝ていないのだろう。血色の悪い、だが磨けば光りそうな小汚い顔がそこにはあった。


「す、すみません。でもあの人から僕に触れてきたんだ。だから僕になにか言うのもおかしい事じゃない?、って、ッ!」


殴られる。答えだった。明確な敵対意思。許す気などさらさらないらしい。いわゆる面子の問題なのだろう。


血が僅かに飛び散り、子供が足から崩れ落ちる。拳からは血が流れていた。


「いいわけねぇだろうが!、たっぷり落とし前つけて貰うからなぁ。覚悟しろや!」


諦念の表情で子供がぶつぶつと呟く、


「あぁもう、面倒くさいなぁ...別にこんなこと望んでないのにさぁ......ほんと、今からやらないといけないのにタイミングおかしいよね...いつまでたっても人類は学習しないから困るよほんと...」


「お前、何ぶつぶつと喋ってんだよ!今すぐにでもかわいがってもらいたいのか?あぁ??」


そんな中、

風が流れこんでくる。路地裏特有の、生暖かく、湿った、どんよりとした風ではなく、黄金を纏った、全てを包み込み、問答無用に全てを切り裂く、優しくも残酷な風が。


「動くな!」


颯爽とそこに現れたヒーローは、聖剣を携えていた。正義という使命感を持っていた。

だからこそ、勇者。弱きを助け、強きを挫く。優しくもあり、強くもある。当然、運も持ち、時に分け与えるほどだろう。


「よってたかって子供を虐めるなんていただけないな。これ以上この子を傷つけるというなら僕が──」


だがこれは悪手だったかもしれない


「うっ!」


突然、現れた者に気を向けた男がもがき苦しみ出した。頭を抱え、胸を掻きむしり、過呼吸によりまともな呼吸もできず、その場で苦しんでいた。


そしてまた、泡を吹き倒れ伏した。


マサタケはいきなりの展開についていけず、呆然としていた。もう二人の男は既に倒れている奴と同じ状態になったことで理解したのか、絶望の表情を浮かべている。子供は相も変わらず項垂れている。


「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


我先にと二人の男は脱兎のごとく逃げ出す。


「···僕が来なくても良かったみたいだった、のか?··········あっ、君、大丈夫かい?」


聖剣はどこへやら、一応、項垂れている子供に声をかけ、片手を差しのべる。

子供が顔を上げ、一度驚いたような顔をして、そして、何事もなかったかのように手を借り立ち上がる。埃が舞い上がる。それを手で払う。


「あ、あぁ、はい!貴方のお陰で助かりました」


「あれ?!き、君がやったんだよね?僕は通りかかっただけなんだけど....」


「えぇ、でも助かりました」


張り付けた笑みを浮かべ子供が礼を述べる。身なりからは想像できないほどの礼儀の良さだった。


「貴方が来なくては私はきっと、為す術もなく彼等の(なぐさ)み物になっていたでしょう。しくしく」


わざとらしく泣き真似をする。


「ま、まぁ、それは良かったけど、本当に僕は関係ないと思うんだ...」


「ですが、助けられたことは事実なので?

 そうです!これも何かの縁だと思います。あぁ、是非とも名前を教えてもらいたいのですが、だめでしょうか?」



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