Re:アクセス、まだ誰のものでもない
まともなやつじゃあない。
それは、人とかけ離れた、心を持たない全く別の生命体だ。
勇者だなんて言われているがそんな生易しいものではない。
気概が違う。躊躇いの類いが一切なかった。紛うことなき傑物だ。もっと言えばいかれてる。俺ごときじゃ敵いもしねぇや。
たかだか数分、だがそれは数時間とも思えるほど濃密な時間で、張り詰めた空気が俺をゆっくりと、着実に追いかけ、追い詰めてくる。
ちょっとちょっかいかけたぐらいでそんなに怒らなくてもいいだろうがよ。
こっちからしてみれば、後付けだが、探り入れただけで皆殺しにされたことを怨みはすれど、そんな皆殺しにされる謂れなんてないと思うんだがね。··ま、方々からは怨みを買っているからな、殺しの依頼を受けたのなら納得もできるが、多分違う。
アイツは仲間に少しでも手を出したらならず者なんか容赦なく切り捨てるのだろう。市民との区別分けを何かしらで行っている。そうでなければ、ただ力を持ちすぎた同族だ。
仮にも勇者様だ。そうであってほしい。正義を望むのは悪人だって一緒さ。この世の皆が俺等と性根が一緒だったら、粋がってるのが惨めに思えてくるだろう?
そんなことを適当に考えながら、無心で逃げ続ける。直に追いつかれる。これは決まりきった未来だ。モブが覚醒するエンドなどない。これでも身の程をこれでもかと弁えているだったんだがなぁ。
が、それはそれとして、悪あがきだけはいっちょ前にやらせてもらおうか。こちらにも矜持ってもんがありやすからね。···いや、こいつの思い通りに事が進むのが癪なだけか。はっ、
どうせ次がある。
「···っ!!!」
突風が体を突き飛ばす。直線距離に入ってたか、、、
――ドンッ!
そのまま壁に打ち付けられる。肺の中の空気が逆らえずに出ていく。咽る。地に転がされる。
噂話を宛にしたのが間違いだった。やるならやるにしても、まだ別のやり方があった。
だが、騙される奴が悪い。
今回は大分ぼられちまった。
『勇者』が近づいてくる。大真面目なこったぁ。部下に任せりゃいいのによ。
聖剣を構え、振りおろそうとする。お慈悲なしか。情報も吐かされねぇし、無駄な殺傷とはこういうことを言うんじゃないかねぇ。
だが今、この街には『アイツ』が来てやがる。そっちよりは幾らかましだろう。
だから、地に転がされながら、···多少の願望も含みつつ、『最後の一言』を吐き捨ててやった
「おい!お前ぇ!!慈悲のかけらもない勇者!お前は、後数日で死ぬ。予言してやるよ!是非とも俺より悲惨な目にあってくれ!苦しんで死んでくれ!勇者さまよぉ!!」
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「ふンっ!、他愛もない……雑魚がっ!……」
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冒険者と呼ばれる者がいる。
主に、汚れ仕事や、街の雑務、雑用、商会の下請けなどの人々が無意識ながらも忌避する仕事等を生業とし、時たま一般人の手に余る化け物への特攻隊としても使われる職業だ。
それ故に、精通する分野は広いため、職に困ることはない。落ちぶれた者への最終関門でもあるのだ。
しかし、その幅広い形態故、稀に功を得る者もおり、夢見る若者には意外と人気のある職業でもあったりする。
そしてここは、情報共有するため酒場も併設された(無い方が珍しいが)冒険者ギルド❲アトレ支店❳だ。
そこは朝方から、集団で話し合う者達が一角を支配していた。
「ヒヒッ、それにしてもしぶとかったっすね昨日の奴。マサタケ様と相対したとたんに逃げだした臆病者でしたけど。」
そう笑いながら話すのはマヒックと呼ばれるスキンヘッドの輩だ。この面子では下っぱの部類の人間だ。誰も話を聞いていない。
「しかし、マサタケ様大丈夫でしょうか、?奴は呪術士、占術士の類いかもしれないのですよ。解術士に解かせなくてよろしいのですか?」
さも本当に心配をしているように見せている、魔導士風の男は、この町のギルドにおいて、元ナンバー2だったエリックだ。
「マサタケ様に低級の呪いなんか効くわけないだろう。それで今日の予定はどうされますか?」
主を盲信しており、この冒険者ギルドの紅一点でいて、実績すらも他を圧倒しナンバー1であり続けていた優秀な女戦士、ヒリアが秘書のように隣で佇む。
そして、その中心で座っている、
その子は端から見たら少女のようにも見える。
風もないのにたなびく髪は陽の光を受けて美しい黄金色で輝く。
その両腕で抱えている聖剣から見ても小柄なことが分かるだろう。
今代の、剣の勇者だ。
「心配してくれてありがとう。僕なら大丈夫だ。そしてすまないが、宿に帰ってもいいかな?
ついでに、出来れば離れてくれると嬉しいのだけれど」
「おらおらどけどけ!邪魔するなら殺すからな。さあ、マサタケ様行きましょう!ご一緒します!」
「ヒリア、君もだからね?」
残念そうに去り、そして日銭を稼ぎにクエストを受注する彼等の背を見てから、『マサタケ』は建物から出ていく。
宿は少し離れた、ギルドから徒歩で十五分程の場所にある、設備が良く整った宿だ。
野蛮な者の多いギルドの近くに構えるはずがない。
そもそも、外部の人間を受け入れる宿は、冒険者を受け入れたりしない。だが、勇者たるもの一般人とは待遇が違う。当然だ。勇者なのだから。
街中を歩く『マサタケ』の背に聖剣は担がれていない。代わりに、大事なものを護るかのように、両手で何かを包み込んでいる。首から下げたそれはアクセサリーか何かだろう。傍から見ればただのお使い帰りの子供にしか見えない。
そのため、歩いていても歩行人として違和感の無い風になっている。監視する者もいるにはいるが。関係ない。
潮風で時折髪がたなびく。実に平穏な街だ。港町特有の活気づいた朝は過ぎ去り、昼間ののんびりとした雰囲気が包み込んでいる。いつも通りのそんなデイタイムだった。
ピクッ―――――――
路地裏からは不穏な風が吹いてきた。微かな呻き声と共に流れていったそれは、おそらく一般人であれば、感じ取れず聞き取れなかっただろう。
一人の主人公は、一般人として路地裏へと入り込んだ。駆け足で進む。
歯車は動き出した。
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